【薬学会年会シンポ】6年制薬学教育の成果と今後の課題

2013年5月1日 (水)

薬学生新聞

実務実習

1期生 「自分の将来像」描ける‐上司 現場一体の取り組み重要
教育や薬剤師の将来を総合的に討論した

教育や薬剤師の将来を総合的に討論した

 日本薬学会第133年会が3月27日から4日間、横浜市のパシフィコ横浜を主会場に開かれた。4日目のシンポジウム「6年制薬学教育の成果と今後の課題」では、6年制1期生として保険薬局や病院、製薬企業で1年間勤務した新人薬剤師とその上司が、6年制薬学教育課程の成果と今後の薬学教育に望むことについて、実務実習を中心に話した。

 新人薬剤師で望星薬局(築地)に勤務する清水美希さんは、6年制教育のメリットとして「臨床現場との交流」を挙げ、母校である北里大では各学年に現職薬剤師の教育参画や現場体験が行われ、それが5年次の実務実習に集約されていく仕組みがあることを紹介。このため、座学中心の学習を通じ実務実習の流れが分かり、実習を体験することで、病院と保険薬局の業務の違いを身をもって理解することができ、「自分の進むべき将来像が、就職先を選ぶ前からイメージできるメリットがある」と振り返った。

 課題としては、薬局薬剤師としての責任の重さが、免許取得後に初めて強く実感できたことを挙げる。現行の実習生は免許がなく取り組める業務に制限があり、真のプロフェッショナル精神を習得するのが難しい現状を指摘。今後は大学教育と現場との融合機会を増やし、学生時代から臨床感覚を養える機会づくりが必要とした。

 店舗は異なるが、その上司に当たる堀口雅巳氏は、6年制薬剤師の評価として、▽臨床知識や医療用語が理解できる▽実習を経験し業務内容の理解が早い▽プレゼンテーション能力が高い▽新人薬剤師教育が大幅に削減できた――ことを挙げた。また、「薬局の中には即戦力を期待したが、期待外れだった」との現場からの声に対しては、「2年間卒業生がいなかったための過度な期待があったのではないか」と述べた。

年会最終日にもかかわらず多くの人が参加した

年会最終日にもかかわらず多くの人が参加した

 今後の教育のあり方については、大学と医療現場が十分な意思疎通を図り、「臨床に関わる実践的な能力」と「医療人としてふさわしい質の高い薬剤師」という目標に向け努力する必要があるとした。

 新人の病院薬剤師として岡山大病院の白石奈緒子さんは、清水さん同様、実務実習で自分の将来像が具体的に描けるメリットを挙げる一方、「臨床現場の絶対的な経験値が足りず、即戦力にはならない」とすると共に、「コミュニケーション能力の足りなさを就職して実感した」ことを課題とした。

 ただ、学生時代の“研究生活”で培った「答えがないものに答えを出す。あきらめないことの大切さ」が就職後に役立つと話す。学生に対し「単位が容易に取れる授業・研究室を選ばないこと。そして、リサーチマインドを持って」「研究生活を通して自分の頭を育ててほしい」と訴えた。大学に対しては、「他大学の薬学部や医学部、看護学部など他学部との交流をもっと図ってほしい」と要望した。

シンポジウムの座長

シンポジウムの座長

 上司の北村佳久氏は、「従来の『Aさんのリウマチを治す』から、現在は『リウマチのAさんを治す』というように、治療は疾患中心から個人に移行している。治療は個人差が大きく、薬剤師には問題抽出能力が求められる」とした上で、「問題解決能力の醸成」を課題として挙げ、卒前卒後教育では「想像力の育成」が必要とした。

 ノバルティスファーマのMRとして就職した阿部淳一氏は現在、岩手県盛岡市に配属され、沿岸部を中心に30程度の医療機関を担当している。被災地を回っていると、生活習慣病の患者が多くいることを実感、仮設診療所の医師と患者や治療に関して話し合う中でだんだんと信頼関係を築けてきた。「医師と薬剤師が患者という同じ方向を向いていたから構築できた。これからも、医師のパートナーとして患者に貢献していきたい」と想いを語った。

 上司に当たる石川裕子さんは、直接的な関係はないものの、多くの上司へのインタビューから、6年制薬剤師は▽医療現場の理解が深い▽実務実習が仕事に生かされている▽専門性が向上している――などの特徴があるが、「一部の薬剤師MRに、専門的なことはやるが、ビジネスへの意欲がない人がいる」と苦言を呈した。

 大学側に対しては、▽実務実習の中で多職種と関わることは、社会人としての幅ができる▽6年間に薬学部以外の他学部との交流を図ることで、多様な経験を積みコミュニケーション能力を高める▽広い視野を持ちチャレンジ精神を育む▽好奇心を持つ――などの教育が必要とした上で、「日本ばかりでなく、世界でも医療のパートナーとして認められ、信頼される薬剤師に成長するための基盤をつくってほしい」と語った。



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