【慢性期医療と薬剤師】No.4 知命堂病院慢性期病棟での薬剤師の取り組み

2016年5月1日 (日)

薬学生新聞

医療法人知命堂病院薬剤科長
武藤 浩司

武藤浩司氏

 知命堂病院は新潟県上越市(旧高田市街地)を診療圏とする慢性期医療を中心とした病院で、現在の地に「知命堂(ちめいどう)」の名称で医院を開業し、本年で145周年を迎えます。病床は145床で、障害者施設等入院基本料算定病棟(以下、障害者病棟)46床、療養病棟入院基本料算定病棟(以下、療養病棟)99床、また併設施設として介護老人保健施設くびきの(以下、老健)96床、地域包括支援センターたかだ、居宅介護支援センター、訪問看護ステーションを有し、病院・介護連携を図って地域に必要な医療や介護を提供しています。

 現在、薬剤師は常勤3人、非常勤1人、調剤助手は2人の体制ではありますが、高齢者に適した薬物療法を行っていくため、腎機能に応じた薬物療法の提案、定期的に検査が必要な薬剤に対するモニタリングと検査提案、処方提案の実施、多剤投薬や残薬問題など、最適な薬物療法に向けての取り組みを実践しています。さらに、今求められている医師の負担軽減、チーム医療への関与についても、薬剤師の人数が少ない中で積極的に取り組んでいます。

 発展途上のところもありますが、慢性期医療での業務の一例を紹介します。

じっくり患者と向き合う‐慢性期では総合力が必須

 平均在院日数が短期間である超急性期・急性期医療とは異なり、慢性期医療の特徴は急性期・回復期での治療を終えた患者さんの後方支援です。入院から退院まで時間を要する患者さんは多く、病棟薬剤業務や薬剤管理指導業務を通じて、患者さんの治療経過を詳細に追うことができます。じっくりと患者さんと向き合える時間があること、ご高齢の患者さんでは多疾患・多種類による薬物療法を行う場合もあるため、1つの診療科の知識だけでなく総合力を求められることが特徴です。

 さらに、医師に薬物療法の相談や処方提案を行うだけでなく、その後の経過確認を含めて医師と薬物療法を協議していけることも薬剤師の務めであり、魅力でもあると実感しています。

 また、厚生労働省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」(2010年4月30日)において、多種多様な医療スタッフが専門性を発揮しつつ、情報を共有して分担、連携していくことによって患者の状況に的確に対応した医療を提供する「チーム医療」の推進が求められています。薬剤師では取り組むべき9項目の業務例が挙げられていますが、急性期病院だけでなく慢性期医療を担う病院においても実践すべき内容が多々あります。

担当薬剤師が医師の回診に同行している

担当薬剤師が医師の回診に同行している

 例えば、当院では意思疎通が困難な寝たきり患者さんが入院されることもあり、直接会話できない中でも持参薬鑑別業務の中で診療情報提供書や薬剤管理サマリーの確認、薬剤の相互作用や副作用確認など薬学的管理を行い、医師に必要な情報を提供し、協働で最適な薬物療法に向けた取り組みを行っています。障害者病棟や療養病棟では担当薬剤師が医師の回診に同行するほか、カルテの経過記録確認、処方監査、検査確認など薬学的管理を通じて、薬物療法の有効性の確認や副作用防止に取り組んでいます。

図:ポリファーマシーによる負のスパイラル

 16年の診療報酬改定では、医療費の増大、多剤処方、残薬問題などが重なり、薬剤総合評価調整加算、薬剤総合評価調整管理料が新設されました。高齢になると様々な疾患を有し、ADLやQOL低下、さらに対症療法による投薬もあって、6剤以上の服薬により薬物有害事象や転倒転落のリスクが高まるなど、ポリファーマシー()に関する問題が報告されています。こうした背景から、多剤投薬による残薬やアドヒアランス低下の改善を目的として、入院時や外来診療において内服薬を6種類以上服用している患者さんのお薬を医師と薬剤師が協働して見直し、2種類減薬された場合には評価される仕組みができました。

 以前から障害者病棟、療養病棟、老健にて医師と協働で減薬に取り組んできましたが、これからも減薬ありきではなく、本当に必要な薬を医師と一緒に検討しつつ、適切な薬物療法を推進したいと考えています。

「働く」から「端楽」へ

 慢性期医療や高齢者医療を担う薬剤師としてこれまで取り組むことができたのは、鳴門山上病院薬剤部の賀勢泰子先生をはじめ、学会などで多くの先輩薬剤師と出会えたからです。患者さんの生活、嚥下機能や肝・腎機能など、高齢化に伴う身体的な変動に配慮した薬物療法のシフトチェンジが行えるように医師や他医療職種と協働で取り組み、患者さんやご家族に寄り添える医療を提供したいと考えるきっかけをいただきました。

 生涯自己研鑽を続けて、患者さんを中心としたチーム医療を推進していくため、病院薬剤師として「働く」から「端楽(はたらく)」へ、つまり周りの方々が楽になる、楽しむことができるように、患者さんやご家族が服薬指導、服薬支援、お薬の見直し、残薬整理などを通じて生活が楽になるように、薬剤師の専門性を発揮していくことによって医療スタッフの負担を軽減できるように、今後も慢性期医療を担う薬剤師として「はたらく」取り組みを続けたいと思っています。



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