第101回薬剤師国家試験を振り返る

2016年5月1日 (日)

薬学生新聞

医学アカデミー薬学ゼミナール学長
木暮 喜久子

 6年制薬剤師を輩出する5回目となる第101回薬剤師国家試験は、2016年2月27日(土)、28日(日)の両日に実施された。受験者総数1万4949人、総合格者数1万1488人、総合格率76.85%で、100回に比べ総合格率が13.68%と大幅に上昇した。過去10年間で1万人を超える薬剤師の輩出は、2回(93回、94回)あったが、101回は、これら2回をさらに上回り、最も多い薬剤師を輩出したことになる。

 [表1][]に示すように6年制新卒の合格率は、86.24%(合格者数7108人)で、100回に比べて13.59%高くなっている。また6年制既卒は67.92%(合格者数4201人)で、100回に比べ14.80%高かった。その他(旧4年制卒、4年制卒を含む)も34.29%(合格者数179人)と100回と比べ高い割合を示した。

 これらの結果は、「薬ゼミ自己採点システム」(最終集計数1万0482人)の傾向とほぼ一致した。第101回薬剤師国家試験は、15年9月に「合格基準」が改訂されたこと、99回や100回に比較して、既出問題がそのまま再出題されるなど、解答しやすい問題が多く出題されたことなどから合格率が上昇したと考えられる。

 しかし、「基礎力」「考える力」「医療現場での実践力」を問う問題は継続して出題されており、問題解決能力や臨床能力を持つ6年制薬剤師に対する期待を感じさせる傾向は続いている。

 17年春に実施される第102回薬剤師国家試験は101回と同様の傾向であるが、より実践力・臨床能力を問われる問題が多くなると思われる。また101回よりやさしくなることはないであろう。

1 第101回薬剤師国家試験の総評と102回の合格に向かって

 第101回薬剤師国家試験の平均点(換算点)は、[表2]に示すように、合計(345問※1)では、100回に比べ9.34点(3.1%)上昇し、「必須問題」、「理論問題」、「実践問題」のいずれも100回より高い結果であった。「薬ゼミ自己採点システム」による101回の領域別正答率は、99回、100回と難易度の高かった「物理・化学・生物」の基礎系は100回をわずかに上回り、「法規・制度・倫理」が100回を大きく上回った。また、今まで比較的点数の取りやすいとされていた「薬理」がわずかに100回を下回っている。

 1)既出問題の出題は全体の20%ぐらいとされ、単なる正答の暗記による解答が行われないように、問題の趣旨が変わらない範囲で設問及び解答肢などを工夫することになっている。99回と100回では既出問題そのままの再出題はなかったが、101回では再出題が「物理」と「衛生」で出題された。また、既出問題に類似した内容の出題も増加し、多くの受験生にとって解答を導きやすいものとなった(表3参照)。既出問題を解くこと傾向をつかむために重要であるが、答えを丸暗記するのでなく、参考書などで周辺の知識もしっかり勉強してほしい。

 2)コア・カリの改訂により、19年からの長期実務実習中に必ず体験してほしいとされる「代表的な疾患※2」が発表されているが、101回では実践問題で多く出題されていた。また処方箋に検査値が付与された経緯を踏まえた検査値を読み取って解答する問題も出題されていた。このように「複合問題」と「実務」を中心に、より医療現場での実践的な内容、臨床判断を要求する内容、添付文書からの出題、症候診断、ガイドラインに基づいた薬物療法についてなど、臨床的知識を問う問題は今後も継続して出題されると考えられる。

 現在、チーム医療の一員として、医療現場で必要とされる生きた知識や技能を身に付けた薬剤師が求められている。多くの大学では、問題抽出・解決型の講義であるPBL(Problem-baced learning)やTBL(Team Based Learning)の実施、バイタルサインが読める薬剤師能力の開発やフィジカルアセスメントのできる薬剤師を育成するための臨床実習を実施しているが、さらに在学中にチーム医療の一員としてのコミュニケーションスキルを身につけるための多職種連携教育(IPE:Interprofessional Education)の導入が進められている。

 薬剤師国家試験もこれら臨床現場でのニーズを背景に、「基礎力」を必要とする問題だけでなく、「考える力」「問題解決能力」を必要とする問題が増加すると思われる。薬剤師国家試験の合格に向けて、6年間で学んだ薬学の理論と知識を臨床現場に応用する力が求められるため、国家試験参考書などを用いて基礎科目(物理、化学、生物)から、なるべく早く勉強を始めることが大切である。その後、複合問題対策を実施し、応用力を身につけてほしい。

 ※1 第101回薬剤師国家試験は2問の解なしがあり、「採点から除外する」ため、合計は343問となる。

 ※2 「代表的な疾患」:がん、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症(薬学実務実習に関するガイドライン 2015年2月 文部科学省)

2 薬剤師国家試験の概略と102回に向けての対策

 国家試験は、必須問題(90問)と一般問題(255問)の合計345題である。出題試験領域は「物理・化学・生物」「衛生」「薬理」「薬剤」「病態・薬物治療」「法規・制度・倫理」「実務」の7領域である。試験は、領域別に行うのではなく、薬学全領域を出題の対象として、「必須問題」と「一般問題」とに分け、さらに一般問題を「薬学理論問題」と「薬学実践問題」とした3区分で行われる(表4参照)。それぞれの出題区分は下記のような問題内容で出題される。

 1)「必須問題」は、全領域で出題され、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確認する問題であり、共用試験と同様の五肢択一の問題である。また「必須問題」は、一般問題に比べて比較的正答率が高い問題が多く得点源である。「必須問題」は、80~90%の得点率を目指して勉強してほしい。また[表4]に示すように、足切りを30%に引き下げたことや、100回まで足切りにかかる受験者が多かった物理・化学・生物が101回では83.4%(薬ゼミ自己採点システムより)と高い正答率であったため、今回は足切りで不合格になった受験者は少なかった。

 2)一般問題の「薬学理論問題」は、「実務」を除く全領域で出題され、6年間で学んだ薬学理論に基づいた内容の問題であり、難易度は必須問題より高い。101回は薬理が例年より正答率が低く、治療は症例・処方の問題が多く、検定の問題の難易度が高かった。例年通り、物理、薬剤、実務を中心にグラフ・計算問題が多く出題され、化学は医薬品構造式に関する問題が多かった。今後もこの傾向は変わらない。

 3)一般問題の「薬学実践問題」は、「実務」のみの単問と「実務」とそれ以外の領域とを関連させた連問形式の「複合問題」からなる。「複合問題」は、症例や事例を挙げて臨床の現場で薬剤師が直面する問題を解釈・解決するための資質を問う問題で、実践力・総合力を確認する出題である。101回の複合問題には、科目をまたいだ4連問(薬剤、薬理、2題の実務)が出題され、現場で起こり得る事象をもとにした実践的な問題が出題された。今後も長期実務実習の成果を問う実践的な問題は継続的に出題されている。

 4)薬剤師国家試験は2日間で実施され、「必須問題」は1問1分、「一般問題」は1問2.5分で解くことになっている。時間配分を考えて、難易度の高い問題を飛ばし、解きやすい問題から解くのもよいであろう。

 5)101回から適応された改訂後の合格基準を[表4]に挙げている。合格基準は一部改訂され、これまでの「総得点率65%以上という絶対基準」から「平均点と標準偏差を用いた相対基準」に変更となり、必須問題を構成する各科目の足切りを50%から30%に引き下げたほか、35%に設定されていた理論・実践の各科目の足切りは廃止となった。しかし「当分の間、全問題への配点の65%以上であり、かつ、他の基準を満たしている受験生は少なくとも合格となるように合格基準を設定する」とあり、101回はこの基準で合格者が発表になった。

3 科目別総評と科目別102回の傾向

■「物理」

 難易度は「必須問題」は中等、「理論問題」は難、「複合問題(物理)」はやや難であった。必須問題は、100回と比較して知識を確認する問題が多かった。理論問題の物理化学は、グラフや文章から答えを読み取る問題、化合物の構造から判断して計算する問題など非常に難解であった。

 一方、分析化学は局方関連の問題が多く、特に定性・定量の範囲は、広く・深い知識を必要とする問題であり難易度が高かった。実践問題の物理は、難易度がやや高く、実務は標準的な問題であった。既出問題からのアプローチを変えた問題もあるが、計算問題、グラフの問題、深い知識が求められる問題、他科目の知識を用いて解答を導く問題、新傾向問題が出題されており、全体を通じて難易度は高かった。今後も、医療現場で用いられている薬以外に、センサーの原理など物理学的事象からの出題が予想される。

■「化学」

 難易度は「必須問題」は平易、「理論問題」はやや難、「複合問題(化学)」はやや平易であった。既出問題を理解していれば解答はできる問題が多く出題されたが、応用力を必要とする選択肢も散見された。また、100回同様に全体を通して化学構造に関する問題が多く出題された。生薬成分に関する問題では、化学構造だけでなく、副作用や毒性に関連する内容も問われた。今後も、化学の基本的な知識を応用する問題や考える力を要する問題が、医薬品などの構造を題材にして多く出題されると予測される。

■「生物」

 難易度は「必須問題」は平易、「理論問題」は中等、「複合問題(生物)」はやや平易であった。機能形態学、生化学、分子生物学は偏りなく出題され、免疫学が例年より多く出題された。理論問題を中心として、図表、グラフなどを用いた問題が多く出題された。既知遺伝子の発現をRT-PCR法により検出する実験操作と考察が出題された。

 また、6年制薬剤師国家試験になって初めてアミノ酸の構造が出題され、ヒトパピローマウイルスが生物では初めて出題された。100回に比べ必須問題と理論問題の正答率は高かった。今後も図表やグラフを用いた応用力を必要とする問題の出題が予想される。

■「衛生」

 難易度は「必須問題」はやや難、「理論問題」「複合問題(衛生)」はいずれも中等であった。必須問題は、既出問題と類似した出題様式・内容が多いが、新記述や注意を有する問題もあった。遺伝子組み換え食品として販売・流通が認められていない食品、メチル抱合における供与体が初めて出題された。理論問題は、既出問題をベースにした出題が多いが、グラフ・図・構造式を読み取り、考えさせる問題が多く出題された。

 実践問題は、既出問題をベースにした出題内容が多く出題されたが、100回より難易度は少し高かった。食品表示法の施行、食事摂取基準2015年版を踏まえた問題や話題となった感染症としてエボラ出血熱やMERS(中東呼吸器症候群)も出題され、今後も最新の話題を意識して勉強する必要がある。

■「薬理」

 難易度は「必須問題」「複合問題(薬理)」はいずれも平易、「理論問題」は中等であった。例年通り未出題薬物や現場で使用されている薬物が出題されているが、既出薬物の知識で正誤の判断ができる問題が多く、解答は可能であった。しかし、出題形式がいままでに見られなかった形式に変わっているものや、以前より詳細な機序の内容を問う問題が増えている。

 また、近年の問題(97~100回)をモディファイしたものや、既出の理論問題の文章を必須問題へ転用する出題(類題)も見られた。従来と問い方を変えた問題も出題された(pA2値の比較の問題)。今後の対策としては、既出問題の丸暗記だけでなく、周辺知識と共に理解することが求められる。

■「薬剤」

 難易度は「必須問題」は平易、「理論問題」「複合問題(薬剤)」はいずれもやや難であった。

 必須問題と理論問題は、既出問題の出題内容を理解していれば解答できる問題であった。実践問題は、現場での問題解決能力を意識した出題であった。実践問題では、処方や患者背景より適切な薬剤を選択する実践的な問題や実務、薬理、薬剤の3科目を組み合わせた総合的な問題解決能力を求める連問が出題された。

 また計算問題は多く出題され、出題数は100回国試に比べ必須が増加、理論・実践が同等であった。計算問題については、公式を覚えるだけでなく、応用できる知識を身につけることが必要である。

■「病態・薬物治療と情報」

 難易度は「必須問題」は平易、「理論問題」「複合問題(治療・情報)」はいずれも中等であった。全体的に例年に比較して解答しやすい問題が多かったが、詳細な知識が必要な現場重視の問題や抗悪性腫瘍薬の副作用の注意点を問う問題などのやや難解なものも含まれていた。理論問題は、例年通り情報・検定が6題と多く出題され、罹患率を計算する問題や多重比較検定のような検定の詳細に触れるものがあり、新傾向で難易度が高いものもあった。

 また、例年に比較して症例、処方の問題が多く出題されており、糖尿病検査のような臨床検査を読み解答するものなど、実践的な力が問われるものが多く出題されている。処方箋に検査値が記載されるようになった昨今、検査値の意味も意識して勉強することが重要である。

■「法規・制度・倫理」

 難易度は「必須問題」は平易、「理論問題」「複合問題(法規)」はいずれもやや平易であった。

 必須問題は、医薬品開発の範囲が例年と比較して多い(3問/10問)が、それ以外は万遍なく出題されている。理論問題では、出題範囲に偏りはなかったが指定薬物は3年連続での出題となり、図を活用した問題で視覚的に問題をとらえる内容も出題されており、100回からの流れが感じられた。

 新傾向の問題としては、14年の薬剤師法改正点、未出題内容の薬害、既出知識の対話形式として出題、法改正内容、省令の根拠法を問う出題が挙げられるが、既出問題の知識で解答が導けるものが多かった。今後も法改正を含めた広い範囲での勉強が必要になると考えられる。

■「実務」

 難易度は「必須問題」は平易、「実践問題(実務の単問)」は中等であった。必須問題は、「概念・リスクマネジメント」など薬剤師の資質に関する出題が約半数を占めていたため、出題範囲の偏りが見られた。特に、「概念・リスクマネジメント」の出題が目立つ理由は、薬剤師が関係する医療事故や化学及血清療法研究所の承認外不正製造問題などが反映されていると考えられる。

 実践問題(実務単問)は、計算問題が4問、副作用や禁忌に関する問題が3問、既出問題ベース問題が8問であった。また実務実習内容の経験を問う内容でイラストや写真を活用する問題の出題があった。実務実習で学んだ内容を振り返りながら学習していくことが重要である。

■「複合問題」

 実践問題(複合問題)は、例年通り循環器系疾患、呼吸器系疾患、代謝性疾患(糖尿病)が多く出題されており、100回と比べて悪性腫瘍の出題数が増加した。検査値を問う問題が増えていたのは、処方箋に検査値が記載され、今後の薬剤師にその値を踏まえた服薬指導が期待されているためと考えられる。また科目を跨いだ連問(例:薬剤・薬理・実務2題の連問、治療・法規・実務2題の連問)が出題されており、現場で起こり得る事象をもとにした実践的な問題になっている。今後は、実務とのつながりだけでなく、科目をまたいだ知識の習得が求められる。



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