【薬剤師になる前に~今だからOTC医薬品を学んでおきましょう!】第9回 OTC医薬品概論(3) “胃腸薬・便秘薬・止瀉薬”

2016年7月1日 (金)

薬学生新聞

(株)スギ薬局、日本薬剤師会一般用医薬品等委員会委員
藤田 知子

藤田知子氏

 日本三大薬草と言えば、「ドクダミ」「センブリ」「ゲンノショウコ」。これらは、日本中いたるところに見られ、昔から身近な民間薬として親しまれています。胃腸にかかわる病気に対応しており、日本人の不調を自然の恵みとして癒してきました。日本の薬の歴史から日本人は胃腸病に悩まされていたことが分かります。今回、胃腸障害に関連して胃腸薬、便秘薬・止瀉薬を取り上げます。

胃腸障害に悩まされてきた日本人

 胃腸薬の成分には、胃酸を中和する制酸剤、胃の粘膜を修復・保護する胃粘膜修復剤、胃酸分泌を抑制するH2ブロッカー、鎮痛鎮痙作用を持つ抗コリン剤、胃の働きを改善する消化管運動改善剤、健胃生薬、その他には消化酵素剤、利胆剤などがあります。そして、医療用からスイッチされた第1類医薬品のH2ブロッカーを除き、複数の成分を配合しています。どの胃腸薬を選ぶかは、まず胃の症状(胃がもたれるなどの顧客の訴え)から胃がどんな状態にあるのか(胃酸過多?消化不良?それとも?)を推測し、適合する成分を選びます。そしてその成分が配合されている胃腸薬を選択します。

 しかし、制酸剤と健胃薬のように反対の作用を持つ成分を同時に配合している医薬品があります。相反するように見えますが、実は、健胃薬である消化酵素成分が胃酸で失活せず、有効に働けるようにと制酸成分が入っているのです。症状から成分を選択した後は、その人の既往歴、現病歴、服用薬にも考慮してさらに絞り込んでいきます。前立腺肥大症、緑内障の現病歴を持っている人には、ロートエキスなどの抗コリン剤は勧められません。また、塩分を控えている人、血圧が高い人は制酸剤である炭酸水素ナトリウムの「ナトリウム」も避けたほうがいいでしょう。それから、胃酸過多による胃の痛みを改善するためH2ブロッカーを長期服用していると、胃潰瘍や胃がんが発症しているのを見逃してしまうケースがあり、注意が必要です。H2ブロッカーは第1類医薬品です。しっかりと症状確認、情報提供の際には、こうしたケースを起こさぬよう、医療機関で胃の検診を勧めるようにします。

 次に、便秘薬です。大腸を含む消化管に疾患がある場合や便秘を起こしやすい薬剤を服用していてOTC医薬品を勧めにくい場合は受診勧奨を要します。それ以外は生活習慣の影響が多く、セルフメディケーションの範疇です。便秘の症状は、単に便が出ないというだけでなく、腹部膨満感、腹痛、食欲低下、肌荒れなどの諸症状を伴います。それらも合わせて相談対応する必要があります。便秘薬の成分には、緩下剤(塩類下剤、膨潤性下剤、湿潤性下剤、刺激性下剤など)、漢方薬、乳酸菌などの整腸薬があります。整腸薬は、あとの止瀉薬で説明します。まず、便秘のタイプを体系立ててそれぞれにある成分を選びましょう。

 1つ目のタイプは、大腸が動かないので腸内の水分が過剰に吸収され、便が硬くなって出にくい、お腹が張り冷え症も引き起こすという女性や高齢者に多いタイプです。2つ目は、結腸付近が過度に動いたり攣縮するために、直腸まで便が運ばれなくなってしまう状態です。精神的ストレスや旅行先など環境の変化が原因となるタイプです。これら2つのタイプには、腸内に水分を保持し、便のボリュームを上げ、かつ軟らかくして排便しやすくする働きのある塩類下剤、膨潤性下剤、湿潤性下剤が有効です。3つ目は、直腸の排便反射機能が正常でなく、直腸内に便がたまってしまう状態です。高齢者、寝たきりの方、浣腸を連用している方によく見られるタイプです。この場合は、腸管を刺激し、運動を促す刺激性下剤が適しています。

 便秘薬で特に注意したいのは、妊婦、授乳婦への投与です。刺激性下剤であるセンナ・センノシドは妊娠・授乳中は禁忌です。そして、便秘薬の特徴は胃酸に溶けずに大腸まで届き、しっかり作用を示すための工夫が便秘薬に施されているので、噛んで飲んだりしてはいけません。最近は、腸の調子を整える健康食品も多数出ており、薬に頼らない方法もいろいろとあります。その人にとって、どれが一番自分に合っているのか、医薬品だけでなく日常生活での便秘予防についてアドバイスができるようにしましょう。

 最後に止瀉薬について説明いたします。まず注意すべきは、排便は消化管内に入った有害物質を体外に排出する防衛反応でもあり、止瀉薬でなんでも止めてしまうとかえって状況が悪化する場合もあるということです。さらに、下痢が大腸の重篤な疾患のサインになる場合もあるので、状況をしっかりと確認した上で、受診を勧めなければなりません。止瀉薬の主な成分は腸内殺菌成分、収れん成分、吸着成分、腸管運動抑制成分、生薬成分乳酸菌などの整腸成分です。まずストレス、緊張からくる下痢の場合、腸管運動が亢進しているので、ロートエキス、ロペラミドなどの腸管運動抑制成分が適しています。次に腸管内で腸内細菌の善玉悪玉のバランスがくずれ、異常発酵しているような場合は、タンニン酸ベルベリンなどの殺菌成分や天然ケイ酸アルミニウムなどの吸着成分が効果を発揮します。腸内細菌の異常によって、下痢や便秘を繰り返すような場合、整腸薬を活用します。それぞれに適した成分を選び、OTC医薬品を紹介します。

症状の見極めが大切

 冒頭にも述べましたが、日本人は、昔から胃腸障害に悩まされていました。現在も、我慢できる程度だが、日常生活上で支障をもたらすケースや、病院に行くほどでもないけど、なんとか対処したい症状も多くあります。その人の訴えをしっかり聞いて、まずOTC医薬品の範疇で対応できるものかどうかを見極め、さらに薬学的知見に基づいて併用薬や、既往歴、合併症などいろいろな状況を確認、妊娠・授乳の有無も確認して、適正に商品を選択します。セルフメディケーションの範疇だと顧客も薬剤師も思い込んでしまっては、前述のように重篤な疾患が隠れているのを見逃してしまうかもしれません。OTC医薬品の適正販売の中にもしっかりと観察し、時には受診、検査を促すことも必要です。



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