【科捜研の仕事と薬学・薬剤師】その3 DNA型鑑定で犯人を識別

2016年7月1日 (金)

薬学生新聞


石川県警察本部刑事部科学捜査研究所
法医研究員
北村 雅史

北村雅史氏

 科学捜査は犯罪捜査や裁判において、科学的な客観的証明をするために欠かせません。これらの仕事に従事する科学捜査研究所(科捜研)では多くの薬学出身者が活躍しています。薬学出身者にとって科捜研はマイナーな職場ですが、化学成分分析やDNA型検査などの鑑定を通じて、全国の各都道府県において地域社会に貢献しています。

 科捜研では、様々な犯罪捜査に関して法科学的な立証を目的に鑑定を行います。この中でもDNA型鑑定は科学捜査の中心的な存在の一つです。DNAはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4つの塩基から構成されています。核DNAの中には、繰り返しの配列を有する領域が存在し、この領域のことをマイクロサテライト領域と呼びます。マイクロサテライト領域には、例えば「AATG AATG AATG AATG AATG AATG」など「AATG」を1つのユニットとする繰り返しの配列が存在します。そして、この繰り返しの回数には個人差があることが知られています。下記DNA配列の場合、AATGが6回繰り返されているため、「6型」というように表記されます(

 警察におけるDNA型鑑定は、核DNA内の遺伝情報を有しない領域の中で、繰り返し塩基配列であるSTR(Short Tandem Repeat)の回数を調べることにより行われます。警察では、身体的特徴を有する領域を調べたりすることはなく、あくまでDNAの「型」を知る目的で鑑定が行われるため、ニュース等で表現される「DNA鑑定」は正確でなく、「DNA型鑑定」という表現が正しい呼び名になります。

 このDNA型鑑定の識別能力は非常に高く、もっともありふれたDNA型でも約4兆7000億人に1人という識別能力を有します。証拠試料と関係者をつなぐ科学的な証明手段としてだけでなく、身元確認においても有効です。DNA型鑑定の結果は犯罪捜査において、重要な証拠につながるケースも多く、日々その需要と期待は増加しています。その反面、鑑定をする側には清廉性と技術力が要求され、非常に責任感のある仕事です。

サイエンスと社会をつなぐ

 私は、石川県科捜研の法医研究員として主としてDNA型鑑定に従事しております。マイナーなこの職の存在を知ったのは、金沢大学薬学部の学生の時に受けた講義でした。私は、20代の学生の頃から、サイエンスと社会をつなぐことをライフワークにしたいと思っておりました。近年では、サイエンスコミュニケーターという存在と名前が徐々に浸透しておりますが、どのような形であれ、サイエンスの発展を見ていたいと思っておりました。

 大学院時代は、京都大学大学院薬学研究科生体情報制御学研究室の中山和久教授のもとで細胞内小胞輸送の研究を行っており、大学院の研究生活を通じて、分子生物学分野の楽しさや知的探求心を学ぶことができました。現在は、金沢大学医薬保健学域創薬科学類分子生薬研究室の佐々木陽平准教授のもとで社会人博士課程として薬用植物学の勉強をしております。科捜研だけでは知ることのできなかった多くのことを学び、研究することを通じて、薬学や法科学への貢献をしたいと思っており、日々新しい刺激を受けております。

 薬学生の強みの1つは有機系と生物系の両方の基礎をしっかり学ぶことができる点です。石川県科捜研では、主として化学成分分析による鑑定を行う化学係とDNA型鑑定を行う法医係の両方のセクションに薬学出身者がおります。違う係に所属していても、お互いの仕事の内容を理解できるのは、仕事をする上でアドバンテージになります。

 私も薬剤師の免許は有しておりますが、科捜研の仕事を行う上で、免許自体が仕事に有利に働いたことはありません。しかし、薬学教育をバックグラウンドに持っていてよかったと思うことはありますので、学生の皆さまには一つひとつの講義や実習を大切にしていただきたいと思います。

 学生時代のクラブ活動、サークル活動、アルバイト、ボランティア活動など授業以外の時間は、貴重であると共に将来の糧になります。様々な学外活動は、多くの人と交わる社交場でもあります。大学生活で学ぶべき大きな能力の1つはコミュニケーション能力だと思います。科捜研は研究室で黙々と鑑定を行っているように思われるかもしれませんが、他の係・部署との協力や上司、同僚、部下との連携等コミュニケーション能力を必要とされることが多々あります。

 円滑なコミュニケーションはどのような職場であっても、全ての基礎となるものだと思います。日々の学生生活を通じ、勉学だけでなく人間力を養っていただければ、どのような分野でも活躍できると信じております。



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