【対談 医師×薬学生】なぜ薬剤師が主人公のドラマがないのか

2016年11月1日 (火)

薬学生新聞

ファルメディコ
代表取締役社長
狭間 研至氏に聞く

対談 医師×薬学生

 医療系のテレビドラマを見て、患者の命をチームで救う世界に憧れを抱いた薬学生は少なくないでしょう。しかし、そのチームの中に薬剤師はいたでしょうか。医師や看護師が主人公のドラマはあっても、薬剤師が主人公のドラマは見たことがありません。医療の担い手として患者の救命に貢献できる職種であるにも関わらず、ドラマに取り上げられないのは非常に寂しいことです。その原因はどこにあるのでしょうか。将来、超高齢社会の中で薬剤師として地域を支えるのは今の薬学生です。これから薬剤師の仕事をドラマチックなものにするために必要なことを、医師であり薬局も経営されている、ファルメディコ代表取締役社長の狭間研至先生にお聞きしました(日本薬学生連盟2016年度広報統括理事=小池雄悟:立命館大学4年、広報部=矢野光海:神戸学院大学3年)

決断を伴う場面が少ない

 ――医師や看護師、最近では介護職をテーマにしたテレビドラマもあるのに、なぜ薬剤師が主人公のドラマはないのでしょうか。

 そもそもドラマは、ドラマチックな場面がなければ作れません。端的に言えば、今の薬剤師の仕事にはドラマチックな場面が少ないからだと思います。ドラマチックな場面には必ず、決断が伴います。時限爆弾のタイマーがどんどん進んでいく場面を思い浮かべてください。赤か青かどちらの線を切断すればいいのか、決断を迫られますよね。赤だと決めて切断し、爆発まで残り1秒のところでタイマーが止まる。それがドラマチックな場面の典型例です。現在の薬剤師の仕事にどれだけ決断を伴う場面があるでしょうか。理由はそこにあります。

 ――なぜ、決断を迫られる場面が少ないのでしょうか。

 理由は2つあります。ひとつは薬を正しく入手できることは、多くの人にとって極めて大事なことですよね。薬剤師は、薬の量も種類も正しく出してくれるし、説明もしてくれる。それが薬剤師の仕事だと世間は認識しています。薬剤師に決断を求めてはいません。

 もうひとつは薬剤師の側から見ても、薬を正しく調剤して渡していれば、それだけでその仕事に対して給料が出ます。今のまま仕事を続けていれば、それで家族も養えるし、会社も大きくなります。お金は人生において最も大事なものではありませんが、最も大事なもののひとつではあるので、われわれはその影響を大きく受けます。大きな決断を下さなくても、薬剤師として日々の仕事をこなして給料をもらえる環境があるわけです。

 疑義照会はしますよ。疑義照会は義務ですから当然しますよね。でも、義務は果たしたからもう自分に責任はないということでいいのでしょうか。責任の裏表は決断です。責任を取らないということは、決断していないということですよね。もし薬剤師が医師に「先生、これをこっちの薬に変えた方がいいのではないですか」と言って、その通り処方が変更されたとします。ここには薬剤師の決断があります。それで患者さんが亡くなったら当然責任の一端は薬剤師にもあります。しかし現状は、そのような決断にまで踏み込まず、従って責任も負わないという薬剤師が少なくないのではないでしょうか。決断がない職場にドラマはありません。

 ただ薬剤師も「モノ」の責任は取っています。2錠出さなければいけないのに3錠出していたら、薬剤師の責任です。現在はモノへの責任にとどまり、対人の責任まで取れていない薬剤師が多いことに帰着すると思います。

 ――薬局の実務実習に行った先輩からも、行く前に思い描いていた仕事とは違ったという声をよく聞きます。

 私もある薬学生から聞いた話ですが、実務実習先の薬局で処方に疑問を感じたので、疑義照会する必要があるのではないかと指導薬剤師に言ったところ、「医師がそれでいいと言っているのだから、しなくてもいい」と言われたらしいです。

 薬局には様々な事情や背景があって、そうせざるを得なかったのかもしれませんが、そんなことでは薬学生もびっくりしますよね。

薬局を問題解決の場所に

 ――ただ「かかりつけ薬剤師」や「地域活動」も診療報酬の対象に加えられ、全体的に変わってきてはいますよね。

 そうですね。あれはよく考えられたものだと思います。「これ、ください」「はい、どうぞ」という形ではなく「あそこにいけば何か問題が解決する」という形になってきています。問題が解決するというのが「機能」ということだと思います。

 医療における患者さんの問題って、いたってシンプルなものばかりなんです。痛いとか苦しいとか不安とかですよね。そこから解放されるかどうかが大事なわけです。世間ではまだ、薬局は問題を解決するためのツールを得る場所と思っていますよね。地域活動というのは、まさにそれを打破するために出されたものです。

 うちの薬局では患者さんのためのカフェを開いています。そこで薬剤師が地元の人と話していると、「へぇ、薬剤師ってそういう職業なんだね」と感心されます。そこに来てくれた方は以後、問題を解決するために薬局に来るようになります。地域活動はとても効果的です。こういう活動の積み重ねで、国の大きな流れは変わっていくと思います。

薬を渡した後に関わる

 ――とはいえ、かかりつけ薬剤師の要件を満たすのは結構大変と聞きます。

 かかりつけ薬剤師の要件についても最初はみんな、それを満たすとなると「ブラックな仕事になる」と言ったんですよ。なぜそういう発言が出るかというと、薬剤師の仕事を、薬を渡すまでの仕事と思っているからです。

 例えばスタチンを飲んだら横紋筋融解症が起きることは、薬剤師はみんな知っているわけですよね。説明義務もありますから、「これは横紋筋融解症が起こる可能性があります」と言って渡します。でもそれだけだったら、怖がって飲まないかもしれないじゃないですか。これは対物業務ですよ。

 一方、対人業務とはどういうことでしょうか。スタチンが処方されているということはその患者さんは脂質異常症で、脳梗塞や心筋梗塞の可能性が高まるわけですよね。だからスタチンを飲んでコレステロールを下げなくてはならない。その意義を患者さんが理解しているかどうかを確認し、十分に認識していないようだったら、分かりやすく説明しなくてはいけません。

 また、副作用として肝機能も悪くなるし、横紋筋の融解も起こる場合があります。そのサインとして、ミオグロビンが尿中に出で尿が赤くなるかもしれないし、筋崩壊が進んで体のあらゆるところが痛くなるかもしれません。それが起こるのは、服用開始後1週間か10日くらいでしょうか。そうしたらその頃に患者さんに電話して、そのような症状が発現していないかどうかを確認してもいいかもしれませんね。これが対人業務ですよ。

 薬を渡して薬剤師の仕事が終わるのではなく、渡した後もしっかり関わる。そのためには「なにかあればいつでも連絡して。薬局にもいるからいつでも来ていいよ」と伝えて、電話番号を渡さないといけませんし、薬局にいつもいなければいけません。対人業務と考えると、あの要件は腑に落ちると思うんですよ。


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