【ヒト・シゴト・ライフスタイル】“三流薬剤師”でもできる!‐人として何がやれるかが大事 熊本・きらきら薬局 大森眞樹さん

2017年3月1日 (水)

薬学生新聞


他の医療職の人たちとも交流

他の医療職の人たちとも交流

 「自分は“三流薬剤師”ですから」と何度も繰り返した薬剤師の大森眞樹さん(きらきら薬局)。熊本県山鹿市の薬局に勤めて15年目、地域の人たちと交流しながら、学校薬剤師の活動や地域医療で薬剤師以外の職種との多職種連携、そして昨年4月に起こった熊本地震を経験し、薬剤師としてではなく、1人の人間として困っている人に何をすべきかを考え、行動してきた。大森さんが今、薬学生に伝えたいこと。それは、「1人の人間として患者さんを含め、いろんな人とかかわりながら仕事をしてほしい」というメッセージだ。「自ら率先して体験してほしい。そして、『自分にはまだできない』とは思わんでほしい。僕みたいな三流薬剤師でもやれるんやから、みんなにもやれる」という激励の言葉だった。

患者さんを笑顔にさせる

 10歳年が離れたお兄さんも薬剤師。だから小学校の頃から「薬剤師になる」と言ってきた。薬をつくって病気の人を治す、そんなイメージが子どもの頃からあった。

 小学校低学年の頃、いじめを経験した。2月の早生まれで同級の子どもたちに比べて体が小さかったことも災いし、「学校にも行きたくない」と何度も思った。そこで始まったお兄さんたちが計画した「眞樹のいじめをなくす作戦」。いじめる子に対抗しようと、夏休みには練乳をたくさんかけた食パンを毎日食べ、痩せ細った体は前とは比べものにならないくらい大きくなった。

 ちょうど担任の先生が産休に入り、臨時で入った男性の先生が大森さんのことを気にかけてくれた。クラスの授業では「おい、眞樹、ちょっと前来てこの問題解いてみい」。このような経験を経て、大森さんへのいじめはだんだん減っていき、ある時期からはいじめられっ子から一転して、目立つ存在になり、ついにはクラスのまとめ役になった。

 臨時の男性の先生が自分を気にかけてくれたこと、そしていじめを経験してクラスのまとめ役になったことが大森さんを成長させた。「悲しい思いや寂しい思いをする人を1人でもなくしたい」。大人しくて口数の少ない人を見つけたら、輪に加わってもらえるよう、集団の中でクローズアップさせることを心がけた。

 今では晴れて念願の薬剤師となり、学校薬剤師として小学校、中学校、高校を飛び回り、薬物乱用防止教室では、「自分のことを愛して下さい」「自分を大事にして下さい」と訴え続ける。自分たちだけでは解決できない問題があったときには「家族や学校の先生に相談してください」。それでも相談できないときには「大森眞樹に連絡してくれれば、俺は秘密を厳守して助けに行くよ」とメッセージを送る。

 神奈川の中学校にボランティアで講演したときのこと。やんちゃな中学生が1人。最初は講演を聴く素振りもない態度だったのが、大森さんが話を続けるうちに他の生徒と同じように体操座りで自分を見続ける。講演を終わると、ツカツカと大森さんのもとに歩み寄り、「握手してほしい。先生の言っている言葉が俺の未来に役立つことが分かったよ。俺も先生の名前忘れないから、俺のことを忘れないでほしい」と手を差し出された。「すごく泣きそうになりましたね。九州から仕事の合間をぬってやってきて、本当によかったと思いました」

 熊本県山鹿市の薬局薬剤師として地域のために働いている。学校で「『薬剤師になりたい人、手を挙げて下さい』って聞くと手を挙げる生徒さんたちが多い」という。

 また熊本県荒尾市で医師や看護師、介護士、ソーシャルワーカーの人たちが集い交流を深める「ケア・カフェ」のマスターを務める。「多職種連携は目的ではなく手段。目的は地域に住む患者さんの健康管理やQOL向上を実現させ笑顔になってもらうこと」。心がけていることは、多くの人たちがケア・カフェに参加してもらえるよう、参加への敷居を最大限下げることだ。

 「多職種連携をやろうとすると、アウトカムを求めだして敷居が高くなってしまい、最終的には顔見知りのメンバーだけになってしまう」と大森さん。地域医療に誰でも参加できる環境が今、求められている。

 そして薬剤師という仕事。「薬剤師というのは右手に持っている武器の1つにしか過ぎないと思っています」。確かに薬剤師としてのスキルが高ければ高いほど患者さんを助けることができるのは事実。しかし、薬剤師として対応困難な依頼に対して「私は薬剤師なのでこの仕事はできません」では、医療・介護の世界で通用しないことを嫌というほど見てきた。「薬剤師として」ではなく「人として」、患者のために何ができるかを考えるようになった。

 昨年4月に熊本地震を経験した。避難生活の中でなかなか助けてが言えない人の「助けて」。それを聞いた人が多職種連携のバトンを渡す重要性を痛感した。「ニーズを拾い上げた人が最後まで責任を持ってやることも大事だが、そのニーズを解決するのに適した職種にバトンを渡していくことが被災者のためには大切になる」。普段から“顔が見える関係”でありたいと強く思った。

大森眞樹さん

 薬剤師を続けてきて一番うれしい言葉がある。それは、「あんたのおかげで助かったよ」。精神的につらい状態の患者の話に耳を傾けたときには、「私の話をこれだけ聞いてくれたのはあんたが初めてや」と感謝されたこと、「肩が上がらない。もうこれから生きていけんよ」と訴えていた患者が、しばらく経って「大森さん、ありがとう。肩が上がるようになったよ」と報告してくれたこと、薬局で小児処方を長時間待たせてしまった親御さんに「申し訳ありません、私のこだわりもあってお待たせしています。薬剤師と子を持つ親の気持ちの両方の立場で処方医と話をさせていただいております」と謝ると、「こっちがありがとうよ。次もここの薬局で薬をもらうから」という言葉をかけてもらったこと、そんな患者との触れ合いをありがたく思う毎日。だからつらいことも乗り越えられる。

 最近では年間約50回の講演活動に加え、薬学生の輪の中にも率先して参加している。「自分は病院薬剤師もやったことがないし、チーム医療の中に入ってどっぷり抗癌剤治療したり、緩和医療でオピオイド製剤の専門的な処方内容を変更したり、薬剤師として高度なスキルも経験もない三流薬剤師です。自分1人だけの活動だったら本当に口先だけの薬剤師になっていた。でも友達や周りの人たちと交流して勉強する中でやらなければならないことやみんなの患者さんへの熱い思いに気づける。皆さんも目の前にいる患者さんや仲間を大事にしながらも、視野を広げてぜひいろんな人たちと交流してほしい」。そして最後に一言。「“受け身ではなく、率先して動く”そんな薬剤師になってほしいですね」と最高の笑顔でそう付け加えた。



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