【日本薬学生連盟 OBOG訪問】「このまま薬剤師になっていいのかな」‐薬学生が始めた“薬育活動”

2017年5月1日 (月)

薬学生新聞

病院薬剤師 小路 晃平さん

薬育について熱く語る小路さん

薬育について熱く語る小路さん

 日本薬学生連盟に入会することを決意する理由の中で一番多いのは何だろうか。「先輩に憧れて」――。私自身も数年前、輝いていた先輩方に憧れて、日本薬学生連盟の門をくぐった。そこから学生生活が180度変わったことは言うまでもない。今回は、そんな私の学生生活を、ひいては人生を大きく変えてくれた一人の先輩。病院薬剤師として活躍する小路晃平さんに話を聞いた。先輩たちが輝く根源がここにあったように感じる(2017年度代表=小池雄悟、立命館大学5年)

国際会議で外向き活動に衝撃‐薬剤師体験でゲームを考案

 ――小路さんの学生時代について教えて下さい。

 私が薬剤師を目指したきっかけは、実家の商店に薬を置いてはどうかと言った父の言葉からでした。実家は100年続く商店で、日用雑貨を販売しています。地域の方は、困ったことがあれば父を頼って来て下さいます。私は活躍する父の背中をいつも見てきました。そこに薬を置けば、さらに地域の方の力になれるのではないか、そう思い薬学部に入学しました。

 とはいえ、近親者に薬剤師がいるわけでもなく、漠然とした理想像を持っているだけでした。そんな私の学生生活を変えたのは、早期体験学習の病院見学でした。私が病院で見たかったのは、患者に関わる薬剤師の姿だったのですが、1年生の集団相手に見せてもらえたのは調剤室や無菌調剤室で黙々と働く薬剤師の姿だけでした。

 そこで私は、理想と現実のギャップを感じることになりました。今振り返ると私の視野が狭く、知識がなかったからそう感じてしまったのだと思います。しかし、そんな「このまま薬剤師になっていいのかな」という不安が私を突き動かす原動力となりました。早期体験学習の後、医療について語り合える場として医療系サークルを立ち上げました。

 さらに、他大学とのつながりを作るために、薬学生の集い(日本薬学生連盟の前身団体)に加盟し、全国で活動するようになりました。次に私の学生生活を変えたのは、タイで開催されたIPSF(国際薬学生連盟)の世界会議でした。他国の学生と話したとき、学生が考案した禁煙推進運動や糖尿病啓発運動を地域で行っていることを知りました。

 それまでの私の知る国内の活動といえば、学生を対象に行っている勉強会や講演会などの“内向き”の活動でした。しかし他国では、地域の方を対象にした“外向き”の活動をしていることに衝撃を受けました。その後、私がはじめに行ったのは献血推進運動でした。取り組んだ理由は、10歳代、20歳代の献血者数が少ないことが問題になっていますが、献血者数の少ない世代と同世代であることや、血液製剤を取り扱う薬剤師にとって身近な活動であり、薬剤師を目指す私たちが献血を推進することに意味があると感じたからです。

 この活動を通して、“外向き”の活動の意義を体感するとともに、活動を行うための運営についても大きなヒントを得ることができました。他にも、WHO等が定める国際デーにちなんで、薬物乱用防止運動や禁煙推進運動、糖尿病の啓発活動などを行ってきました。そのような活動をする中で、世間の「薬剤師不要論」を唱える声を耳にすることがあり、世間の方に薬剤師の専門性が知られていないことを思い知らされました。

 IPSFでもPPAC(Pharmacy Profession Awareness Campaign:薬剤師専門性認知向上運動)という活動が世界各地で行われていました。ポスターを使って啓発を行うことをはじめ、デモ行進をしている国があれば、薬剤師体験をしている国もありました。私は大学の学祭の模擬店で地域の方、特に児童に薬剤師体験をしてもらおうと思いました。せっかくであれば、調剤という手法を体験してもらうのではなく、薬の効果や副作用を評価する薬物治療を体験してもらえないかと考えました。

 そこで、考えたのが“天秤ゲーム”です。病気の模型の重さと同じ重さの薬をカプセル集め、薬効を血中濃度の天秤で測定するというものです。薬が少ないと病気に傾き、赤のゾーンに入り「効果なし」、薬が多すぎれば薬に傾き、赤のゾーンに入り「副作用発現」と判定されます。このゲームを考えた時、薬剤師を知ってもらおうとして作ったはずが、自然と薬の適正使用を伝えるゲームになっていました。こうしたお薬教育が“薬育”ということを知り、生涯をかけて薬育活動がしたいなと感じました。

 ――薬育について詳しく教えて下さい。

 薬育は、薬に関する正しい使用方法や副作用などの知識を子どものうちから教育しようとする試みです。現在、中学校・高等学校の学習指導要項にも「医薬品の適正使用」が盛り込まれており、小学校でも導入が求められています。市販薬がインターネットやコンビニ等で身近に手に入る今、早期からの薬育が必要とされています。

 学生時代は、地域のお祭りやフリーマーケットなどにブースを出し、子どもたちを対象に薬育を行ってきました。特にフリーマーケットは、親御さんが買い物をしている間、子どもが遊んで過ごせるので好評でした。薬剤師として働く今では、日本薬育研究会“薬育ラボ”という団体を設立し、体験型の薬育活動をしています。

受容体を取り扱ったゲーム

受容体を取り扱ったゲーム

 薬育ラボでは、天秤ゲームのほかにも、薬同士を混ぜて実験し、“患者さんの頬を赤くする薬”を作りながら、薬の相互作用や飲み合わせを学ぶゲームや、受容体という鍵穴に入る薬をブロックで作りながら、薬の副作用について学ぶゲームを行っています。

「遠回り」して幅広いスキルを!‐現状に甘えず新たなチャレンジ

 ――現在の就職先はどのように選びましたか。

 就職先を決めるに当たって、薬剤師として幅広い知識を身につけることができる場所が良いと思い、日本医療薬学会の薬物療法専門薬剤師の研修施設となる病院に絞りました。その中で、地域に根ざし、多職種の顔が分かる病院が良いと思い300床規模の病院に絞りました。さらに、職場の環境や働く人について知るために見学した結果、北陸で病院薬剤師になることができました。

 ――就職してみて、実際どうでしたか。

 1年目は調剤業務にはじまり、TDM、注射剤や抗癌剤のミキシングなど基本的な薬剤師の業務を主にしていました。2年目に入ると、NST(栄養サポートチーム)や結核病棟の担当薬剤師を任せていただくことになり、より専門的な知識が必要になりました。はじめは不慣れなことが多く、カンファレンスで全く発言ができずに不甲斐ない思いをすることもありました。それでも上司に指導され、そのたびにまた勉強するという繰り返しで、今では、薬物治療の提案ができるようになり、他職種から相談を受けるようになりました。

 私が担当する結核病棟は、特に特殊な環境で、薬を飲み忘れなく適切に使用しなければ、耐性菌が出てしまい治療が困難になってしまいます。そのため、退院後の生活を考慮した治療計画を行っていかなければなりません。また、標準治療で使用するリファンピシンは特に相互作用の影響が大きく、高齢者では結核薬以外の内服も多いため、薬剤師として治療に貢献できる機会は多く、とてもやりがいを感じています。

 ――これからの展望はありますか。

 薬育ラボとしての活動としては、地域や学校現場でこれからも体験型の薬育を行っていきたいと考えています。学生時代からの仲間と一緒に、これからもアイデアを出し合って、日々新たな挑戦をしていきたいです。また、小学生にも楽しんで見てもらえるような薬の飲み方・効く仕組みなどを説明した動画の配信も継続して行っていきたいと考えています。

 職場では、地域に根ざした病院にいることを活かし、薬薬連携を強化して患者さん一人ひとりをサポートしていきたいと思っています。また、現状に甘えることなく、やったことのない分野に、これからもどんどんチャレンジしていきたいと思います。

 ――薬学生へのメッセージをお願いします。

対談を終えて

対談を終えて

 無駄なことは一つもありません。日本薬学生連盟だけでなく、部活やサークルでも、学校の授業でも、今経験していることは将来にきっとつながります。その中でうまくいかないことや思い通りにならないこともあるかもしれません。しかし、それを改善するために試行錯誤することで次につながっていきます。たくさん遠回りしながら、むしろ遠回りすることで、幅広い知識やスキルを身に着けて欲しいと思います。また、多くの人々と交流することで新しい発見ができますので、ぜひいろんな場所に行き、新しいこと、誰もやったことがないことに積極的にチャレンジして下さい。



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