【日本薬学会第134年会】シンポジウムの話題

2014年5月1日 (木)

薬学生新聞

薬局店頭‐赤川氏「情報の総合的把握が重要」
赤川信一郎氏

赤川信一郎氏

 赤川信一郎氏(サンキュードラッグ)は、2012年から薬局店頭で取り組んでいる自己穿刺による血液検査などの取り組みを紹介。同検査は、12年4月から14年2月の間に162回実施。同検査は広島大学大学院医歯薬保健学研究院臨床薬物治療学研究室によるTDM実習を受講し、認定を受けた薬剤師が対応しており、項目はHbA1c、総コレステロール、中性脂肪、尿酸。

 検査では、健常人以外にも血糖値が高く治療中の人、1病院での検査で薬を服用するのが不安という人も散見されたという。赤川氏は「数値を確認することで、治療継続の意識を持つことができれば薬局、薬剤師が役立てるポイントとなる」とした。

 一方、「OTCの現場では、検査データでは読み取れない訴えに対し、何をすべきかという待ったなしの状況が多い」という。このため同社では、▽顧客の状況を理解▽状況に応じ適切な医薬品を選定▽薬の知識を分かりやすく伝える――能力を養うことを目的に、現場薬剤師の商品知識と経験を融合させて店頭で活用できる資料を作成。1症状から医療情報を推測して、受診勧奨すべき症状やOTC薬適応の際の商品選択などの教育を実施している。

 咳を訴える高齢者の患者に対し、薬歴のアスピリン処方を確認し、食事中にむせることを質問で把握。咳が単なる感染症ではなく誤嚥を起こしている可能性を判断し、脳梗塞再発を疑い受診勧奨をした事例。虫刺されの訴えのケースで、ウイルス性発疹を疑い受診勧奨し、その後、アシクロビルが処方されて内服治療となった例――も紹介した。

 「薬剤師には患者を複数の側面から観察し、総合的な情報を仕入れ、把握する能力、不完全な主観的・客観的データで状態を推測して顧客の状態を推測し、『今すべきことは何か?』を即断できる能力が求められる」と強調。しかし対応できる薬剤師教育が行われていない現状を指摘し、「薬学生だけでなく、相談を受けて悩むことが多い店頭の薬剤師にもそうした教育の場が提供されることを強く望む」と訴えた。

期待高まる日本版NIH

特別シンポジウム「革新的医薬品の創出・実用化に向けて」の様子

特別シンポジウム「革新的医薬品の創出・実用化に向けて」の様子

 「革新的医薬品の創出・実用化に向けて」をテーマとした特別シンポジウムでは、戦略的テーマの決定の目利きとそれに向けた継続的な支援、コーディネーターとなる人材やベンチャー企業育成の重要性が指摘された。

 昨年、安倍内閣は、アベノミクスの成長戦略として、「日本再興戦略」を閣議決定。日本再興戦略の一環として、医療分野の研究開発の司令塔機能、いわゆる日本版NIHの創設が提案された。具体的には、創薬・医療分野に関する重点分野の決定する健康・医療戦略推進本部と、各省別の研究開発関連予算の一元化と予算配分などを一元的に管理する日本医療研究開発機構の創設が提案されている。

 現在、審議中の「日本版NIH」創設のための関連法案について中垣英明氏(内閣官房健康・医療戦略室)は、「健康・医療戦略室法案は、総理をはじめとする官僚をメンバーで『健康・医療戦略推進本部』を設立し、研究開発の推進計画の策定などが目的」と説明した。

 独立行政法人日本医療研究開発機構法案についても、「各省庁別の研究開発予算や研究管理の一元化を柱とする」と解説し、同機構に求められている機能として、▽プログラムディレクター(PD)、プログラムオフィサー(PO)等を活用したマネジメント機能▽ファンディング機能の集約化▽臨床研究中核病院の整備▽早期・探索的臨床試験拠点の開設▽橋渡し研究支援拠点の強化・体制整備――を挙げた。

 2014年度医療分野の研究開発関連予算のポイントにも言及し、「予算総額は約1400億円で、医薬品医療機器開発、臨床研究・治験、世界最先端の医療の実現、疾病領域毎の取り組みを主とした事業を推進したい」と述べた。

 日本版NIHへの期待では、高久史麿氏(日本医学会会長)が、「抗がん作用、インスリン感受性調節、抗HCV肝炎作用を併せ持つmicroRNAは、日本発のシーズであるにもかかわらず外資系製薬企業で治療薬が開発されている」との現状を紹介。

 その上で「日本医療研究開発機構には、実用化の入り口側からレギュラトリーサイエンスやトランスレーショナルリサーチを実施する体制の構築。PMDAには出口側から新薬創出・実用化の支援」を要望した。

 手代木功氏(日本製薬協会会長)は、製薬企業の立場から[1]実用化に向けたレギュラトリーサイエンスの実践[2]創薬プロセス全体をカバーしコーディネートする人材や組織作り[3]実効性の確保と健康・医療予算のさらなる拡充と重点化――の重要性を強調。

 また、ベンチャー企業の育成にも「米国の製薬企業に比べて国内企業は税制度でハンディキャップがある。ベンチャーへの投資は難しい。製薬企業が資金を投資するための税の優遇制度が必要となる」との考えを示した。

 現在、第3期中期目標および中期計画を策定しているが、PMDAの北條泰輔氏は、「アカデミアや企業が創出したシーズをシームレスに実用化するために、より一層の相談機能の強化を図りたい」と抱負を述べた。

 研究者の立場からは柴崎正勝氏(日本薬学会会頭)が、「感染症治療薬の開発は、収益面を考えると一般企業に限界がある。国レベルで取り組んでほしい」と力説。さらに、「化合物をピックアップし、その分野の重点的支援を実施するために、日本医療研究開発機構は、目利き人材の輩出に資金を投資する必要がある」との見解を示した。


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