多様な人材を育むSRDグループ

2017年3月1日 (水)

薬学生新聞

患者に寄り添うCRCとして痛みやつらさに耳を傾ける

医療システム研究所 小笠原 直美さん

小笠原直美さん

 製薬企業の臨床開発モニター職から治験コーディネーター(CRC)というキャリアを歩むのが、医療システム研究所治験支援部課長の小笠原直美さん。モニター出身者として医薬品開発業務を誰よりも理解し、CRCとして誰よりも患者の気持ちに寄り添う。痛みやつらさを訴える患者の声に耳を傾けては、気持ちが高ぶり涙してしまう。“患者さんのために”と思えるからこそ、革新的な医薬品を1日でも早く患者に届けるパワーになる。「CRCとしてまだまだ成長できる。私自身が成長しながら、後輩の教育にも携わりたい」と力強い声で語ってくれた。

伝える大切さ学ぶ‐CRCへ転身

 大学薬学部卒業後、製薬企業の開発部に所属し、モニターとして6年間を過ごした。結婚を機に、出張の多いモニター職を続けていくのが難しいと思い、転職を決断した。当初、薬剤師とCRCの2つの道で迷ったが、「治験業務での経験がゼロになってしまうのは惜しい」と感じ、CRCを志した。

 CRCは治験で欠かせない存在。小笠原さんのモニター職経験からも、CRCがサポートしていた医療機関は他の施設に比べ治験がスムーズに進んでいたからだ。「モニターの気持ちが分かるCRCがいれば、もっと治験のサポートがやりやすくなるのではないか」と考えたのもCRC転職の大きな決め手になった。

 治験施設支援機関であるSMOのCRCとして転職したが、現在では医療システム研究所で働いている。小笠原さんは、治験に参加する患者との接点がCRCの醍醐味だと話す。「モニター時代は治験を実施する医師にアプローチしていくことが重要で、医師とどうコミュニケーションを取るかを考えていましたが、CRCは医師、モニター、患者さんに対して、ほぼ均等の時間を使っています」と語る。

 最も心を砕くのが、治験に参加する患者への説明だ。治験に参加する上で、治験期間や検査項目などを分かりやすい言葉で“伝える”。そんな技術は失敗しながら経験の中で培ってきた。

 小笠原さんが忘れられないエピソードとして挙げたのが、認知症の軽度患者への対応だ。軽度患者の中には、本人に病気を患っているという病識がないというケースもある。治験参加への同意説明を行っていたところ、患者からは「馬鹿にするな!」と怒られた。

 認知症の治験では、介護者と患者の双方に説明を行うのだが、その患者については家族の人たちは治験に参加してほしいという熱意が強い一方、本人は治験をやりたくないというケースだった。最終的には医師の力を借りて患者も納得し、治験参加の同意を得ることができたが、「もっと話し方を工夫してみたり、できることがあったのではないか」と自分を責めた。

 ただこうした経験からその後は患者を見ながら、病態や状況に応じて言葉を選んで説明するよう気を付けた。自分で説明することが難しければ医師に改めて説明してもらうこともあった。「認知症の方は、その日の体調で気分が変わったりするので、治験に参加するかどうかの回答が難しければ日を変えてご家族と話し合った上で、答えを急がずに決めてもらうことを心がけています」。今では落ち着いて対応できるようになったという。

 医薬品開発メンバーの一員でありながら、気持ちは医療に携わる一員として、患者と接している。

だから頑張れる‐“ありがとう”の言葉

 治験では、新しい治療法の有効性や安全性を検証するために、偽薬(プラセボ)との比較を行う。だが、治験に参加する被験者が新薬投与群、プラセボ投与群のどちらのグループに入るかは2分の1の確率だ。

 目の前にいる患者がプラセボ投与群に入る可能性を説明するたびに、やるせない気持ちになった。生命に直結する癌の治験では、既存治療薬群に組み入れられて落胆する患者、「既存治療がベストの治療法」と説明してもそれが耳に入ってこない患者に対して、「何と声をかけたらいいか分からないことが何度もあった」と打ち明ける。

 治験を進めるために患者の心情を理解しつつも、きちんと治験の流れを説明するのがCRCの仕事と分かってはいても、病気と闘う患者さんのつらさや苦しみを聞いているうちに、涙がこぼれ、思い通りに説明ができないこともあった。患者さんに寄り添うということ、そして治験をスケジュール通り進めていくということ、そんな狭間の中で自分がどう行動していくかを考える毎日は「勉強の連続」だという。

 それでも続けるのは、「治験に参加してよかった」という患者の声をもらえるからだ。治験が終わって数年後に病院の待合室でばったり会ったときに『ありがとう』と声をかけられたり、年賀状をもらったりすることもあり、患者とのつながりを意識する瞬間は多い。小笠原さんにとってCRCを続けるモチベーションになっている。

 3人の子どもを持つ母だ。産休を取るCRCが多い中で、医療システム研究所では同僚のCRCがカバーする環境がある。小笠原さんは「みなさんが協力的で、助けて下さるのがありがたい。それがあったからここまで続けてこられた。今度は自分が仲間を助けられたらいいな」と話す。

 今後の目標については、「新卒社員がたくさん入ってくるので現場でいっしょになって自分自身も成長しながら、若い人たちを教育していきたい」とチーム一丸となって患者のために前へと進んでいく。薬学生に向けても、「CRCはやってみないと分からないのでイメージだけでも1歩踏み出して挑戦してほしい。印象と違ったとしてもそこで得られることはある」と応援する。


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