【対談 薬学生×医学生×理学療法学生】世界の仲間と意見や知識を共有

2017年11月1日 (水)

薬学生新聞

意見伝える能力の違い実感‐日本独自のアイデアには反響も

 ――そんな国際会議を経験した皆さんの感想を教えてください。

 海野(薬) 自分の国のことをもう少し話せたらよかったなというのが率直な感想です。例えば、パーティーで浴衣を着ている時に「何でその衣装を着てるの?」「それっていつ着るの?」など、色々と聞かれたのですが、曖昧にしか答えられず、もっと日本のことを知っておけばよかったと感じました。ただ、世界中の人たちと仲良くなれたことはもちろん、日本と向き合う良いきっかけにはなったと思います。

 土屋(理) 私自身は今年初めての国際会議参加だったので、会場に入るときに極度に緊張したのを今でも覚えています。世界の学生のレベルの高さに衝撃を受けました。また今回、“Academic”というプレゼンテーション企画の司会進行をやらせてもらったのですが、今年のテーマは“各国の理学療法の可能性”でした。

 日本は産業リハと再生リハについて発表したのですが、日本の発表の中で「一般企業に勤めている労働者の腰痛予防に対するアプローチ」について話した時の海外の人の反応がとても印象に残っています。

 ある携帯アプリで、自分の腰痛に関する質問に答えることで、どういった体操をしたら良いかアドバイスをもらえるというものがあるのですが、それについて話した時に聞いていた海外の学生がざわめいたんです。多分、他の国にはそういったアプリで腰痛改善をするという発想がなかったんだと思います。このようなアイデアは、アジアの中では日本独自なのかもしれないと思いました。

 千葉(理) 私は国際会議を通して英語を話せると情報力を高めることができるということを痛感しました。日本で生活していると、普段は日本語の情報しか入ってこないですが、英語を使うことができれば情報量が圧倒的に変わってくるし、しかも日本よりもレベルの高い情報を手に入れることができます。先ほど話した“Case Study”という企画が一番印象に残っていて、海外の学生の持つ引き出しの豊富さに、正直打ちのめされました。この症例に対してはこの治療というような引き出しをたくさん持っていることは、より良い治療の選択につながるので、患者さんにとってもやはり持っている情報は多いほど良いなと思いました。

 舟木(理) 私は、この会議が海外に目を向ける良いきっかけになったと思います。日本のことは4年間学んできたからある程度知っていて伝えられますが、これまで海外には目も向けたことがありませんでした。ただ、今回の会議を通して海外の医療情勢を見ることができ、これまでは日本国内でしか考えたことのなかったことが実際に国際社会の中ではどうなっているのか、世界ではどうなっているのか気になってきて、そういったところに目を向けることができたことは良かったなと思っています。

 塚本(医) 国際会議に参加する学生は、オンとオフの切り替えがしっかりしている人がとても多いように思います。世界総会では、実は毎晩パーティーがあるんですが、そこで本当に楽しそうに騒いでいる人がいて仲良くなったんですよ。次の日たまたま同じディスカッションのグループになることがあって、びっくりしたんです。すごく良いこと言うんですよね(笑)。自分の考えもしっかり持っていました。聞けば、奨学金ももらっているというんです。遊ぶときはしっかり遊んで、でもしっかり議論にも参加する。そんな学生が多いように感じました。

 棚元(医) 海外の学生は、確かに自分の考えをしっかりと持っていますよね。しかも、考えている内容を相手に伝える能力も非常に高いように感じます。これって言語の問題じゃないですよね。きっと、普段からさまざまなことに関心を持って情報を集め、考えたりしているからだと感じます。国際会議の中で印象に残っていることがあります。バングラデシュからのある参加者でした。現在、バングラデシュではミャンマーからのロヒンギャ難民が大勢流入してきているのですが、とてもひどい仕打ちを受けてきているようです。その難民に対して、医学生として何ができるのかを考え、現地の医師と連携して医療テントを建て、そこで難民に対して必要な医療を提供しているという学生の話を聞きました。これまでは遠い国の出来事だと思っていましたが、実際に当事国からの参加者の声を聞き、このとき初めて身近に感じました。

日本の良さ、もっと発信を‐保険制度や高齢化対応に注目

 ――国際会議を通して、世界の中での日本の強み、弱み、立ち位置はどのように感じましたか。

 土屋(理) 学生個人として見ると、日本の学生は発信力がとても低く、他の国の学生に比べると遅れていると感じました。もちろん英語の能力や日本の文化的な部分、発信しなくても問題なくやっていける社会的な部分も関係しているとは思いますが、海外の学生は自分の意見に自信を持ち、発信することを恐れていないところや危機感を持ってやっている印象を持ちました。

 塚本(医) 世界全体を見渡したときに、日本が持つ役割はいくつかあると考えているのですが、中でも日本は長期にわたって非常に高い医療水準を持っているということがあります。もちろん、欧米でも先進的な医療を提供していますが、人種や環境も大きく異なりますし、欧米の医療を全てアジア諸国に当てはめることはできません。日本はしっかりと国内でも研究し、多くの臨床データを持って医療を提供しています。

 また、日本は非常に優れた医療保険制度を持っています。日本では僻地でも、都市部と同じような水準の医療を比較的安価で受けることが出来ます。ここまで幅広い医療を低価格で提供している国は、世界的に見てもあまり多くありません。このように、日本には誇るべき医療もたくさんあります。これからも日本の良いものを発信し、共有していくことが果たすべき役割なのではないでしょうか。

 棚元(医) 医療保険制度は確かに誇れる点ですね。あとは災害医療が非常に強いと思います。普通はなかなか行き届かないような多職種連携や心のケアなど、救急医療以外のことも提供できています。災害医療に関するガイドラインも整っていて、ここまでシステムとして成熟している災害医療というのは他の国では聞いたことがありません。

 海野(薬) 確かに国際会議に出席して、海外の学生の考えをそのまま発言していく姿勢には凄いなと圧倒されました。日本語で議論していたとしても、国内であんなにどんどん発言が飛び交う会議は行われないと思います。あとは日本の強みの発見の一つとして、かかりつけ薬剤師がありました。今回のシンポジウムのテーマの一つに日本でのかかりつけ薬剤師に似たものがあり、私はそういった地域に根差した医療を取り巻く問題は国内だけのものだと思っていたのですが、そこで台湾や世界中で同じような問題に直面しているということを知りました。こういう点も、日本を世界に発信する切り口の一つになり得ると思います。

 中川(薬) 超高齢社会に対応した介護や医療制度とかも、これから日本のような状況になっていく国々からはとても注目されていますよね。それにもかかわらず、日本について自分たちが何も言えないというのは、もったいないと感じました。世界会議に出るということは、ある意味で日本を背負うということでもあり、そう考えると責任感というか、もっと日本の良さを発信したり、意見を出したりしないと、アジアの中での立ち位置が弱くなっていってしまう一方だと感じました。

 ――IFMSAではどうして日本で国際会議を開こうと考えたのですか。

 棚元(医) より多くの日本人学生に国際会議を経験してほしいというのが、私たちが国際会議を誘致するに至った一番の理由でした。開催国はより多くの学生が参加することができますからね。皆さんがおっしゃっているように、例えばこれから国内で働くとしても、国際的な幅広い視野を持っていることは医療者としても大切で、そのような視点を一番養うことができるのが国際会議だと思っています。さらに、国際的なイベント運営を経験できる機会はなかなかないですから、私たち運営側にとっても非常に良い経験になると考えました。

国際会議とは「刺激」「体感」「感じる」

 ――最後に世界会議について一言で表すと。

 舟木(理) 向上心です。海外のことを学び自分の国のことも学ぶことで、まだ知らなかったことが必ず見えてくるので、そういったところから「もっと学んでみよう」とか「こうしてみたい」といった向上心につながるんじゃないかなと思います。

「国際会議を一言で表すと」を発表している様子。中央は理学療法学生協会の土屋さん

「国際会議を一言で表すと」を発表している様子。中央は理学療法学生協会の土屋さん

 千葉(理) 発達です。世界会議に行くことで周囲を知ることが大切だと思います。それで自分の足りなさに改めて気づかされ、そこから改善していくことが自分の発達にもつながって、それがやがて患者さんとの関わりにも関係していくのかなと思います。

 土屋(理) 刺激です。国際会議に参加して、人と関わる中で必ず学術的、文化的にも対話している中から気づく部分、自分の今までになかった知識に必ず出会います。そういうことを知るということは学生としても人としても大事かなと思います。

 海野(薬) 体感できることですね。11日間という国際会議でいろいろ壁にぶつかったりもしましたが、普段は文章などを読んで知ることが多い国同士の違いを実際に話して知ることで、より印象に残ったりと、総合してとても良い思い出になったということで「体感できる」にしました。

対談を終えて。1列目左から棚元さん、海野さん、中川さん、塚本さん。2列目左から千葉さん、土屋さん、舟木さん

対談を終えて。1列目左から棚元さん、海野さん、中川さん、塚本さん。2列目左から千葉さん、土屋さん、舟木さん

 棚元(医) 学生の間にしか経験できないことです。旅行だったらいつでも行けるし、大人になってからも行けるけど、これだけ世界中の学生が一堂に会することって国際会議しかないと思うので、本当に貴重な今しかできない経験だと思います。この経験は、自分の成長にもつなげられますね。

 塚本(医) 感じるです。考えたり、発信したりすることは、もちろん日本国内でもできることです。だから「日本で行動すればいいんじゃないか」とか「行く必要ないんじゃないか」と思ったこともあります。しかし、その場の空気というか、実際の雰囲気で感じることで得られるものがあります。行かなきゃ分からないことってやっぱり多いんですよ。まず行って感じてみる。そうすることで、きっと得られるものがありますよ。


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