サンキュードラッグ代表取締役社長
平野 健二
前号では、薬局・薬剤師の姿が20~30年ごとに変わってきたことをお伝えしました。来年卒業する学生さんにとって20年後の姿が分からないとしたら、将来は大変不安なものになります。ご安心ください。医療の世界は、他の業界に比べ、はるかに予想しやすいのです。
“医療”は将来予測が可能
例えばITの業界では、きょう世界最新の技術を持っていても、あす目覚めたら時代遅れになっているということが容易に起こり得ます。それに対して、医療の世界では10~20年後の姿をある程度予想することが可能なのです。なぜなら、ITの世界での革新は秘密裏に進んでいくのに対して、医療の世界での変化は「人口動態~人口の増減や年代構成」が最大の変化要因だからです。
20年後に60歳になる人の数は、既に存在している40歳の人の数から、経験的に知られている死亡率を計算することで、かなりの精度で予想がつきます。もちろん死亡率は医療の進歩によって長期的には変化しますが、20年くらいでは大勢に影響はありません。また、どの年代の人が、どのような疾病に、どのくらいの率でかかるかについても、地域単位で統計が取られており、これも高い精度で予想可能なのです。
日本の医療費は、2011年度、37.8兆円となりました。大きすぎてピンと来ないと思われますので、国民1人当たりに換算すると、約30万円になります。若い皆さんには「そう大した額ではないじゃないか!」と思われるかもしれません。働けない人たちの存在に気づかないからです。
厚労省は、15歳以上64歳以下の人を生産年齢人口と呼び、それ以外の年齢層の人を生産活動に従事しない世代として分類しています。これが全人口の36%に及びます。実際には皆さんのような学生さんは24歳になっても税金を払っていません。他方、65歳以上でも稼いでいる方もたくさんおられます。差し引きすると、この分類以上に多くの人が、実際には納税をしていないのです。ということは、より少ない人口で医療を支えなくてはならないのです。
ここで、「保険」というものを考えてみましょう。本来、保険というのは、拠出された保険料をベースに、プールされた資金を運用した利益を加え、経費を差し引いたものから保険金を支払う仕組みを指します。保険料と運用益以上に保険金を払い続ければ、保険としては成り立ちません。最初にもらった人は得をし、最後にもらえない人が損をすることになります。日本の人口構成がまだ若く、経済も伸び続けていた時代には、公的医療保険の自己負担は1割で済んでいました。しかし人口が減少傾向となり、経済も停滞する現在は3割ですし、将来は5割になる可能性もあります。
このような世代間ギャップ(不公平)をどうするかという問題もあります。保険を悪用したり、モラルハザードが発生しないために、自動車保険などでは、事故率の高い人の保険料は高くなるなどの仕組みが組み込まれていますが、医療保険ではそのような仕組みはありません。医療を利用すればするだけ「お得」と言うこともでき、医療費高騰に対する歯止めが利かないという面もあります。もちろん、だからこそ安心できる医療保険制度であるとも言えるのです。
さて、日本の医療保険制度がどうなっているかというと、実は給与からの天引きや、企業が負担することで集めた保険料は48%に過ぎず、自己負担の12%を加えても足りずに、税金からその支出の40%近くが投入されているのです。その額は2011年度で15兆円におよび、国家の税収の1/3にもなるのです。
ちなみに国家の税収は同年度で44兆円弱しかないのに対し、歳出(支出)は92兆円に上ります。さらに、積み上がった国の借金は1000兆円にもなっています。これはGDPの2.24倍になっており、イタリアの1.3倍、アメリカの1.13倍、ドイツの0.86倍などと比べても世界最悪の借金漬け財政というのが実態なのです。
プロに望まれる効率的な運用
困ったことに、医療費は伸び続けています。毎年1兆円ずつ伸びていると思っていただければ良いのですが、その最大の原因は高齢化です。人口で約25%に過ぎない65歳以上の方々が、全医療費の55%を使っています。また、人生の総医療費の半分を使う年齢はと言えば、これが70歳以上なのです。このように、高齢化は急激に医療費を膨張させます。
また、高度医療の進歩や画期的な新薬の開発により、従来治せなかった病気に新たな治療法をもたらしたり、体への負担を減らすことでQOLを改善したりできるようになりました。しかし、そのことがさらに医療費を高騰させます。この結果、2025年前後には、皆さんの給与から天引きされる医療保険、介護保険、年金、税金(すべて増加しています)を合計すると、国民総所得の62%に相当するとまで言われています。生産年齢に該当する人たちで負担するとすれば、さらに負担は重くなってしまうのです。
高齢化によって、医療必要件数が増加する一方、上記のように財源には限りがありますので、医療費総額は相対的に抑制せざるを得ません。
医療費総額=医療必要件数×単価ですから、この公式を成立させるためには、単価が下がるしかありません。医科(病院・医院)、歯科、薬局のどこで、あるいは薬局の中でも技術料なのか、薬価なのか。それぞれの利害が絡む中で駆け引きが行われています。しかし、以前のように政治力を頼んで診療報酬を維持・増大させる試みを続けていると、国民から総スカンを食らう時代に差し掛かっていることを忘れてはいけません。プロだからこそ、医療費を効果的・効率的に使い、より低いコストで品質を維持向上させることが求められるのです。医療費抑制の方法は数多く検討・実施されていますが、そう遠くない将来まで含め、薬剤師に関わりの深い主なものをリストアップすると、下記のようになります。
▽医療・介護のプレイヤーの役割変更=[1]入院日数削減[2]病診連携[3]療養病床削減~在宅介護の推進[4]リフィル
▽調剤報酬の引き下げ=[1]技術料[2]薬剤料▽予防
次号では、この詳細と、薬局経営、薬剤師の役割について論じます。