
日本薬学生連盟広報部は、大分県杵築市にて「つきの薬局」を開局し、地域に密着した数多くの活動を展開する一方で、NPO法人日本薬育研究会を設立し、子供たちへの薬の適正使用に関する教育にも取り組む管理薬剤師、小路晃平さんにお話をうかがいました。塚本有咲(大阪医科薬科大学4年生)、田代莉咲子(昭和医科大学3年生)が聞き手となり、自身の活動に込められた想いや経験から感じたことを語っていただきました。
能動的な体験通じ学ぶ‐薬剤師の役割を反映
――地域でどのような活動を行っていますか。
開局後は、薬局と駐車場を活用してマルシェやイベントを開催し、地域の方々と少しずつでも顔が見える関係になれるような工夫をしていました。「ひいなめぐり」というお雛様を街中で飾る行事には、女雛・男雛を生薬の花にした「生薬雛」を花屋さんと協力して飾りました。他にも地元のお祭りの運営に関わったり、地域で栽培している和ハーブを使用した「城下町コーラ」を考案したりしました。
――それらにはどのような想いで取り組んでいましたか。
もともと地域の行事が好きで、もっと人の輪に入り、地域に溶け込みたいという想いがありました。最初は新参者だったので、薬局を皆さんの生活を支える存在だと感じてもらおうと思いました。また、自分が住んでいる地域に貢献することは重要だと思っていました。
地域の団体やイベントにも関わって信頼を積み重ねていき、街の中で普段からあいさつできる人が増え、私にとっても居心地がよく感じられました。
また、活動に関してメディアに取り上げてもらい認知が拡大すると地域の人も健康相談をしやすくなるので、回り回って患者さんのためになることにつながるとも感じていました。
――薬の適正使用に関する教育、すなわち「薬育」を広げていこうと思った経緯を教えて下さい。
学生時代に、患者さんの問題を解決できる薬剤師になりたいと感じ、学生のうちから何かしたいと思って日本薬学生連盟で活動をしていました。
そこでの活動を通して、学生時代に社会的な課題を一つ見つけて解決できるアイデアを考案できれば、社会に出た後もその活動をより広げて継続できると考えていました。そんな時、独自に企画して大学の学祭で開催した、子供たちに副作用やTDM(薬物血中濃度モニタリング)のことをゲームで伝えるイベントを行ったことで、薬剤師について知ってうまく活用してもらうことが地域の人の健康につながるのではないかということに気づけました。
――子供たちに「薬育」がより伝わるようにどのような工夫を行っていますか。
能動的な体験を通して薬育が学べるように工夫をしています。薬草から蚊取り線香を作る教室では、ただ蚊取り線香を作るのではなく、虫の害などの周辺知識を学んだ後、薬品を使うリスクについて添付文書を活用したワークで学ぶという薬育要素をプラスしています。ワークでは、危険なことが起きる前に防ぐ事例と、起きた後の原因を探る事例を用意しています。これは、副作用が起きたり薬同士の相互作用で具合が悪くなったりといった、薬によって何か身体への悪い影響が発生する前に解決する薬剤師の役割や、それらの影響が起こった後に原因が何かを判断して解決する薬剤師の役割を反映しており、薬剤師が啓発していく意味合いもあると考えています。
また、薬の適正使用の前に、「健康」というキーワードが大事です。身体に異常が起きたら薬を飲めばいいんでしょという認識が多くの人にあると思います。
しかし一番大事なことは、食事・運動・睡眠の生活バランスを整えることで自然力や免疫力を高めて身体を守ることです。自ら生活を見直せるようになると、軽度の不調は自身で対処できるセルフメディケーションにもつながってきます。それも根底として子供たちに教えています。
通院していない人に焦点‐適正使用学ぶ機会は少ない
――「子供」に焦点を当てて活動しているのにはどのような理由がありますか。
そもそも「薬育」の定義が早期からのお薬教育であるため、子供がターゲットになっています。それに加え、通院を継続する人は薬局でフォローできるので、それ以外の人をターゲットにしたいという思いもありました。
病院や薬局にかかっていない子供たちが薬について学ぶ機会は、学校のカリキュラムではほんの数回ある程度で、それも違法薬物について学ぶことの方が多いです。薬を正しく使う方法を理解した上で違法薬物について勉強していくということを広める必要があると感じました。よって、子供たちに薬育活動をするというのが理にかなっていると感じています。
――子供たちに「薬育」が広まることで、どういった良い影響があると考えますか。
まず、薬の適正量を学ぶ体験で、少ないから効果がないとか、多いから早く治るわけではなく、処方された正しい量を服用することが大事だということを学びます。
そして薬と体の相性を学ぶ実験で、アレルギーや副作用のように、薬を正しく使っても具合が悪くなることがあるということも学びます。その時は医者や薬剤師に相談するなど、とにかく誰かに伝えましょう、お薬手帳に状況を書きましょうということも勉強してもらいます。
そうすることで、薬の友人間での貸し借りや転売はなぜやってはいけないのか、正しく薬を使わなかったら副作用が起きてしまう、薬剤師の存在を知れたからもし何かあれば薬局で訪ねてみようといったことを考えてもらうことができれば効果は大きいです。今後の健康へのアプローチになり、薬による被害の軽減につながっていくと考えます。
――薬育の活動が薬剤師の仕事に通ずるものはありますか。
大人でも正しい服薬の仕方を知らない人は多いです。高齢者で医薬品を乱用してしまう方や、置き薬を長期にわたって飲んでしまう方も世の中にはたくさんいるのです。正しく服用してもらえるようにアプローチをしていく必要がありますが、指導することはとても難しいです。患者さんとある程度の関係性が築けていない時に、これはダメです、こう変えてくださいと言っても患者さんは行動変容を起こしてはくれないのです。
地域の活動や普段の日常で会話をする機会を増やして信頼関係を構築していければ、ようやく患者さんの生活の改善につながる一言アドバイスが響いてくるのだと思います。そのためにも、地域に貢献して頑張っている人だと認識してもらうことは効果があると私は思います。これが効率の良い方法かは分かりませんが、一見薬剤師の仕事とは関係ないように見えても、正しい医療を広めるという側面で薬剤師の仕事につながっていると肌で感じています。
前述した通り、私は地域に溶け込んで何かをするところからアプローチしていく方法が、楽しくて自分に合っていると感じました。しかし、そのやり方は人それぞれです。患者さんの問題を解決できるための方法を、各々の得意分野で考えていくのが良いと思います。
患者へのアプローチ見つけて‐問題に挑戦する想いが大切
――どのような社会を目指して日々活動しているのかをおうかがいしたいです。
一人ひとりが正しく安全に薬を使用してセルフメディケーションができる、そんな社会が実現できたらいいなと感じています。
例えば、3歳からでも薬育はできます。幼い頃から生活や教育の中で様々なものに触れ、その中で薬育を学び正しく安全に使える、そして薬での健康被害を少しでも減らすことができればと感じてこの活動をしています。
その考えに至った原点としては、やはり学生の頃に自分の中にある問題意識に気づき、解決したいという想いが生まれたことであると、今振り返ってみて感じます。
田代 私自身、小児期の闘病経験があり、多くの人に助けてもらった経験があって、薬剤師になった後は小児医療に携わりたいと感じています。小路さんから小児医療に関心がある薬学生へメッセージをお願いします。
自分自身が実際に闘病の経験をしてきた方は、困難を乗り越えたからこそ届けられる言葉や、患者さんに響く伝え方ができると思います。
難しいのは、それに加えて薬剤師という一人の医療者としての専門性や考え方、確かな知識も兼ね揃えておく必要があるところです。患者さんとの様々なアプローチの仕方を徐々に知っていき、自分の中で答えを見つけて対応していくことが良いと思います。
闘病経験が自身になくとも、患者さんや家族が抱える問題からアプローチをすることができます。
また、漠然と小児医療への興味やアプローチに関心があるという方は、どうして子供に興味があるのか、どの部分に課題を感じているのか、どう解決したいのか、どんな社会にするために貢献したいのかといったように自分の考えを一つずつ紐解いて軸を明確にしていくと、見えてくるものがあると思います。
私も大学入学後、小児の分野、子供たちに何かしようと思い続けてきたわけではなく、目の前の問題や課題を感じ、そのアプローチとして子供たちに関わる分野に関心を持っていきました。
小児医療だけでなく、どの分野に関しても言えることではありますが、皆さんが視野を広げて物事をよく見ていく中で、問題だな、課題だなと思うことに挑戦しようとする想いが大切だと思います。