【慢性期医療と薬剤師】No.1 「QOL維持・向上を目指したケア」目標に

2015年9月1日 (火)

薬学生新聞

鳴門山上病院薬剤科長
賀勢 泰子

超高齢社会の現状と課題

賀勢泰子氏

 日本の高齢化は急速に進展し、人口構成はピラミッド型からコマ型へ変化し65歳以上の比率は高くなる一方で若年層は減少している。団塊の世代が75歳以上になる2025年には、高齢者数は、3657万人、55年の高齢化率は39.4%と予想されている。同時に、認知症高齢者の日常生活自立度II以上の高齢者は470万人(12.8%)に達し、単独世帯および夫婦のみの世帯が増加するが、地域によって高齢化の状況は異なる様相を見せている。このような超高齢社会を支えるため、医療・介護の連携ならびに地域医療提供体制の整備が喫緊の課題となっている。25年に向けて、「地域医療構想」のもと高度急性期、急性期、回復期、慢性期と新たな病床分類での地域医療再編と病床削減、入院医療から外来、在宅医療へのシフトが求められている。

 これまでも療養病棟の薬剤師はチーム医療の一員として慢性期の入院医療を支えてきたが、地域医療を支えるには療養病床が機能することが不可欠である。良質な高齢者医療および薬学的ケアを提供するために地域の高齢者を支える慢性期医療のあり方と薬剤師の関わりについて述べてみたい。

急性期医療と慢性期医療(療養病棟)の特徴と役割について

 病院の機能は、高度急性期、急性期、回復期、慢性期に分類されると述べたが、病院機能とそれぞれの特徴をに示した。高度急性期、急性期は、急性疾患に緊急対応し主に生命を救う機能を有し、一般的に入院期間は1週間程度である。一方、回復期は、急性期で救命された後に疾病によって生じた機能低下や障害を回復させ日常生活を取り戻すための機能を有し入院期間は数週間から数カ月である。

 慢性期では、病態や障害等がある程度固定し長期にわたって疾病や傷害と向き合って療養する必要があるが在宅への復帰が困難な患者、今後の回復が見込めない患者には尊厳ある生を最期まで全うするための支援が求められ、長期的なケアを担う役割を有する。

 保険給付では、急性期はDPC病院を除いて出来高払いであるが、回復期、療養病棟は包括支払いとなる。

 いずれの病床機能で対応するかは、患者の病態や病期によって異なるが、慢性期(療養病床)の入院患者は、超高齢社会を反映して主に高齢者が主体となっている。いずれの病床機能にあっても患者さん一人ひとりと向き合って病態や病期に応じた薬学的ケアを提供することに変わりはない。

高齢者の特徴と薬物療法を支える薬剤師業務

 高齢者は一般に複数の慢性疾患を合併し多科受診するため長期に多剤処方(ポリファーマシー)を余儀なくされている。また、腎機能、肝機能等の低下によって薬物の代謝・排泄が変化し副作用が起こりやすい。しかも、疾病による症状と有害事象の区別がつきにくく、副作用に気付きにくい。また、精神・運動機能の低下等によって適正な服薬管理が行えず、効果の減弱や症状の悪化につながる高リスク状態にある。

 さらに、独居高齢者の増加と共に介護者の高齢化が進み適切な薬物療法を行えない状況にある。薬剤師はこうした高齢者の薬物療法上の問題点を総合的に把握した上で、患者個々の情報を基礎とした処方支援および服薬支援を実践する必要がある。

高齢者の多剤処方の問題点と薬剤師の処方提案

 高齢者のポリファーマシーの問題点は、医療費の増大、服薬に伴うQOL低下はもとより、服薬の過誤、処方や調剤の過誤、薬物相互作用等による有害事象の増大がある。

 高齢入院患者で薬剤数と薬物有害事象の関係を解析した報告では6剤以上で有害事象は増加し、薬剤数と転倒の発生を解析したところ5剤以上で転倒発生頻度が増加したとの報告がある。高齢者では、加齢による薬物動態の変化により薬物感受性が増大し、薬効過多となりやすいため、まずは薬物動態から処方の見直し・処方の再提案が必要となる。腎機能、肝機能を評価し、臓器機能に応じた適切な投与量の見直し、適切な薬剤への変更を行う。

 また、常に薬物療法をモニタリングし、検査値や薬物血中濃度測定結果を評価・解析し、投与量の削減、あるいは投与間隔を見直し服薬回数を減ずるなどの見直しが必要になる。ただし、高齢者では、検査値のみにとらわれることなく、患者の服薬能力、コンプライアンス、アドヒアランスを見極める必要がある。必ず、在宅での服薬状況を聞き取り、患者の薬識、服薬能力を評価すると共に、可能な限り自宅にある残薬を全て確認しコンプライアンスの現状を把握するなど、高齢者の総合的な評価に基づいて処方の見直しを行う必要がある。

 処方の再提案により薬剤を変更・中止する際は、どの薬剤が病状に関係したか判断できるように少しずつ徐々に行う。急激な中断により症状が悪化しやすい薬剤では注意しながら1種類ずつ減量、中止を行う必要がある。

 このように、療養病床における病棟薬剤業務、薬学的ケアの実践に当たっては、「高齢者の多病と多様性」を踏まえ高齢者の病態と生活機能、生活環境を把握し、「QOL維持・向上を目指したケア」を目標に、家族もケアの対象者として生活の場に即した医療を提供する必要がある。

 薬剤師は、常に患者に寄り添い患者の意思決定を支援し、高齢者ご本人の視点に立ったチーム医療を実践することが重要となる。病院全体で取り組む多職種によるチーム医療と病棟薬剤業務の実践は、確かな成果を生み出している。

 次回以降は、療養病床における具体的な薬剤師業務を紹介したい。



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