【明日の山に向かって~「病棟薬剤師」その先へ~】第6回 皆さんに託したいこと

2016年7月1日 (金)

薬学生新聞

明治薬科大学臨床薬剤学教授
加賀谷 肇

医療現場は大きく変わった

加賀谷肇氏

 このシリーズも今回が最終回です。これまで筆者が歩んできた医療における薬剤師の思いを皆さんに伝えて結びとしたいと思います。

 薬学出身者の働く場所は、病院や保険薬局のほか、製薬企業、行政、研究機関や大学など多岐にわたっています。その中で私は病院薬剤師という道を選びました。私が大学を卒業したのは1975年です。その当時の大学では基礎薬学中心の授業がほとんどで、現在のような臨床薬学などはアメリカの大学では施行されていましたが、私たちにとっては夢のような世界でした。

 私が37年あまり病院薬剤師として医療を見てきて確実に変わったと思うことは、医療者主体であった医療が、患者主体になったということです。そして医師が中心でそれをサポートする看護師という従来の構図に、いわゆるコ・メディカルが加わってチーム医療という形態に変化してきたことです。

 しかし、私はコ・メディカル(Co-medical)という名称には不満がありました。これは82年に提唱された和製英語です。患者教育には医師のみならず全ての関係スタッフの協力が不可欠として、医師以外の関係スタッフを卑下するようにも取れる、従来英語圏で使われていたパラメディカル(paramedical)に代わる言葉として医療社会で受け入れられたものでした。接頭辞“para”は「補足する」「従属する」という意味で、パラメディカルは医師を補助する職種を指しています。paraの使用を止め、「協同」を意味する接頭辞の“co-”を用いた「コ・メディカル」の呼称の使用を提唱されたものでした。

 コ・メディカルという呼称は、チーム医療の推進・定着に寄与した名称だと思います。現在は、医師以外の医療職をコ・メディカルと区別せず、医療従事者をまとめて「メディカルスタッフ」と称することになって、私もやっと納得のいく呼称になったと感じております。

 また、92年に医師・歯科医師に加え薬剤師、看護師が医療の担い手として医療法に明記されたことも大きなエポックでした。

 かつては調剤を正確に行える知識や技能を有する薬剤師を、病院では人選のポイントとしました。現在はそれに加え、患者さんや医師、看護師等と十分なコミュニケーションをとれる人物かどうかという態度が大事な要素となってきました。

 医療現場における薬剤師の仕事は、医療薬学を駆使したものへと大きく変わってきました。そしてそれらに厚生労働省から診療報酬をつけていただけるようになり、医療における薬剤師の役割も明確化してきました。薬学教育が6年制になり、臨床教育に費やす時間がさらに2年必要になったのは、このような社会の要請に対応するためだと実感しております。

 医学や薬学はScience basedです。しかし病院や保険薬局で行われているのは医療です。医療にはサイエンスとアートが半分・半分必要なのです。サイエンスだけで治癒率や余命などを説明しても、患者さんに希望を与えることはできません。アートのマインドを持って患者さんに寄り添えなければ、信頼関係は生まれません。

薬学のスピリットとは

本人の名前などを刻んだ世界で1本だけの刻印入りスパーテル

本人の名前などを刻んだ世界で1本だけの刻印入りスパーテル

 薬学6年制教育を受けて社会に巣立つ皆さんに伝えたいのは、次の5つのことです。[1]使命感を持つこと[2]医療に対する誓いを持つこと[3]己の立つところを掘り下げること[4]希望には目標が必要であること(Hope needs goal)[5]ライフワークとして薬剤師を考えること

 私は病院の薬剤部長だったとき、病院を退職して次のステップに進む薬剤師や、臨床薬学大学院修士課程の臨床研修を修了した薬学生に、本人の名前と病院の名前を刻んだ世界で1本だけのスパーテルを授与しておりました。

卒業生には刻印入りスパーテルを授与している

卒業生には刻印入りスパーテルを授与している

 そして、本学臨床薬剤学研究室から卒業して社会に飛び立つ卒業生にも同じくOnly oneの刻印入りスパーテルを授与しております。医師のシンボルが聴診器だとしたら、私は薬剤師のシンボルはスパーテルだと思うからです。スパーテルに刻印を入れて「入魂」し、彼らに授与して社会に送り出しております。必ずしもスパーテルを使う職業に就かなくても、自分は薬学で学んだというスピリットを入魂して渡せば、どの社会に進んでも自分は何のために働いているかを心に宿すのではないかと信じているからです。皆さんも何か志のようなものを学生時代に見つけてください。

 皆さんは、将来の日本の医療を担う大切な卵です。いずれ国家から資格を与えられたら薬剤師として「一人ひとりが社会に還元する任を負ふ」という覚悟を持つことが、この国の将来に必要なことだと思います。

おわり



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