【薬剤師になる前に~今だからOTC医薬品を学んでおきましょう!】第10回 OTC医薬品概論(4) “皮膚薬(水虫・たむし用薬、痔疾用薬)”

2016年9月1日 (木)

薬学生新聞

(株)スギ薬局、日本薬剤師会一般用医薬品等委員会委員
藤田 知子

藤田知子氏

 薬局店頭でのセルフメディケーションの対応として外せないのが皮膚薬です。そんな中でも、皆さんも経験がある、「水虫」や「痔」は、病院で診てもらうことをためらい、まずはOTC医薬品を利用して治そうと思う疾患ではないでしょうか。しかし、これら疾患は治ったと思えばまた繰り返し発症するため、受診を余儀なくされるケースも少なくありません。実は、適正な医薬品を選べば、これらの疾患は十分に完治できるものです。なかなか治らない状況を確認してみると、間違った使用方法で治療している状況も散見されます。今回は、セルフメディケーションで対応できる「水虫・たむし用薬」と「痔疾用薬」について適正な医薬品選択と正しい使用方法の情報提供ができるよう解説します。

自己判断で間違えやすい水虫

 水虫は、白癬菌による皮膚感染症であり、体のいろいろな部分に発症しますが、OTC医薬品は、足、体部、股部にできるものを適応としています。部位が限定されているので、それ以外の部分、特に爪にできた水虫の場合は受診対象となります。また、水虫だと思っていても自己判断では間違えやすい皮膚疾患の場合もあります。そんな場合、水虫薬を塗布することでかえって症状が悪化する場合もあり、水虫かどうか、患部の特徴をよくヒアリングして臨床判断し、受診をためらっている人にもきちんと受診を促す必要があります。

 水虫・たむし用薬は、早くから、スイッチOTC薬が登場したカテゴリーで、現在、汎用薬のほとんどがスイッチOTC薬です。店頭には、白癬菌に対する抗菌作用が高く、角質への浸透力にも優れた「テルビナフィン」「ブテナフィン」など医療用でも汎用されている「第3世代」の抗白癬菌薬が多く並んでいます。しかし、「イミダゾール系(ミコナゾール、エコナゾールなど)」を中心とした第2世代は、抗菌スペクトルが広く、またカンジダ症との複合感染にも有効なので、第3世代が登場した後も、症状に合わせて使い分けられています。

 このことから、現在販売されている水虫・たむし用薬は、医療用と同じ効力のある抗真菌剤で、さらに、表面だけでなく、少し深いところにも十分な濃度の有効成分が届くよう基剤も改良されており、もっともポピュラーな趾間型足白癬などはOTC医薬品で十分治せるのです。でも、なかなか治らないと訴える方には、いま一度、使用中の抗白癬菌成分の世代、成分、配合剤成分を見直してみる必要があります。さらに、効果はあったけど、放置しておくと、また症状が現れるような場合は使用方法が誤っていないか考えます。適切な薬を塗っていれば、数日で治療効果が表れて、3~4週間後くらいには水虫の症状は改善します。しかし治ったと見えても、治療を止めたとたん再発してしまいます。つまり数週間の治療では、菌が死滅せずどこかに潜んでいるだけなのです。薬は最低2~3カ月塗って、症状がなくなっても水虫にならない環境を(予防)継続し、さらに1カ月間は使用することをお勧めすることが必要です。

肛門出血は重篤疾患の可能性も

 「痔」は、肛門部のうっ血が原因で、大きく3つの症状による分類が知られています。一番多いのが、「痔核(いぼ痔)」で、肛門の周りの静脈血管がうっ血してイボ状に膨れた状態で、さらに「外痔核」と奥側にできる「内痔核」に分けられます。次に、多いのが「裂肛(切れ痔)」で、排便時の出血や痛みの自覚症状があります。そして「痔瘻(あな痔)」は、細菌感染してできた膿瘍が、さらに悪化し、外科的治療が必要になってしまう疾患でセルフメディケーションの範疇ではなく必ず受診勧奨が必要です。OTC医薬品の成分は、「ステロイド剤」「抗ヒスタミン薬」「局所麻酔薬」「殺菌成分」「血管収縮成分」などがあります。「ステロイド剤」の有無で二分されますが、選択のポイントは、外痔核で痛みが強く急な炎症が出ている場合は、ステロイド剤入りを、内痔核で腫れがあり、ひどくない出血がある場合や、小児の場合には、ステロイド剤は避け、「血管収縮成分」が入っているものを選びます。さらに患部の状況に合わせて「坐薬」「軟膏」、その両方ができる「注入軟膏」の3つから選ぶことができますが、妊娠中の場合は、坐薬、注入軟膏は使用できません。

 痔疾用薬の内服用成分は、漢方薬の「乙字湯」が知られています。そのほか、肛門部の静脈の血行をよくするハーブエキスがあり、乙字湯と一緒に配合されている製品もあります。ただ、「乙字湯」には「ダイオウ」が含まれており、妊娠中、授乳中の婦人は避ける必要があります。妊娠後期、また出産時、出産後は痔になりやすいので、以上の注意点をよく考えて適切なOTC医薬品を勧めることが重要です。いずれにしましてもOTC医薬品は、あくまで、初期の症状を緩和する効力しかありません。外用剤では10日間ぐらい、内服薬ですと1カ月間使用しても、症状が改善されない場合は受診を勧めるようにします。肛門からの出血は、痔ではなく「直腸ガン」「結腸ガン」、あるいは潰瘍性大腸炎の可能性もあります。受診をためらう症状ですが、背景に重篤な疾患が隠れている場合もあるのできちんと説明して、受診勧奨を行うことが大事です。

 高温多湿の日本の風土では、草履、下駄など風通しのよい履物がメインでありましたが、現在は、夏でも日中、靴を履いて過ごす人が多くなり、年中水虫の人が見られます。また、長時間のデスクワークで運動不足、手足の冷えからくる血行不良、冷たいアルコールの摂取などにより、痔の罹患者も潜在的に多いと思われます。そうした日々の健康相談を受ける薬局薬剤師は、店頭での症状の訴えをしっかり聞いて、まずOTC医薬品の範疇で対応できるものかどうか見極め、さらに薬学的知見に基づいて適正な商品を選択します。せっかく適正な医薬品を選択しても使用方法で台無しになってしまう場合もありますので、完治するまでよき相談相手となれるように対応したいものです。



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