【対談 医師×薬学生】なぜ薬剤師が主人公のドラマがないのか

2016年11月1日 (火)

薬学生新聞


大学での学びが対人業務に役立つ

 ――対人業務においてこそ、今私たちが習っていることが生きてくるのですよね。

 そうですね。例えば、薬の血中濃度を有効域に保ち中毒域に到達しないように、また、いつ薬が標的に到達するのかを判断するために、薬物動態を学びますよね。薬剤師が医師に「やっぱりあの患者が吐いているのは、消化器症状ではなく副作用ですね。身長、体重、体表面積、腎機能から考えると薬の量はちょっと多いのではないでしょうか」と言って、処方変更になったとします。提案した薬剤師はきっと、その後の経過が気になると思います。ご飯を食べられているようだったら安心するでしょうし、2日経っても吐き気がおさまっていないのであれば、判断を間違えたかもしれないと悩むわけですよね。でも3日目で「食べた」と聞けば、「あーよかった。間違ってなかった」と胸をなで下ろすことでしょう。このシーンはドラマチックですよね。そこに決断がありましたから。このシーンは今君たちが学んでいることなしには起こりえません。

 ――薬剤師は患者の細かい状態を把握しなくてはなりませんね。

狭間氏

狭間氏

 薬剤師がやることはたくさんあるんですよ。吸収、分布、代謝、排泄の全てを見ないといけないわけですよね。吸収はまずちゃんとお薬を飲めているかどうか。剤形も考えなくてはなりません。分布には栄養状態や脂肪の状態も関係してきます。代謝には薬物相互作用も遺伝子多型も関係します。排泄においては腎臓、肝臓の状態も当然把握する必要があります。そこまで知っていないと患者さんのことは見えてきません。

 薬理学、薬物動態学、製剤学などはまさに薬を渡した後にしっかり関わるための科目とも言えますよね。患者さんが薬局に来た時に「その後どうですか?」といった言葉が不安の解消につながります。病院でも同じです。薬を渡した後、患者さんがどうなったのかを見るために病棟に薬剤師がいるんですよね。非常にシンプルなんですよ。薬を出した後を見るための勉強を君たちは今まさにしているわけです。

バイタルサインをどう活用するか

 ――バイタルサインなども最近学びました。

 バイタルサインも、なぜそれが必要かを分かった上で学ばなければ意味がありません。降圧薬が出ていたら血圧がちゃんと下がっているかを確認する。気管支拡張剤が出ていたら、気管支が拡張しているかを聴き取り、副作用として徐脈や頻脈が出ていないかを把握する。抗不整脈薬が出ていれば、ちゃんと効いているかどうかを確かめるために心音も聴くんですよね。医師や看護師が取るバイタルとは目的が違います。その上で、お互いの視点からその情報を共有したらいいんですよ。そうしたら、患者のことがもっと分かってきますよね。

 ――以前、狭間先生の講演で、1年目の薬剤師には在宅に行ってもらっているとお聞きしました。

 その通りです。どういう経緯でその薬が出て、今患者さんはどういう状況なのか、在宅に行くとよく分かります。バイタルサインを学んだ6年制卒の薬剤師は、自分の知識からちゃんと患者さんを見ることができますからね。在宅に行くと当然、分からないことがあったり、決断を迫られたり、間違いも生じたりします。それを体験した薬剤師は、学会に出向いたりして自ら勉強するようになるでしょう。ここにはドラマがありますよね。

 ――セルフメディケーションの観点からも薬局でのトリアージやOTCの販売は、これからとても大切になると感じています。

左から小池さん、矢野さん

左から小池さん、矢野さん

 そうですね。忘れてはならないのはOTCを販売する時も、薬剤師が薬を渡した後を見なくてはならないということです。

 胃薬を求めてきた人の中には胃がんの患者さんもいるかもしれない。薬を出した後も何度も胃薬を買いに来るようなら、「一回検査してみましょう」と受診を勧奨すべきです。もしこれでがんが見つかったら、その患者さんは薬剤師を信頼してくれます。これこそかかりつけ薬剤師ですよね。単にOTCを売るだけの仕事で終わっていたら、そもそも誰に胃薬を販売したのかも覚えていないわけですよ。対物業務から対人業務へシフトすることで救える命があるんですよね。

 ――薬学部は卒業研究が必須ですが、今後対人業務が主体になる中で、基礎研究は将来にどう生きてくるのでしょうか。

 基礎研究は極めて重要だと思いますよ。研究とは、分かっていないことに対して仮説を立てるわけですよね。それに対してあらゆる手法を用いて証明するのが研究です。サイエンティフィックな考え方を学ぶと言う点で、卒業研究は非常に大切です。これは対人業務にも生きてきます。

 また、スティーブ・ジョブズが「Connect the dots」と言っています。一見関係ないことに思えても、将来どこかで生きてくる。薬学部は過渡期ですから、より多くの経験をしておくことが将来のためになると思いますね。

 僕はよく、薬学生に言うんですよ。2025年の時に君たち何歳かと。まだ若いわけですよね。2035年でやっと僕と同じ年くらい。これから薬剤師は猛烈に変わっていくでしょう。そんな時に現場でバリバリに働いているのはほかでもない君たちです。とても面白い時代だと思いますね。

何がしたくて薬剤師になるのか

 ――どの点がつながるかは、後からでしか分かりませんしね。

 就職先の選択にしても、薬学生から「あそこの薬局はこうらしい」「あの企業はブラックらしい」という言葉をよく聞きます。全部伝聞形ですよね。今は情報過多の時代ですから、自分でちゃんと調べて、目で見て、自分の信じたところに就職するべきだと思います。そして就職後はそこにどっぷり浸かってみることです。何かを変えようと思ったら、まずは自分がそこにあえて突っ込んで、その問題点を自分自身が痛感しないといけません。

 サイモン・シネックが「Whyから始めよ」と言っています。大学の勉強にしても、なぜそれをやるのかを意識してほしいと思います。「何がしたくて薬剤師になったのか」と私はよく薬剤師に問います。細部の違いはともかく、基本的には患者さんのためですよね。それを見つめ直せた薬剤師は、また他の薬剤師に根源的な思いを問い直させることになるでしょう。

 ――そうなってくれば、薬剤師のドラマもできてくるかもしれませんね。

 何度も言いますが、とてもシンプルな話です。薬を出した後を見る。これに尽きます。そうすれば「処方はもっとこうした方がいいんじゃないの」というアイデアが浮かぶ。それを医師に言うかどうか、決断が生じます。決断が採用された瞬間から責任が生じます。この決断と責任があるところに足を踏み込むと、人生は極めてドラマチックになります。薬剤師のドラマもきっとできるでしょう。


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