現状は「病人サポ-ト薬局」‐健康人にアプローチこそ必要
――将来的にAIなどが薬局に導入されていくかもしれません。そうなったときに、薬剤師の業務はどのように変わってくると思いますか。
どんどん変わってくるでしょう。膨大な情報は機械に任せたらいいと思います。薬剤師は、個々の患者さんのこだわりや好みに応じて、特徴に合った対応をしていくという一人ひとりの患者さんに対する“薬学的マネージャー”であるべきだと思いますね。
また、最近は健康サポートの概念が広がってきているとは思いますが、まだまだ「病人サポート」です。健康な人に一次予防としてアプローチしていくことこそが「健康サポート」であり、これからの薬剤師が担っていくべき部分だと思います。
職が失われるのではないかというネガティブな意見もありますが、そんな時代だからこそ、新たな業務に取り組んでいきたいです。例えば、面対応の薬局だと、10人の患者さんに対して10人の医師、10個のネットワークがあるわけです。そうなってくると報告書の作法も違ってきます。患者さんの情報をうまく機械で管理できるようになればだいぶ楽になりますし、在宅訪問時に経管栄養剤などを運ぶのは結構大変なので、運搬の面でも機械化や委託ができたら助かります。
機械に任せられるところは任せていくと、薬剤師が患者さんのためにできる範囲は変わってきますよね。そういった技術が使える時代こそ、地域の連携が必要になってきます。
――他職種との連携はどのようにしていけばいいでしょうか。
札幌市西区には「在宅ケア連絡会」というものがあり、これは結構昔から取り組んでいます。「薬剤師・ケアマネカフェ」や「薬剤師・栄養士カフェ」といったものを開いていますが、各職種の満足度はとても高いです。
例えば、医師が医療器具を選び、在宅現場に持っていったら合わなかったなんてことがあるんですよね。医療器具の選択などは薬剤師に任せてくれていいんですよ。物流は得意技ですからね。そういったことを話し合って、患者さんのために効率的かつ包括的な医療を目指しています。
――一般市民との連携について、先生は市民向けの講演活動などもされていますが、このような地域活動も大切になってきますか。
そうですね。私は積極的に取り組んでいます。講演会に来るような人は、比較的健康な方なんですよね。だからこそ、一次予防の話を中心にしています。
――他に実践している地域活動はありますか。
毎年、小学校の体育館で医師や歯科医師、看護師や栄養士などと共に健康フェアに参加させてもらっています。検体測定のブースは毎年好評ですね。はじめは薬剤師2人の参加でしたが、昨年は30人を超えましたね。これまでイベントに積極的でなかった薬剤師も検体測定をして、生活習慣に対するアドバイスを始めると話が止まらないんですよ。知識があるわけですから、それを最大限に利用できる機会が楽しいんだと思います。イベントを通じて、急激に薬剤師の意識は変わっていくことを実感しています。
――検体測定によって一般市民の意識も薬剤師の意識も変わるんですね。
まさにそうです。口で言うよりも体験してもらえば分かります。「明日からの仕事の見方が変わりました」なんて言ってきた薬剤師もいましたね。検体測定をして自分でアドバイスすると、「自分の患者さん」という意識が芽生えるのでしょう。これは医療者として非常に大切なことです。
――様々なことにチャレンジされてきた高市先生にとって、薬局薬剤師のやりがいとは何ですか。
検体測定を通して患者さんと関わっていると、プライマリの段階から関われますよね。患者さんとのコミュニケーションがあって、それまでのストーリーがあると、その人の物語を達成するために関わることができるんですよ。終末期でも、亡くなるまでの付き合いとなると、薬剤師以前に、その患者さんの願いや思いをどうやって達成させてあげるかというやりがいがあります。
たまたま薬剤師は薬物療法のプロであるだけで、そこまでどういう付き合いがあったかは一人ひとり違うわけです。一人ひとりの物語に対して、最期まで関わっていける、それをより良いものにするために努力できるというのは、医療人として、また1人の人間としてやりがいがあることですよね。単発なエピソードでは得られないものだと思います。長い患者さんとの付き合いがあってこそ、得られる感情ではないでしょうか。
――最後に薬学生へのメッセージをお願いします。
若い皆さんはSNSにも慣れ、情報リテラシーは私よりずっと高いと思うので釈迦に説法ですが、たとえ先生の言うことであっても、先輩でも本でも、情報は鵜呑みにするなということです。そして根拠はなくても、仮説や物語で行動してもいいんじゃないかと思うことです。そのためには、いい仲間をつくることでしょうか。