就職戦線に異状あり?なし?‐各業界の動向を知ろう!~医薬品流通の動向~

2017年3月1日 (水)

薬学生新聞

社会的インフラの役割果たす

 日本の医薬品流通、特に医療用医薬品流通では、ほとんど100%近く卸が担っている。以前、千数百社もあった医薬品卸だが、現在ではM&Aが一気に進んで売上高1兆円以上の大手卸4社・グループと、北海道や東北、九州などに地元有力卸が数社あるだけとなった。

 大手卸は、医療用医薬品、一般用医薬品、試薬、動物薬、医療機器・医療材料から、健康食品、日用品、化粧品までの卸業に加えて、医薬品製造、調剤薬局を事業セグメントとして持っているグループもある。

 それらを含めた連結売上規模を見ると、メディパルホールディングスは2017年3月期で3兆0900億円、アルフレッサホールディングスは2兆5720億円、スズケンは2兆1050億円、東邦ホールディングスが1兆2350億円をそれぞれ見込んでいる。多くは、C型肝炎治療薬の急激な縮小、薬価引き下げ、ジェネリック薬の拡大等の影響を受けて、収益共に下方修正している。売上規模だけを見ると、日本では非常に大きな流通企業に見えるが、中核の医療用医薬品卸売事業では各社とも営業利益が1%に満たないのが現状だ。

 医薬品流通の特徴として、日常の安心・安全で安定的な医薬品流通・配送を行うことは当然、大地震や台風などの自然災害時、またインフルエンザ・パンデミック発生時にも、医薬品を医療現場へ届けなければならないという自負を持っており、実際に被災者でもある卸社員自らが届けたことは広く知られている。この社会的使命を完遂するため、卸各社はBCP(事業継続計画)に万全を期している。システムや物流拠点ネットワークの整備などが必要だが、ここでネックとなるのが前述した利益の少なさである。利益による投資で物流センターの自家発電装置など各種インフラが整備できなければ、有事の際に的確に医薬品を配送することが困難になってしまう。

 医薬品卸が医療用医薬品を流通させていることは、一般に正規ルートと呼ばれており、このルートに乗っている限りは偽造品などが紛れ込むことはない。このニセ薬のない市場(インターネット取引は除く)は、世界を見回しても日本だけと言っても過言ではないくらい希である。

 その安全とされていた日本で1月、C型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造薬が奈良県や東京で見つかり、業界全体、厚生労働省にも衝撃が走った。特に医薬品流通の当事者である卸と、患者に直接渡す薬剤師、薬局にとっては激震クラスの事件だった。信頼は長年の真摯たる姿勢と行動で築かれるものだが、1日で崩壊する。

 もう1つの大きな出来事は、年末に関係4大臣によって決定された薬価制度の抜本改革基本方針に関する「全品目」「毎年」の薬価改定である。医薬品業界、医療・医薬関係団体などが一致して断固反対を訴えていたが、結局は押し切られてしまった。

 中でも薬価制度の根幹となる薬価調査を行っている医薬品卸(日本医薬品卸売業連合会)は、[1]公定価の診療報酬と薬価は不即不離の関係で同時に行うべき[2]対メーカーの川上、医療機関・調剤薬局の川下で極めて厳しい価格交渉が見込まれ、短期間での価格交渉は単品単価取引が後退して、現在進めている流通改善に逆行する[3]改定前の買い控えと返品が顕在化し、卸の緊急配送が増えて多大な負担となる[4]2年に1回と比べて短期間の価格交渉労力が倍増し、情報提供・収集等の通常業務に支障を来し、災害時などでの安定供給に支障を来す――との理由から反対声明を出した。

 薬価制度の抜本改革の具体的な内容はこれから議論されるが、全品目、毎年改定は覆らないので、今後の具体策決定に向けたいろいろな対応に取り組んでいくことになる。



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