キャリア・ポジション社長
西鶴 智香
今回から新たに、キャリアカウンセラーの私が薬学生の相談事例を紹介するコラムが始まりました。卒後の進路について悩む薬学生は少なくないと思います。他の薬学生の相談事例を参考に、自身が望む将来の姿を想像してみましょう!
Q
薬学部5年生のAです。私は中学生の頃から薬剤師になりたいと考え、薬学部に入学しました。その頃近所の薬局でOTC薬の相談に乗ってもらった薬剤師がとても親切で優しかったのがきっかけです。いよいよ就職活動の時期になりましたが、周りは「キャリアの始まりは病院の方がいいらしいよ」という友達ばかりで、憧れの薬局薬剤師になりたいと思っている私は、迷い始めています。まずは病院に就職した方がスキルアップできますか?
A
「キャリアの始まりは病院がいいか、薬局がいいか」という議論は以前からありました。皆さんの先輩方も迷いながら就職活動をしてきました。結論から言うと、「こうした方が正解」という「答え」はありません。就職は「自分が将来どうなりたいか」で決めるものであり、モデルのようなものはないのです。
さて、ではなぜ皆「最初は病院がいいらしい」と言うのでしょうか。薬の専門家である薬剤師に求められるのは、医師が決めた薬をそのまま提供するだけでなく、患者のことを深く知った上で医師の処方を精査し、意見を述べることです。患者がどのような疾患で、今どのような状態なのかを把握した上で、最適な薬の選択を熟考しなければなりません。薬局よりも病院の方が、患者の多くの情報を入手しやすい環境にあるため、「最初は病院がいい」と考える方が多いのでしょう。医師や看護師と共に患者のためにチームで働くこともスキルアップにつながるとイメージしやすいのだと思います。
薬局では、患者情報の収集はできないのでしょうか?実は既に、医療連携ネットワークを作って病院、診療所、薬局、介護事業所間で患者情報を共有している地域はありますし、また、在宅医療の現場では、訪問診療の医師や看護師、介護者らと協働している薬局薬剤師も少なくないのです。国の方針から見ても、地域での医療と介護の連携ネットワークに、薬局薬剤師が積極的に加わっていくことが期待されていることがわかります。
病院と薬局は、「役割が違う施設」というだけであり、患者に関わる薬の専門家という薬剤師のポジションには何の違いもありません。病院に就職しても研修会にすら参加しない薬剤師もいれば、薬局に勤務しながら、医師と共に学会に参加し自己研鑽する薬剤師もいます。どこで、何をするのかは、あなたの「なりたい姿」次第です。