ヘルスケア産業は、一言で言えば「熱い」。医薬品市場は、日本では低迷予想だが、グローバルでは年率3~6%増以上と予想される成長市場。薬以外に目を転じると、医療DXによりアマゾン、アップルなどのプラットフォーム企業、AI、メタバースサービスを開発するIT企業などの異業種参入が相次ぎ、製薬企業ともタッグを組んでいる。ヘルスケア産業のキーワードは「協業」。就職先を選ぶなら製薬企業だけでなく、協業相手企業も視野に入る。
協業の好例はエーザイだ。アルツハイマー病(AD)の新薬を中核としつつ、予防、診断機器、民間保険商品、地域見守り、服薬支援、地域連携支援などで他社と協業。ADの予防から治療、予後支援まで各種サービスの「エコシステム」形成を進めている。
その協業先の一つが、スマホゲームなどを手がけるDeNAだ。そのDeNAはヘルスケア事業拡大を加速している。有力企業を傘下に収め、デジタルヘルスケアプラットフォームの構築に躍起だ。
この先、デジタルプラットフォームの上で予防、治療、予後支援のサービスを医療従事者が提供する未来が待っている。在宅患者の生体情報をIoTで取得し、自宅で検査、診断、治療、観察を行い、患者宅が病院の一部機能を果たす「自宅の病院化」の可能性さえ視野に入る。順天堂大学はメタバースを活用したバーチャル病院構想を進める。日本IBMが技術支援を行うが、日本IBMとて実現に向け新たなパートナー企業の参画を呼びかけている。
薬が重要な治療手段であることは変わらない。しかし、製薬産業はエーザイに見るようにDXで創出されるもう一つの医療世界をにらみ、事業の範囲を広げるために協業を進め、トランスフォーメーションを急いでいる。
とはいえ、医薬品関連企業を志望するなら、製薬企業は有力な選択肢だ。上場企業の給与等の待遇は厚い。2021年のDODA調査によると、20代でのMRの平均年収は、営業全体より130万円以上高い500万円超。全世代の平均年収では700万円超と、全体平均より約280万円上回る。
給与水準は売れる新薬を持続的に開発できるか否かで大きく違う。とはいえ、将来的な好不調予測も他産業に比べればクリアだ。将来性は各企業のIRページの新薬開発パイプラインから知ることができる。将来性に誰よりもうるさい証券アナリストのレポートでは詳細な企業分析がなされている。
一見リストラが激しい業界だが、むしろDXなどによる新世界への適合に向け「人材の入れ替え」という側面は見逃してはならない。お堅い製薬企業とて、ひと昔にはいなかったポロシャツにジャケットで、軽妙な語り口のIT企業然とした社員を見かけるようになった。
薬学生から企業就職で最も多い職種のMRも同様だ。MRの頭数で薬を売っていた時代から、MR数を要しない抗癌剤などスペシャリティ薬に主力品がシフトしたため、総数の減少が続いている。が、MRが不要と言い切る医療従事者は稀だ。
MR認定センターの調査によると、医師が最も頼りにする情報源トップはMRである。その割合は10年前より増えている。名医でも「毎日悩んでいる」と吐露する。臨床は日々課題と格闘する世界であり、共に課題を解決する「協業」が必要とされている。
デジタルが生み出すソリューションを臨床に適用させるのは、これからも医療人の役割だ。薬学の専門知識、臨床を見る目・知見は、新たな世界の創造を支援するには必要である。
【お詫びと訂正】
記事初出時、「富士通が技術支援を行うが、富士通とて実現に向け新たなパートナー企業の参画を呼びかけている」とあったのは、「日本IBMが技術支援を行うが、日本IBMとて実現に向け新たなパートナー企業の参画を呼びかけている」の誤りでした。お詫びして訂正します。