【これから『薬』の話をしよう】「治療薬」と呼ぶことの倫理性

2023年1月15日 (日)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 “国産”の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬に期待が集まる中、塩野義製薬が開発を主導したエンシトレルビル(ゾコーバ錠)が、2022年11月22日付で緊急承認されました。

 エンシトレルビルは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の3CLプロテアーゼを阻害することで、同ウイルスの増殖を抑制します。3CLプロテアーゼを阻害する抗ウイルス薬としては、重症化リスクの高い患者に用いられるニルマトレルビル(パキロビッドパック)が既に承認されています。そのような中、エンシトレルビルは無症状を含む軽症から中等症のCOVID-19に対する治療薬として製品開発が進められました。

 エンシトレルビルの有効性については、9月28日付で第III相臨床試験の結果をまとめたプレスリリースが公開されています。この研究では、軽症から中等症のCOVID-19患者1821人が対象となりました。被験者はエンシトレルビル125mg投与群、同250mg投与群、プラセボ投与群にランダム化され、COVID-19の主要5症状(鼻汁・鼻閉、咽頭痛、咳嗽、発熱、倦怠感)消失までの時間が比較されています。

 その結果、主要5症状は、プラセボ投与群に比べてエンシトレルビル125mg投与群で24.3時間、エンシトレルビル250mg投与群で21時間、統計的にも有意に短縮しました。つまり、エンシトレルビルを服用すれば、COVID-19の症状消失が1日ほど早まることになります。

 COVID-19の感染症法上の位置づけを、2類相当から5類相当(インフルエンザと同等)に引き下げることが検討されています。もし仮に、COVID-19が5類感染症となれば、抗インフルエンザ薬と同じように、エンシトレルビルも広く処方されることになるかもしれません。そして、投与された患者の多くが「効いた」という実感を持つことになります。エンシトレルビルは無症状を含む軽症例をターゲットとした薬だからです。

 治療しなくても自然に病状が快復し得る人を投与対象とした薬は、果たして「治療薬」と呼べるものなのでしょうか。エンシトレルビルだけではありませんが、「治療薬」と呼ぶことの倫理性について、もう少し冷静に考えた方が良いように思います。



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