【これから『薬』の話をしよう】エビデンスレベルとは

2023年9月15日 (金)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 エビデンスレベルという言葉を耳にしたことはありますか?医療の文脈でエビデンスといった場合、人を対象とした臨床医学研究に関する論文情報を指すことが一般的です。しかし、一口に臨床医学研究と言っても、解析結果の妥当性、すなわちエビデンスの質は方法論によって異なります。このエビデンスの質に対する序列こそが、エビデンスレベルと呼ばれる概念です。

 1990~2000年代を通じて広く認識されるようになったエビデンスレベルは、もっぱらピラミッド状の階層構造で表現されることになります。すなわち、質の高い順に、システマティックレビュー・メタ分析やランダム化比較試験を上位階層に、コホート研究や症例対照研究などの観察研究を中間層に、症例報告や専門家の意見を下位階層に配置することで、エビデンスの質をデザイン化したのです。エビデンスピラミッドと呼ばれるこのデザインにおいて、各階層は直線によって仕切られ、エビデンスの序列が研究の方法論によって定義されました。

 最も質の高いエビデンスといえば、システマティックレビュー・メタ分析を挙げる方も多いでしょう。その根拠こそがエビデンスピラミッドなのです。しかし、皮肉にもエビデンスピラミッドを合理的に正当化できるエビデンスは存在しません。実際、エビデンスピラミッドは研究の方法論を単純化しすぎている、との指摘もあります。

 事実、エビデンスの質は、研究の方法論だけで明確に区切られるものではありません。被験者の規模(症例数)や背景因子、介入の種類、追跡期間の長さ、設定された評価項目の内容、統計手法など研究個別の事情によって、解析結果に含まれるバイアスや偶然誤差の影響度は異なるからです。

 そのような中、16年にMuradらは「新しいエビデンスピラミッド」と題された論文(PMID:27339128)を報告しました。このエビデンスピラミッドでは、各階層のレベル分けを直線ではなく波線に変更することで、研究個別の事情と解析結果の妥当性を適切に表現できるようにしました。つまり、研究手法によっては、ランダム化比較試験よりも質の高いコホート研究が存在し得るのです。

 また、最上位に配置されていたシステマティックレビュー・メタ分析をピラミッドから切り離し、個別の研究を評価するツールとして位置づけました。個々のエビデンスを活用しやすくするために、「目次」のような役割を与えたのです。



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