【日本薬学生連盟】医療機器安全性確保で国際協調‐PMDA医療機器安全対策・基準部 中道瑚子さんに聞く

2025年1月20日 (月)

薬学生新聞

中道瑚子さん

 日本薬学生連盟広報部は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医療機器安全対策・基準部に所属し、医療機器安全に関わるほか、国際業務にも奔走する先輩薬剤師、中道瑚子さんにお話を伺いました。塚本有咲(大阪医科薬科大学薬学部3年生)、庄司春菜(東京薬科大学薬学部2年生)が聞き手となり、学生時代から現在に至るまでの道のりや働く上でのやりがい、学生に伝えたい想いなどについて語っていただきました。皆様のこれからの挑戦を後押しするきっかけになれば幸いです。

進路の選択肢を狭めず‐インターン参加し情報収集

 ――卒業後の進路としてPMDAを目指したきっかけはありますか。

 私は明治薬科大学を2020年3月に卒業し、PMDAに就職しました。大学5年生の3月頃に、約100社もの企業や医療機関等が参加する合同説明会が母校で開催され、そこでPMDAのブースに話を聞きに行ったことがきっかけです。

 当初はPMDAに関して医薬品の審査を担当する機関であるという大まかな知識しかなく、公的な機関であるため採用試験を受けるにはハードルが高いと思っていました。ですが、最初から自分には無理だと決めつけず、まずはPMDA主催の採用説明会に足を運びました。若手職員の方とも話をさせていただき、就職活動や業務内容の体験談を伺いました。そこで、PMDAだからこそできる業務もあると感じ、就職先として興味を持つようになりました。

 ――様々な選択肢がある中で、どのように進路を固めていきましたか。

 初めから選択肢を狭めたくないと思っていたので、自分の目で見て考え、一つずつ候補から消去していくという流れで進路を決めていきました。

 大学5年生の始めの頃は、病院や薬局、ドラッグストアといった臨床分野も含め、幅広く視野に入れて進路を考えていました。化粧品関係の企業も加えた多職種のインターンに参加し、実際に自分の目で具体的な業務や職場環境について情報収集しました。

 大学6年生になる前には、就職先の候補を企業と病院に絞りました。企業は開発や品質管理の部署を希望し、病院は早い段階で病院薬剤師の役割を学べるレジデント制度がある施設を候補としました。

 ――就職活動の際にどのように情報収集や対策を行いましたか。

 PMDAには複数の母校の卒業生が在職しており、病院実習時の担当教員から卒業生を紹介いただき、電子メールでPMDAについてお話を伺いました。また、母校のキャリア支援課が保管する卒業生の実体験に基づく選考過程や面接での質問内容等の記録を熟読し、就職活動の様々な対策を立てました。

 ――日本薬学生連盟での活動経験は就活において生かされましたか。

 生かされたと感じることしかありませんでした。私は日本薬学生連盟にて大学低学年の頃から国際系の活動に力を入れていました。就職活動の面接では、「学生時代に一番力を入れたこと」を聞かれることが頻繁にありますが、想定していない質問であったとしても答えることができました。インパクトのある内容を語れるかどうかは、やはりどれだけその活動に対して、身をもって体験してきたかというところに比例すると思います。ですので、自ら主体的に行動することこそがあらゆる場面で役立つのだろうと感じました。

市販後の安全対策を評価‐海外当局職員と議論重ねる

 ――そもそもPMDAとはどのような業務を行っている機関ですか。

 PMDAは、国民保健の向上に貢献することを目的に、主に審査、安全対策、健康被害救済の三つの業務を担っています。公的には、PMDAの役割は三大業務とされていますが、私は国際整合の業務も加えた四大業務だと思っています。対象製品は、医薬品だけでなく、医療機器、ワクチン、再生医療等製品、医薬部外品など多岐にわたります。

 承認審査では、患者さんが医療製品を使用するにあたり、市販前に品質、有効性および安全性の観点から問題がないか審査を行い、新しい製品を世に送り出しています。

 安全対策では、市場に製品が流通した後に市販前では収集できなかった安全性に係るリスクがないか監視し、必要に応じて特に注意すべき内容についてはPMDAからも情報発信をすることがあります。また、企業からPMDAに提出される副作用や不具合に関する報告等をもとに、適切な安全対策が実施されているか評価および分析等を行います。

 健康被害救済では、適正使用したにも関わらず、発生した副作用の影響で患者さんに追加での治療が必要となってしまった際に救済給付を行います。給付の決定においては、厚生労働省と連携しながら給付可否の判断を行っています。

 国際関係業務では、日本国の代表として世界各国の規制当局と協力し、国際的に協調した戦略的視点を持って、共通の課題解決を目指す国際会議に参加することがあります。国際的な規制調和を目指し、より有効で安全な製品をより早く患者さんに届ける取り組みを行っています。

 ――中道さんの仕事について教えてください。

 私は医療機器の市販後安全の業務に関わっています。医療機器と一口に言っても、絆創膏といった身近なものから、人工呼吸器やペースメーカーといったところまで幅広い製品における安全対策の適切性を評価しています。

 医療機器の適正使用は使用する術者のスキルに影響されるのに加え、機械の突然の故障といった、物であるが故の安全性リスクの観点も重要です。医療機器の種類は多種多様ですので、発生した事象のみならず、製品の特性も踏まえた安全対策を検討しています。

 ――どういった時に特にやりがいを感じますか。

 私は国際業務にも深く携わっております。医療機器分野において、規制調和を目指す国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)の活動に参加し、各国で企業が提出する医療機器不具合報告に使用する健康被害や不具合などの用語集を作成したり、用語集の活用方法に関するガイダンス文書を作成したりしています。

 国によって医療環境も制度も法律も異なるため、全て世界で共通のものにすることは困難を伴います。しかし、国際的に共通化できる概念をすり合わせるための議論をしていくことは非常に重要であると考えています。

 また、私個人としては、海外の規制当局職員と会話している中で、世界的な医療の質を上げたいという共通した想いを感じることができ、そういった考えを共有できる機会があるということが国際業務のやりがいであると感じいます。

 ――行政機関ならではの視点はどんなことでしょうか。

 行政機関では、患者さんの命を最優先に考えることができ、その判断基準が揺らぐことはありません。患者さんに対して必要十分なベネフィットがあり、リスクを最小限に抑えられるかどうかという点で物事の判断を下すことができるのは、行政ならではの良さであると思います。

 企業側の立場では、会社の利益を追求せざるを得ないと思います。そのため企業と患者の立場で折り合いがつかない場合もあるかと想像しますが、行政機関であれば、患者さんのことを第一に考えることで、自身のやるべき判断の正解はおのずと出てくるとして日々仕事に励んでいます。

論理的思考や説明力が重要‐より「better」な選択を

 ――この業界にはどのような人が向いていると感じますか。

 様々な業務が並行して行われていることが多いので、マルチタスクに慣れていると仕事をしやすいと感じます。また、膨大な量の文書を取り扱うので日本語を沢山読むことに抵抗がない方が適応しやすいと思います。さらに、新たな課題に対して、どのような背景があり、参考になる法令や類似事例などをもとに課題に対する対応方針を考案するという論理的思考を持ち、分かりやすく説明する力が、仕事をする上で重要ではないかとも感じます。

 行政機関の職員は異動も多く、あらゆる分野に配属される可能性があるので、特定の分野だけでなく様々なことに好奇心を持ち、環境変化にも順応しやすい人材が求められていると思います。

 ――最後に、進路に悩む薬学生にメッセージをお願いします。

 最初から、自ら自分の選択肢を狭めないでほしいということを一番伝えたいです。一つひとつの選択肢を自分の目で見て考え、どんな理由でその選択肢を選ばなかったのかという行動分析をしていくと、その時に自分の考えたプロセスをしっかりと覚えていることができます。

 悩むことは全く悪いことではありません。とにかく悩み抜いて、その時その瞬間、何をどのように考えて自分は決断したのかというところを自分で分かっていれば、後悔が残ることはないと私は思います。

 また、これから待ち受ける選択肢の中で、「best」は存在しません。全ての面において自分にとって最適だという道はなく、正しい選択とは、どれだけ「better」に近づける選択肢を選べるかどうかだと思います。より「better」な選択肢を探し出すためには、やはり自ら行動していくことが大切であると感じます。

 私自身も最初は、PMDAはハードルが高すぎると感じていました。ですが、挑戦するのは自由で、挑戦しなかったことを後悔する自分は受け入れられないと思いました。面接当日は「目の前の面接官と話すのは、人生で、最初で最後かもしれない。ならば、私という人間を知ってもらおう」という気持ちで臨んでいました。皆さんもあまり肩に力を入れすぎず、ご自身にとってより「better」な就職先をじっくりと最後まで悩みぬいていただければ良いのではないかと思います。



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