一般社団法人日本薬学生連盟
北澤 裕矢
小池 雄悟
山口 真奈
川口 悠里江
高齢者の方の幸せが見つかる場所「新田の家」
テーブルに座りおしゃべりをしているおばあちゃん、ソファに座ってテレビを見ているおじいちゃん、ひたすら読書をするおじいちゃん、ここではすべての利用者が、それぞれのしたいことをして過ごしていました。特定非営利法人「新田の風」は地域全体で高齢者や認知症の方を支える仕組みづくりを積極的に行っている団体です。小規模多機能居宅介護施設『新田の家』はそのような熱い思いを持った新田の風のスタッフによって創られました。
そこで私は薬学生として、テーブルでおやつを食べていたおばあちゃんに「薬局はよく行きますか」と話しかけると、その返答は驚くようなものでした。
「病院に行くよりも薬局に行く方がいい。ちょっと体調が悪いとき、薬局に行けばいつもの薬剤師さんが丁寧に話を聞いてくれて、薬を出してくれる。これを飲めば治るんだから、病院に行くより安上がりでいい」
これぞ地域における薬局の目指しているあり方ではないでしょうか。理想とされている国のビジョンは、ここ上田ではもう当たり前のこととなっていると思いました。
最初に述べたように、ここでは利用者の方が自分のやりたいことをやっています。私は1人でこたつに座っているおばあちゃんに声をかけてみました。穏やかな表情のそのおばあちゃんと私は一緒にコタツに入りじっくりと会話をしました。
「ここはやりたいことをやらせてくれるし、みんな親切だから幸せです」。まさに私がこの施設で感じ取ったことでした。最後はしきりに「がんばってくださいね」とおっしゃってくださいました。
この施設はこの地に住む方のために医師、薬剤師、看護師、介護士など様々な職種の方が立ち上がってできたものです。その想いは利用者に届いていて、ここに来るのが楽しいと笑顔で話す利用者の声を聞き、高齢者の方のQOL向上につながっているということを確信しました。
当然、介護は簡単なことではありません。高齢者に対しては様々な注意を払い、普通では気づかないことに気を配らなければなりません。高齢者が増えてくるこれからの時代にこのような施設は不可欠であるということを改めて実感できました。
そして何より、介護が必要な方を単に「高齢者」として一括りにするのではなく、それぞれの性格や趣味、特技、生きてきた背景などを考慮した上で1人の人間としてどうしたらそのニーズに応えることができるかを考え続けることが大切であると思いました。
住民が選ぶ薬局、住民が信頼する薬剤師
上田駅を出てからのメインストリートには数多くの薬局が並んでいました。そのほとんどがいわゆる門前薬局ではなく、病院が近くにあるものも薬局の方が先にあったそうです。いくつかの薬局には上田薬剤師会の認定薬局を示す緑色に光る十文字が掲げられていました。
その中でも一際目立っているイイジマ薬局の見学をさせていただくと、そこはこれまで見てきた薬局とは大きく異なるものでした。
ドラッグストア並みのOTC医薬品の種類、その中にはその地域に根ざした、住民が求めるものが多数揃えられていました。
有限会社飯島の代表取締役社長飯島裕也さんは、「1年に1回売れるかどうかの品物でも、患者さんが求めているものはとりあえず置くようにしている」とおっしゃっていました。また処方箋集中率を聞くと、高くとも1つの医療機関で約9%だとのこと。
そのため、それぞれの医療機関が利用している医薬品をすべて取り揃える必要があり、スウェーデンから取り寄せたという薬品棚には、医療用医薬品が2000品目以上ありました。
私たちが見学をしていると1人の男性が薬局に入ってきました。その方は薬局に入るなり、「風邪をひいちゃったから、薬がほしい」と言いました。イイジマ薬局の薬剤師の方がその男性に具体的な症状などを聞きながら、いくつかのOTC医薬品を取り出して説明をしていました。ここイイジマ薬局にはOTC医薬品を検索できるソフトが導入されており、それにより医療用医薬品を含めた併用禁忌、類似医薬品の検索などが容易にできるようになっています。
薬剤師の方は世間話も交えながら、その男性から情報を引き出し、最適と思われるOTC医薬品を渡し、笑顔で送り出していました。何気ないような数分間でしたが、ここにかかりつけ薬局のあるべき姿が集約されているように感じました。
ただ、上田薬剤師会常務理事の合葉雅彦さんは「かかりつけ」ということに4月から点数が付くようになったが、ここでは当たり前のこと。患者にどう説明したらいいか困っているとおっしゃっていました。
薬局は商業施設ではなく医療提供施設です。病気を抱えた人を呼び込むような外装、内装であってはならない。患者さんの気持ちをとことん意識して、心の声を聞くことが大切であるとおっしゃっていたのは、木町薬局の飯島伴典さんです。私はこれまで薬局の構造という部分に着目してきませんでしたが、地域の人が気軽に訪れ、自身の身体の相談をするという段階になるには、当然薬局という場の構造にも目を向けることは欠かせないと感じました。
また、その薬局には昔からのいつもの薬剤師がいること、自分の病気という弱い部分を見せられるような信頼関係のある薬剤師がいることが大事であると思いました。
私たちの進む道
今回の上田市での見学はこれまで私たちが持っていた薬局に対するイメージと異なるものでした。地域の中で薬局が市民の健康をサポートしていて、地域の住民もまた薬局に信頼を寄せていました。まさに現在全国で薬局が目指している姿であると感じました。
上田薬剤師会会長の飯島康典さんは、「現在、地域の薬局で働く薬剤師は住民の顔が見えていない」と指摘していました。ではなぜそれができていないのか。
飯島会長に上田の医薬分業が進んだ秘訣を尋ねると「情報共有」であるという答えが返ってきました。薬剤師免許を持っていれば薬剤師と名乗ることはできます。しかし、全員を医療人としての薬剤師と呼んでいいのでしょうか。あくまで薬剤師1人ひとりが様々な情報にアンテナを張り、かつそこからどう考えるかが大切です。
また、薬剤師の見るべきは住民の顔。「患者のために、地域のために」ということを意識したとき、たとえ持っている武器は違っても医師も薬剤師も看護師もその他の医療従事者も目指すものは同じです。あくまで患者のため、同じ医療人として「ものの言える関係」を築いていくことも大切だと飯島会長はおっしゃっていました。
薬剤師が、地域住民の健康をいかに支えるか、地域医療にどう貢献していくか。薬局、薬剤師が追い求めるものはそこに尽きるのではないかと思います。
分業元年とされる1974(昭和49)年から40年以上たった今、本当の意味で、医薬分業が問われています。私たち薬学生はこれからの薬剤師像を考える上でこれまでのあり方にとらわれず、また単に時代の流れに身をまかせず、「どうすれば患者のためになるか」を考え続けたいと思います。
飯島会長が力強くおっしゃっていた言葉、「なんでも一番になることが大事」が耳に残っています。私たち薬学生1人ひとりがナンバーワン薬剤師になるべく努力していけたら、少しでも社会は変わっていくのではないかと思います。