薬学生への意識調査Part.2
薬学部6年制教育がスタートしてから11年、新コアカリキュラムがスタートしてから2年が経ちました。日本薬学生連盟では、2016年秋に全国の薬学生60人を対象として、今の薬学教育がどの程度臨床を意識しているのかという点に着目した意識調査を行いました。
今回調査した項目は「自分が思う薬剤師の役割を書く」「医師・薬剤師・看護師・理学療法士・作業療法士において自分が考える立場的順位をつける」「示した19のSBO項目の中で、自分が薬剤師にとって必要であると考える項目を全て選択する」の3つです。
医師が医療の頂点であると考える人はやはり少なくありません。当然、医師より薬剤師の立場が上になればいいということはないと思います。しかし、実に75%もの薬学生が立場的順位について、医師を1位としていました。全業種について平等であると回答したのは全体のわずか8%でした。確かに日本において、例えば処方箋を書くことができるなど、権限が最も大きい医療業種は医師でしょう。
しかし、国民皆保険制度が不十分であり、高額な医療機関にかかる前に薬局等へ行く傾向のあるアメリカにおいて薬剤師の役割や権限が大きいのは分かりますが、日本と同じく国民皆保険制度が達成されているカナダやイギリスにおいても、薬剤師の権限は幅広いです。
では、いったいどこからこの違いが生まれるのでしょう。それは、そもそも薬学部入学からではないでしょうか。日本のように高校を卒業して、すぐ薬学部へ入学できたり、個別の学力試験のみで大学へ入学できる国は多くありません。また、近年は以前と比較して医学部進学の難易度がかなり高くなっており、その併願先として薬学部が選択されることが多くあります。医学部をあきらめて薬学部に入学する学生がそれなりにいるのです。こうした入学時の入試難易度の違いも一因となっているのではないでしょうか。しかし、日本においても大きな変化がありました。旧4年制教育から現在の6年制教育への改革です。実習期間が増加したりCBTやOSCEが導入されたりなど、カリキュラムは臨床を意識したものになっています。
ここで、最初に挙げた立場的順位について学年別に見ていきたいと思います。医師に1位をつけた1年生は79%、2年生は75%、3年生は63%でした(※4年生以上は回答者が極端に少なかったため割愛。以下、同)
同時に、薬剤師に必要だと思うSBO項目を選択する質問においても、他職種連携や災害時医療など他職種との関係を意識する項目の選択割合が1年生76%、2年生88%、3年生100%と、学年が上がるにつれて上昇していました。これは、現行の6年制教育において医療従事者としての薬剤師、チームの一員として薬学的知見を備えた薬剤師として、患者のために医療を提供するという気持ちが学年が上がるにつれて生じてくることを表しているといえます。
アンケート項目
次に挙げる医療業種の中で、立場的順位が高いと思う順に数をつけてください。例えば、最も高いと思う業種には1を選択してください。
(医師、薬剤師、看護師、理学療法士、作業療法士)
私自身まだ1年生であり、現在は化学・生物・物理など基礎科目を中心に学んでいますが、1年生から早期体験学習などを通して病院・薬局・企業で働く薬剤師の姿を自分の目で見ることができることからも、カリキュラムの内容がより専門的になり、低学年時から薬剤師のあり方やその専門性について考えることのできる環境が備わっていることがうかがえます。
実際、それぞれが思う薬剤師の役割を書いてもらう質問においても、1年生のうちから多くの人が患者とのコミュニケーションや疑義照会、薬の専門家として他の医療業種へ助言を行うことなど、対物業務でなく対人業務を重視したことを回答していました。
薬学教育は2年前に新コアカリキュラムがスタートしたように、科学技術の進歩など時代に応じて日々変化しています。大学の試験をパスし、国家試験に通りさえすれば後はよいというような絶対的なものではありません。在学中にも、世の中は変化で満ち溢れています。せっかく臨床に対する意識を低学年のうちから持つ機会があるのですから、大学内の活動にとどまらず外へ飛び出して、実際に現場を見に行ったり話を聞きに行ったりという姿勢がより重要になってきていると思います。
(明治薬科大学1年 岩崎 良太)
先輩に聞く!進路選びの極意
質問項目
[1]なぜ今の進路を選択されたのですか。
[2]大学時代に行った就職活動について教えて下さい。
[3]大学時代にしておいた方がいいと思うことを教えて下さい。
[4]現役の薬学生にメッセージやアドバイスをお願いいたします。
病院薬剤師
名前:阿部 誠也さん
出身大学:京都薬科大学
勤務先:医療法人鉄蕉会亀田総合病院
[1]ボランティア経験もあるためか、社会貢献したい、人の役に立ちたいという思いが強く、薬剤師として、臨床の現場で患者さんに貢献したいと考えました。
[2]学会参加や見学など、とにかく自分で足を運びました。現場の話をより多く聞き、知り合いの薬剤師に相談してもらい、また紹介してもらうことで情報収集しました。HPやSNSをチェックするのも手段の1つです。
[3]様々な価値観を吸収し、視野を広げることだと考えます。他大学生と交流をして、卒業後も続くつながりを作ることはとても価値がありますし、また、海外に行くことは、世界だけでなく、日本を知るきっかけにもなります。
[4]私は学生の頃、将来が不安でした。薬剤師が過剰になるといわれ幾年か経ちますが、社会には常に変化が伴います。例えば数年後には実務実習や国家試験の内容が変わります。変化が激しい業界だからこそ、自分で様々なことを吸収し、広い視野を持ち、社会の変化の波に柔軟に対応していかなければならないと感じています。学生の身分を活用し、大きなアンテナを張り、実際に足を使って、多種多様な学びを得てほしいなと思います。
薬局薬剤師
名前:寶川 千鶴さん
出身大学:明治薬科大学
勤務先:有限会社ブルークロス調剤薬局天神薬局
[1]患者さんに寄り添い、薬だけではなく日々の生活もサポートしたいと思ったのがきっかけです。調剤薬局なら具合が悪いときから体調がいいときまで患者さんに会うことができる。そこがとても魅力的でした。
[2]百聞は一見にしかず。実際に現場の人からも話を聞くようにしました。また薬局だけでなく病院へも見学に行ったりMRの勉強会にも参加し、選択肢を複数持ちながら就職活動をしていました。自己分析も入念に行いました。
[3]サークル活動やアルバイト、習い事などをして他大学の学生、医療系以外の人と会うことをお勧めします。人との出会いを通して様々な価値観、意見を知ることは人間力を養うことにつながると思います。
[4]薬学部は授業も多く、テストや研究、実習も大変です。苦しいときはこの勉強の先にたくさんの患者さんがいることを思い浮かべてみてください。また勉強以外のことにもどんどんチャレンジしてください。その経験と勉強がつながったとき、とてもいい社会人・医療従事者になれると私は思います。残りの学生生活でこれから日本や世界がどうなっていくのかを捉え、時間をかけて自分のやりたいことを見つけてください。応援しています!
MR
名前:植山 陽子さん
出身大学:武庫川女子大学
勤務先:日本イーライリリー株式会社
[1]人と交流することを好む自身の性格を踏まえ、人と関わる営業職が第一希望でした。また大学6年間で学んだ薬学的知識を生かしたいと考えました。これらを全て生かせる職がMRだと思い、志望いたしました。
[2]「なぜ仕事をするのか」、この問いに対する答えを持つことが大切だと考え、分野や年齢を問わず多くの方と交流し、様々な考えや発見を取り入れて、より仕事に対する考えを明確に伝えられるように心がけていました。
[3]就活活動に関わらず、『仲間づくり』:自分と価値観の合う友達、熱く何でも語れる友達をつくること、『自己分析』:客観的に自分がどのような傾向にあり、かつ何が得意でそうでないのかを明確にすること。
[4]薬学生のみなさん、まずは国家試験に必ず合格してください。そして、就職活動は真剣に自分を振り返り、将来像を考える絶好の機会です。就職活動中に様々なことに悩むと思いますが、そのときに支えてくれる家族、仲間の大切さをそのたびに感じると思います。
就職活動も大きな目で見れば受験と同じく通過点でしかありません。自分自身を見直せる与えられたチャンスだと思って、自分を信じて前向きに、せっかくなら楽しく取り組んでください!
公務員
名前:森田 美咲さん
出身大学:広島国際大学
勤務先:大阪府
[1]学外実務実習を経験して、病気になることによる様々な困難さについて認識を深めました。そこで、社会全体の健康を支援できるような仕事に就きたいと思い、公衆衛生に関わる現在の仕事を選びました。
[2]ベタなことはだいたいしました。いろいろな就活サイトに登録したり、多業種の合同説明会に参加したり、「就活の必勝法!」のような本を何冊も読んだりしました。マナー講座で得た知識は、社会人になっても役立っています。
[3]広義の就活、つまり興味がある分野の知識を深めたり、普段の学生生活では出会えないような人(他学部生や社会人)に会いに行って、視野を広げたりすることは、いつからでも始められるのでお勧めです。
[4]就職した現在でも、就活を思い出すと真っ先に「辛かったなぁ」という気持ちが湧いて出ます。望む結果が得られない不安や、友人が内定を獲得する姿に嫉妬するやるせなさ、必死になって自分の長所を絞り出すむなしさを一度に経験する就活は、人生の一大イベントの1つと言っても過言じゃないでしょう。これから就活を迎える皆さんは、就活を「勝ち抜く」ことと同じくらい、就活を「生き抜く」ことも大切にしてくださいね。