薬学生のMR離れの傾向が見られるが、自身も薬学出身のMRだった公益財団法人MR認定センターの小日向強企画部長は、現行の薬学教育6年制で学んだ知識、経験こそ、複雑な新薬、薬物療法が登場している中で「MR活動の大きなアドバンテージになる」と指摘する。「適正使用のために、そして医学・薬学の発展のために役立ててほしい」と、エールを送る。
かつてと異なるMRの姿
薬学部から医薬品関連企業への就職率は約5%とかつての半分程度になった。その中でMRへの就職率はかつて3%超だったが、今や1.8%。同センターの「MR白書」によると、2022年時点のMRの薬剤師資格保有率は8.7%と過去最低となった。
この背景について小日向氏は、「やはり薬学教育6年制により学生の臨床志向が強まったことがあると思う。そのための6年の教育であり、その知識や実習の経験を踏まえ、調剤や服薬指導を通じ、直接患者さんに貢献したいという気持ちにあふれた学生が増えたためだと思う」と話す。
他方、MRという仕事の情報発信不足、それに伴う薬学生の理解不足によるものもあると見ている。それは同センターが9月に薬学生を対象に行ったアンケート調査でも感じたという。30大学の6年制薬学部在学中の4~6年生577人を対象に行ったもので、うち製薬企業等志望者68人に「MRの印象」を尋ねたところ(選択肢あり、複数回答)、最も多い回答が「接待など顧客との付き合いが多い」(42人)、次いで「ノルマが厳しい」(34人)、「優秀な人が就く職種」(26人)――だった。
小日向氏は「規制が厳しくなり、昔のような接待に次ぐ接待というのはなくなった。全くなくなったわけではないが、かつてのイメージとは全く異なる。ワークライフバランスは、むしろ企業の方が率先して取り組んでいる」と説明する。「優秀な人が就く職種」との回答については、「優秀な人が就く仕事なので、私は無理です」といった認識もあるのだという。
小日向氏は、「MRはこういう仕事だと実態がもっと見えるような情報発信の必要性を感じた。学生が『MRになりたい』と親に話した時に、親や周りから『MRか、いい仕事じゃないか』と言ってもらえるように知らしめないといけない」と痛感したという。
実習経験を生かせる
実際、同センターの医師、薬剤師の調査では、医薬品情報の情報源のトップはMRである。一部でネガティブな評価はあるが、MRの評価はむしろ高い。医師、薬剤師が望むMR像は明確であり、治療に日々悩む臨床において共に課題を解決するパートナーとしての役割である。
小日向氏は次のように解説する。
「医療従事者から求められているのは双方向のコミュニケーションができるMR。一方通行で情報をまくしたてる、自社の薬のことしか話さない、そして質問しても回答できない、これらは医療従事者からよくあるMRが改善すべきとされる指摘だ。この背景には、患者に対する意識不足、基礎的知識や臨床的知識の不足、コミュニケーションスキルの不足があるからで、言ってしまえば、自分に自信がないからだ。コミュニケーションはスキルであって、これは後でも身に着けることができる。むしろ薬学生に期待するのは、知識を十分に備え、その上で病院実習、薬局実習で患者さんにどう接すべきなのかとか、薬の情報をどう提供し、薬を適正に服用してもらうか、その時の課題など肌身で感じてきた経験。それはMRの仕事にも生かせるはずだ。大きなアドバンテージになる」
実際、臨床では典型的ケースは少ない。医療従事者は、それぞれの生活事情、病態などの様々な背景を抱えた患者を前に、悩み、常に判断を迫られ、判断の後も悩む。
そういう医療従事者こそ、MRの言うことを鵜呑みにせず、一つひとつの情報を吟味する。MRは、医療従事者が対面する患者の姿に思いを馳せながら、悩みに対し、話し込み、情報をやり取りしながら、医療従事者を支援する。一人の患者のために互いにプロフェッショナルなやり取りを行っている。そんなMRがいるのは事実である。
小日向氏が先に挙げたMRの改善点は、センターの報告書『MRの資質向上を目指した継続教育の充実』(18年2月)で指摘されたことである。そして同報告書では、「患者志向に立った医薬品情報の提供・収集・伝達を通じて、医療関係者から信頼できるパートナーを目指す」と、各企業に呼び掛けた。各企業はそれぞれ教育研修を工夫するようになったという。小日向氏は、「指摘された課題は改善されつつあると感じている」と話す。
医療従事者のパートナーに
小日向氏は、薬学生だけでなく、大学関係者にもMR職への理解を呼びかける。
「薬剤師は確かに素敵な仕事だと思う。しかし、薬学を学んだ人たちの活躍の場は広い。その一つとして医薬品関連企業、MRを選択肢にするきっかけをつくっていただきたい」
そして、最後に薬学生へメッセージを送る。
「今の新薬は、創薬コンセプトが難解なものが増えている。それを患者さんに合わせて、適正に使っていただく必要がある。新薬を発売した時に、一番情報を持っているのが製薬企業であり、その代表であるMRである。その薬剤をしっかり理解し、納得し、何がメリットになり、何がリスクなのか、患者さんのことを思い描きながら、医療従事者のニーズに合わせて、言葉を選びながら、より適切に伝えられるのは、医学や薬学のバックグラウンドを持っている人たちだと思う。6年かけてしっかりと勉強してきたことは、ものすごい力。その力を持って医療従事者のパートナーとして患者さんのために働くMRを志す人がもっと増えることを期待している」