製薬企業は医薬品という生命関連製品を通じて社会に貢献しているが、本業の枠を超えた様々な活動を展開している。各社の取り組みから企業文化や社風が見えてくる。
アステラス製薬
[1]患者さんとともに[2]医療をささえる[3]社会とつながる――の3領域でコミュニティ参画を実施している。
[1]では、患者団体の相談業務担当者を集めて「傾聴のスキル」を学ぶピアサポート研修“スターライトパートナー活動”を2006年から行っている。他疾患の団体との交流を深めて患者同士の情報共有や、様々な問題に対する解決方法の理解を深めている。
[2]では、有志社員による寄付金に会社が同額を上乗せするマッチングギフト制度“フライングスター基金”を96年から設けている。福祉施設への車椅子送迎自動車寄贈(国内累計177台)や難病児童のために活動する4団体への寄付を行っている。また、継続的に地方自治体に救急車を寄贈。高規格車49台を含めて累計228台を贈った。
アフリカに詳しい欧州勤務の社員の立案で、ガーナで多発している産科フィスチュラに対応するため、同国向け医師派遣や専門研修支援も行っている。
[3]では、設立5周年の際に世界の事業所で毎年1日、社員が健康や環境をテーマにボランティア活動を行う“Changing Tomorrow Day”を設定。3年間で参加社員は7000人を超えている。
米国でウェブを通じた理科教諭支援活動“Science WoRxプログラム”を展開している。同社の研究者が講義したり、教諭の質問に答えるもので、11年から開始し、フェイスブックで多くのファンを集めている。
中外製薬
創立60周年の記念事業として在宅福祉移送サービスカーの寄贈を開始した。以来29年間続けており、累計196台を贈っている。05年の創立80周年に各都道府県の福祉団体へ計47台、東日本大震災発生を受けて2年間に被災県へ計6台を提供した。
日本パラリンピック委員会のオフィシャルパートナーにもなっている。昨年9月から協賛を始め、病気やハンディを克服してスポーツに挑戦する選手を応援している。
科学分野では、都内にある科学技術館に「バイオ・くすり・がん」をテーマとする常設展を設置。同館で小中学生を対象としたバイオ実験教室を開講しており、昨年度は同じロシュグループのロシュ・ダイアグノスティックスと協働で高校生向け教室も始めた。
このほか事業所所在地の子供たちを対象とした地域活動を展開している。
東日本大震災を受け、仮説住宅入居者などに配布される情報誌「わわ新聞」の発行支援や、本社・工場内で被災地産製品の販売会も実施している。
協和発酵キリン
文化・芸術面から社会福祉に目を向けるために日本フィルハーモニー交響楽団を支援しており、同社の冠とするニューイヤー・コンサートを毎年開催。毎日新聞主催の小児癌制圧キャンペーンコンサートや、障害者を招待する日本音楽文化交流協会のコンサートも応援している。また、点字カレンダーを製作して全国の学校に配布している。
スポーツ面では、創部から40年の歴史を誇る強豪の卓球部があり、全国から500~600人が参画する卓球交流大会を毎年開催している。
バイオテクノロジーを得意とする研究開発型企業である強みを生かして高崎市、町田市、長泉町などの研究拠点で理科実験教室を開講している。
卓球支援と理科教育支援は、キリングループで推進する「復興応援キリン絆プロジェクト」でも取り組んでいる。
大日本住友製薬
行動宣言の中で「よき企業市民として社会貢献活動を推進します」と定めて国内外で広く地域社会の発展に寄与するための活動に取り組んでいる。社内公募による寄付先の選定、社員ボランティアの派遣などを行っており、活動範囲を年々広げている。12年の寄付実績は総額7300億円に達する。
次世代支援として小学生を対象とした工場見学の受け入れ、中学生を対象とした出張授業を開催しているほか、国際貢献としてNPO法人「TABLE FOR TWO International」主催の開発途上国の給食支援プログラムに大阪・東京両本社の食堂などが参加している。
東日本大震災の復興支援では、原発事故で避難地域の子供たちを対象とした幼稚園・小学校・中学校合同運動会の開催支援、避難地域である宮城県登米市と南三陸町の中高生の自習スペース「SUKOYAKA」の設置、「学校スマイル応援プロジェクト」キャリアチャレンジデイへの参加、津波遺児への寄付、被災地応援物産販売「神農祭マルシェ」開催などがある。
持田製薬
大正2年の創業から100周年を記念して社会貢献活動を進めている。昨年11月には社員ボランティアによる「富士山クリーン活動」を行った。NPO法人富士山クラブの協力の下で山梨県南都留郡「道の駅なるさわ」付近を清掃した。神奈川県の「森林再生パートナー制度」にも参加。同県が保有する森林の一部を借り受け、5年間にわたり森林づくり活動を継続する。
「葛西臨海水族館」「しながわ水族館」への寄付を通じて海に関係する公的活動に対する支援も実施している。
また、教育機関からの要望を受け、生徒が製薬企業の社会的意義を知り、より薬を身近に感じてもらうために小中高生の職場体験学習や会社見学を行っている。企業研修として本社・研究所、製薬工場などを訪れ、医療への貢献や新薬開発・製造などに関する説明に熱心に耳を傾けているという。
日本新薬
創立90周年を機に次代を担う子供たちに夢や希望を届けたいという願いを込めて「日本新薬こども文学賞」を創設した。日本児童文芸家協会の後援を受けて物語と絵画の2部門で広く作品を募集し、両部門の最優秀作品を合わせて絵本を作成しており、過去年で五つの絵本を完成させ、毎回3万冊を全国の医療機関や図書館などに配布。同社ホームページで読み聞かせの音声付きで紹介している。
また、「キラキラ未来こども募金」を設け、途上国の子供たちを感染症から守る活動を支援している。この募金の協力者にも、文学賞の絵本を届けている。
このほかイラストレーターの黒田征太郎氏と組んで地域の子供たちと病院の壁に絵を描く「笑顔のアートプロジェクト」、強豪の野球部による少年野球教室、約3千種の植物を保存栽培する山科植物資料館の運営、地元・京都文化の保存・維持活動など特徴的で幅広い活動を展開している。
わかもと製薬
神奈川県足柄郡にある相模大井工場・相模研究所のグラウンドをドクターヘリの離発着場として提供している。足柄消防組合と大井町から要請を受けて始めたもので、緊急時施設提供協定を2年ほど前に締結した。また、美化活動として地元の「ごみゼロアクション」を協賛してクリーンキャンペーンに参加。飲料水自動販売機の売上の一部を非営利団体を通じて東日本大震災被災地への義援金として寄付する活動も行っている。
日本ケミファ
11年に基本方針を定めて本格的な社会的責任を果たすための活動を開始し、翌年にはボランティア休暇制度を導入した。天災や大事故の被災地への救援活動、老人介護、心身障害者への福祉活動など会社が認めたボランティア活動に社員が参加する場合、年3日まで有給休暇を取得することができるようにしている。
キッセイ薬品
神澤邦雄名誉会長の私財や創業50周年を記念した資金提供により、公益財団法人神澤医学研究振興財団を97年に設立し、周産期や高・老年期の多角的な研究を奨励している。