サンキュードラッグ代表取締役社長
平野 健二
プロフィール
1959年、北九州市門司区生まれ。一橋大学商学部を卒業後、サンフランシスコ州立大学でマーケティングを専攻(MBA取得)。帰国後、大手製薬メーカーを経て85年サンキュードラッグ入社。03年から代表取締役社長を務める。11年4月に北九州市立大学非常勤講師。11年に自著「これからのDgs・薬局ではたらく君たちに伝えたいこと」(ニューフォーマット研究所)を発刊。
日本チェーンドラッグストア協会の2013年度調査によれば、国内のドラッグストア店舗数は1万7563店舗に達し、この10年間、毎年300~400店舗ずつ増え続けているようだ。一見、まだまだ成長産業のように見えるが、内実、様々な問題を抱えている。
調剤事業への取り組みが成長のカギ
そもそも、ドラッグストアの主力商品であるHBC(Health&Beauty Care)の市場は、年間家計支出が10万円前後と伸びておらず、日本の総世帯数5000万世帯を掛けると5兆円である。この数字には、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、化粧品専門店、通信販売の売上も含まれているため、仮にドラッグストアの市場シェアを50%とすると2.5兆円となる。
経営的には1店舗当たりの年間売上は3億円は欲しいところではあるが、このうち半分の1.5億円がHBCの売上だとすると、約1万6000店が飽和点ということになる。つまり、既に店舗数は飽和点を超えていることになる。実際、ある調査では、日本の上場ドラッグストア企業の面積あたり売上高は10年前と比較して2分の1に低下しているという。
確かに店舗数は増え続けているのだが、実はその売上の中身は着実に変化してきている。実際、売上に占めるHBCの比率は年々低下し続けている。特に主力の化粧品の売上高は前年割れを起こしている。にもかかわらずドラッグストアの売上が伸びているのは、他のカテゴリーが伸長しているからにほかならない。
まず、挙げることができるのは、医療機関からの処方箋を取り扱う調剤事業の伸びである。現在、調剤市場規模は6兆円前後であり、毎年伸び続けている。これをどれだけ取り込めるかが、成長の大きなカギとなる。
調剤事業といえば、医療施設の門前型が主力に見えるが、いわゆる「面」の処方箋が調剤併設型のドラッグストアに流れる動きが年々加速している。筆者の企業においても、面処方箋は2桁以上と、確実に伸びている。
さらに、その処方元は、広域に処方箋を発行している大病院に限らず、門前薬局の存在する医院からのものが多数含まれている。実はドラッグストアの医薬品売上が伸びているというのは、この「調剤」取り込みがうまくいった企業が大きく伸ばしている、というのがその真実である。
ただし、すべての企業が一様に調剤事業を伸ばしているわけではない。
都市部(都心を取り巻く住宅密集地=高齢者も多い)では、商圏内に医療機関が多数あり、主たる来店手段は徒歩であるため、他の買い物のついでの立ち寄りやすさも相まって、面の処方箋を集めやすい。一方、郊外や田舎立地では、医療施設の門前以外の場所で、わざわざ車をとめて調剤に訪れるというのは難しくなる。
店舗のレイアウト、備蓄医薬品の数(在庫~ロス管理)等々、処方箋を集めるノウハウを身につけた企業と、そうでない企業の差が開き始めていると、筆者は感じている。「調剤」をビジネスとして考えると、店舗ごとに一定以上の処方箋枚数を集められるかどうかがカギとなる。
薬剤師という高額の希少資源を投入するが故に一定枚数に届かない場合は非効率であり、薬剤師の成長にも結びつかない。ひいては離職率も高くなる。
したがって、ある企業がどれだけ調剤併設店をうまく生かせているかを見る重要な視点は、企業全体の枚数ではなく、1店舗当たりの枚数と考えることができる。
潜在需要の発掘で今後の発展へ
最近、ドラッグストアが大きく売上を伸ばしているのが食品である。消耗頻度が高いため、来店頻度も高くなる。来店頻度が高いと、「ついで買い」も増える。しかし、ここにも課題はある。
食品を本格的に導入しようとすると、大きな売り場面積が必要になる。今後、高齢者の住む都市部において、これを実現するのは容易ではないため、各企業は新たな店舗モデルの開発に余念がない。温度管理、ロス管理、発注~納品頻度が高いことによるオペレーション管理等も問題となる。
ドラッグストアは、HBCに関しては既に飽和点に達しており、調剤事業を中心として医療寄りに発展する企業と、食品等と幅を広げながら、ディスカウント寄りに発展を目指す企業に分化してきている。
もう一つ、今後の発展の可能性があるのは、潜在需要の発掘である。
HBCにせよ食品にせよ、今まで行われてきた競争は、「顕在需要=お客様が何を欲しいか分かっているもの」の取り合いであった。ドラッグストアが得意とする健康美容産業は『私だけの』や『私にはこれが』が多く存在する市場である。
ドラッグストアが、そのようなニーズに気づき、掘り起こすことができれば、市場自体を伸ばすことが可能となる。どこにチャンスを見出し、どうやって実現しようとしているのか、しっかり見極めることが大切となる。