「基礎力」と聞いて、何をイメージするでしょうか?例えば、83×16の計算を解くためには、3×6等の掛け算九九ができることが前提です。掛け算九九を前提にするためには、足し算ができることがさらなる前提となります。
また、薬剤師国家試験で考えてみると、薬物動態学を理解するためには物理化学ができることが前提、物理化学を理解するためには高校化学、高校数学等ができることがさらなる前提となります。
つまり、基礎力は一つひとつの理解の積み重ねであるため、その大前提となる理解・知識が自分の頭の中からすぐにアウトプットできる状態にできているほど、基礎力が高いといえます。
それでは、いかにして基礎力を身に付けるか。その答えは、「理解→インプット→アウトプット」の順番を学習の1サイクルとして繰り返し続けることです(図参照)
また、この1サイクルの理想の割合は、理解:インプット:アウトプット=3:6:1といわれています。問題だけ解いていても成績が上がらないのは、その前提となる理解やインプットが不足しているためです。
同様に、解説を見たり、人に相談したりするだけで、すぐに納得した気になることは、一番時間のかかるインプット部分を省略してしまうため、なかなか成績が上がらないことにつながります。
さて、薬剤師国家試験における基礎力というと、基礎3科目(物理、化学、生物)が挙げられます。この3科目は、「理解→インプット→アウトプット」のサイクルを、より多く積み上げていくことが必要です。それゆえ、苦手としている学生が多いのも事実です。
積み上げ型の勉強の場合、前段階のサイクルに不足部分があると次のステップに進めなくなるため、物理、化学、生物について、効率良く学習する順番や、特徴的な学習方法を紹介いたします。
物理
物理は、医薬品・生体分子を理解する上で、必要となる物理学的・分析化学的な考え方に重点を置いた問題を中心に出題されています。物理平衡・化学平衡、反応速度などは計算問題やグラフを中心に出題されています。
特に、物理化学の熱力学、反応速度、分析化学の酸塩基を優先して学習を進める必要があります。これらの範囲は高校化学や高校数学の知識も必要となるため、分からない場合は高校レベルから知識を確認することが重要です。
大学での学習をしながら、高校の内容で分からない箇所が出てきたら基礎を確認しながら進めると、効率良く学習できます(例えば、反応速度の計算問題を解いているときに、対数計算や、微分・積分で分からない箇所だけを調べてみる等)
また、近年の薬剤師国家試験では「考える力」が問われるため、その基礎となる定義や公式の意味をしっかりと自分で理解してしながら覚えることが重要となります。
化学
化学では、近年、構造に関する問題が増えています。中でも医薬品の構造が与えられ、判断する問題が出題されています。
例えば医薬品と受容体との相互作用では、医薬品に含まれる官能基や構造の性質を理解するため、結合の種類や酸塩基、それが生体内の生理的条件でどのようになるかを判断しなければなりません。また、立体や水溶性、疎水性なども考慮する必要があります。
例を挙げると、カルボキシ基を有する医薬品の場合、生体内ではイオン化され、陰イオンとして挙動します。そのため受容体を構成するアミノ酸部分とイオン性の相互作用などを起こしそうだ、と推定することができます。
このように医薬品への応用には、混成軌道を含む結合、相互作用、酸塩基、立体など、化学の基礎を習得する必要があります。
生物
生物では、近年、図表や組織図、実験を題材とした問題が増加しています。このような問題に対応していくためには、点である知識をつなぎ合わせて線にしていく必要があります。
例えば組織図の場合、組織の位置とその機能を結びつけます。免疫反応と抗体製剤の関係を見る場合は、免疫担当細胞や抗体、補体等の機能を単独で考えるのではなく、抗体製剤の結合部位、その結合部位の機能、そして最終的にどの様な作用をもたらすのかをつなげます。
このように、点と点をつなぎ合わせていくための基礎づくりとして、今の時期皆さんにしてほしいことは、一つひとつの物質の構造、細胞についての知識をつけることです。これらの知識が、代謝や各種反応の理解につながり、点を線にしていく基礎になります。最終的には、身体全体の仕組みをイメージし、代謝や免疫反応などはマップが描けることを目指してください。
今回、学習方法を紹介した基礎3科目については、苦手意識を持つ学生が多いですが、医療系科目の土台を作るための基礎となります。早くからの学習の開始と、効率の良い学習が、薬剤師国家試験合格の鍵になります。医療の現場で起こり得る未知なる事象に対応できる薬剤師になるため、しっかりと基礎力を磨いてください。
(学校法人医学アカデミー薬学ゼミナール)