【世界の薬学教育】第3回 薬学教育の評価

2015年7月1日 (水)

薬学生新聞

城西国際大学薬学部
臨床統計学教授
山村 重雄

 これまでに、FIPの紹介やFIPでの薬学教育に対する考え方を紹介しました。基本にあるのは薬剤師としての倫理であり、患者を中心としたケアを提供するために薬の安全性・有効性に責任を持ち、社会に貢献できるかということです。そのためのCompetencyの考え方(Competency Framework)を前回ご紹介しました。

 今回は、教育の質保証について考えてみます。教育の質保証といってもピンとこないかもしれません。しかし、薬剤師の職能が社会に受け入れられるためには、薬剤師として働くために、どのような教育を受けてきたかを示すことはとても重要なことです。そこで、日本で皆さんが受けている教育と関連づけて薬学教育の質保証について考えてみます。

薬学教育の質を支える5本柱

 医療の質を評価するときによく用いられ方法の一つに、Structure-Process-Outcomeモデル(ドナベディアンモデル)があります。医療の質をStructure(医療提供体制)、Process(臨床過程)、Outcome(治療結果)で評価するのがStructure-Process-Outcomeモデルです。どのような社会情勢や社内情勢(Structure)で、どのような手法で(Process)でケアを提供すると、どのようなアウトカム(Outcome)が得られるかをモデル化し、医療の質を評価します。

 2000年に入った頃、FIPでは、ファーマシューティカルケアをStructure-Process-Outcomeモデルで一般化することを試みていました。同じ方法が、最近FIPにおいて薬学教育の質評価に応用されています。

図

※画像クリックで拡大表示

 薬学教育の質評価では、Structure-Process-Outcomeの三つに加え、Structureの前提と背景(Context)、Outcomeが社会に与える影響(Impact)の五つの段階で評価するとよいとしています。これを教育の質を保証するために5本柱と言っています。5本の柱を支えているのがCompetencyです。ここでは、重要なCompetencyとしてサイエンス、実務、倫理を挙げています。この三つのCompetencyが備わっていないと教育の質は担保できないことを意味しています。サイエンスは知識の基礎となり、実務によって経験を積み、倫理は態度や価値の基礎を与えます。

神奈川県薬剤師会の協力によりワークショップを実施

神奈川県薬剤師会の協力によりワークショップを実施

 FIPでは、薬剤師に必要なCompetencyを教育するにはサイエンスと実務の協力関係の重要性を主張しています。その重要性を理解してもらうために学会等でワークショップを実施しています。面白いことに、研究を行っているサイエンス側の人も実務に携わっている人も、これからの薬学教育に必要なこととして、サイエンスと実務の協力関係の必要性を上位に上げています。今後、薬学教育の中でサイエンスと実務の統合がさらに進んで行くものと思います。ちなみに、実務に携わっている人のワークショップは神奈川県薬剤師会の協力を得て、日本で実施されました。

 では、5本柱について簡単にお話ししましょう。

背景(Context)について

 背景とは教育を提供している様々な社会情勢(経済や文化などを含む)を指します。背景としては二つの面を考える必要があります。一つは外的な背景、すなわち、社会や国レベルのものです。一般に外的な背景は個人や大学レベルでは変化させることが困難です。もう一つは大学内の背景です。これは努力次第では変化させることができますが、外的な背景に大きな影響を受けます。皆さんが通う大学においても教育理念、教育目標が掲げられていると思います。これが背景に相当するでしょう。

構造(Structure)について

 構造には教育を発展させるための大学の組織や管理体制になりますが、学生の皆さんに一番身近なのはカリキュラムでしょう。カリキュラムを適切にデザインすることは、これから教育効果を高めるために大変重要です。カリキュラムは単に時間割のことではありません。入学から卒業までの教育過程を示しています。皆さんの大学でもカリキュラムポリシーとして公開されていると思います。

プロセス(Process)について

 プロセスはイメージしやすいと思います。どのような方法を用いて、どうやって教えていくかを示しています。プロセスでは評価が重要な役割を果たしますが、いつ、どうやって評価するかを明らかにする必要があります。特に最近では、どのくらいの頻度で、ということが重要視されてきています。きっと、皆さんの大学でも、単に期末試験だけでなく、そこに至るまでの過程を評価する様々な工夫がされていると思います。そして、各大学でカリキュラムポリシーとして公開されています。

アウトカム(Outcome)と影響(Impact)について

 アウトカムと影響は比較的近い概念ですので一緒にお話しします。いずれも行ってきた教育によってどのような結果が得られたかを示していますが、アウトカムは比較的短期間の成果を示し、影響(Impact)は中長期的な成果を示しています。

 アウトカムは、皆さんの大学で公表しているディプロマポリシーが相当すると思います。各大学で学位を授与するとき(卒業する時)に身に付けておくべき能力が示されています。もう少し具体的に書かれたものとしては、新しい薬学教育モデルコアカリキュラムに示されている「薬剤師として求められる基本的な資質」になるでしょう。

 影響(Impact)はもう少し長期にわたる結果を示しています。例えば、皆さんの中から地域の、あるいは日本の薬剤師を牽引するリーダーシップを発揮する人が多く出てくるようであれば、長期的に見て教育は成功したことになります。


 FIPが提唱している薬学教育の五本柱を簡単に説明しました。日本の薬学教育も、5本柱に対応しているようにもみられますが、これから、様々な評価が行われていくことでしょう。一番重要な教育の質の評価は学生の皆さんが今後、薬剤師として社会で貢献できるかです。ぜひ、充実した大学生活を送っていただきたいと思います。



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