第15回日本抗加齢医学会の話題を追って

2015年9月1日 (火)

薬学生新聞


第15回日本抗加齢医学会総会

 抗加齢医学は、「最後の瞬間まで元気に過ごす」ことの実践を目的とする新しい学問であり、その範疇は幅広い。予防だけでなく根本的治療も含んでいるのが特徴だ。さらに、高齢者においては、低侵襲で副作用が少なく、有効性の高い高分子標的治療の実現にも及んでいる。このほど福岡国際会議場で開かれた第15回日本抗加齢医学会総会では、疫学で得られた検討結果を遺伝子多型などによって科学的に検証する手法が、抗加齢医学の発展にも大きく寄与することが改めて確認された。

「抗加齢遺伝子」同定へ

 近年、老化の分子機構もかなり判明し、アンチエイジングに関する興味が非常に深くなっている。今後は、抗体医薬のみならず、遺伝子治療や再生医療、ペプチド医薬、ワクチンといった次世代、次々世代の医療が、高齢者の特質を理解しながら形成していくものと予測される。

 こうした中、「抗加齢医学の発展には、疫学で得られた検討結果を遺伝子多型などによって科学的に検証する手法が不可欠である」と指摘する関係者の声が多い。実際、疫学で得られた検討結果を遺伝子多型などにより科学的に検証できた具体例には、葉酸の骨折予防効果の同定がある。

 葉酸欠乏ならびにその代謝物である血中ホモシステイン値の増加が、脳血管障害、認知症、骨折を増大する疫学結果が示され、これを科学的に検証することで、葉酸の抗加齢効果が証明されている。

浦野氏

浦野氏

 米国では1998年以降、穀類への葉酸の添加が義務づけられ、それ以降、脳血管障害による死亡率の急速な低下が報告されている。また、メタ解析においても葉酸補充が脳血管障害発症リスクを約20%低下させることが判明している。わが国でも疫学結果の科学的検証が進んでおり、今年の日本抗加齢学会では、浦野友彦氏(東京大学医学部老年病科)が、分子疫学研究による抗加齢関連遺伝子の検索同定について講演した。

 浦野氏らのグループは、DNAチップを用いて、ヒト遺伝子に存在する一塩基置換遺伝子多型(SNP)からこれらを規定するSNPの探索を実施。これら分子疫学的手法に加えて、マウスモデルや細胞モデルを用いて骨、体脂肪、筋肉規定遺伝子を同定した。さらに、分子疫学研究では、日本人閉経後女性を対象に、統計学的に再現性のあるデータから骨量を規定する遺伝子を同定。発現制御ならびに機能解析を行い、筋肉と脂肪細胞の分化を制御するPrdm16遺伝子を見出した。

 浦野氏は、「ヒトでの分子疫学研究と動物ならびに細胞モデルを組み合わせることで、新規抗加齢遺伝子の同定が可能になる」と強調し、「今後、これら遺伝子を標的とした抗加齢医学への応用が期待される」との考えを示した。

認知症予防、重要な危機因子の管理

二宮氏

二宮氏

 一方、疫学研究では、久山町(福岡県)地域住民における認知症の研究報告が注目されている。同学会では、二宮利治氏(九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンター)が、久山町地域住民における認知症の疫学研究について報告した。

 二宮氏らは、九州大学から車で約30分に位置する田舎町の久山町で長年にわたり継続中の疫学調査(久山町研究)の成績をもとに、わが国の地域住民における認知症の有病率の時代的推移を明らかにし、認知症発症の危険因子について検討を行った。

 久山町では85年、92年、98年、05年、12年に65歳以上の全住民を対象とした認知症の有病率調査を実施しており、各調査の受診率はそれぞれ95%(受診者887人)、97%(1189人)、99%(1437人)、92%(1566人)、94%(1904人)であった。

 さらに、88年に久山町の循環器健診を受診した認知症のない高齢者約1000人を15~17年間前向きに追跡した調査の成績を用いて、危険因子と認知症発症の関係を検討した。その結果、認知症有病率の時代的推移の検討では、65歳以上の地域高齢者における認知症の有病率は、85年から12年にかけて6.7%から17.9%と有意に増加し、高齢者の6人に1人が認知症を有することが判明した。これらの関係は、性・年齢調整後も認められた。

 認知症発症の危険因子探索においては、糖尿病と認知症発症の検討では、糖尿病者における認知症発症の相対危険(多変量調整後)は1.74(95%信頼区間1.19-2.53)と有意な関係が認められた。二宮氏は、「特に、食後高血糖に留意する必要がある」と強調。加えて、「中年期高血圧、喫煙、遺伝的因子(APOE-ε4、PICALM)も、認知症発症の有意な危険因子であると判明した」と述べた。

 一方、88年~05年の期間調査した、久山町男女1006人(60~80歳)の食事パターンと認知症発症については、「豆腐、野菜、牛乳を中心とした食習慣や定期的な運動習慣を有する者は、認知症発症のリスクが有意に低かった」と報告。その上で、認知症対策として増やせばよい食品として、「大豆・大豆製品」「緑黄色野菜」「淡色野菜」「海藻類」「牛乳・乳製品」「果物」「ジュース」「芋類」「魚」「卵」、反対に減らせばよい食品として、「米」「酒」を挙げた。

 最後に二宮氏は、これらの疫学研究結果を総合して、「わが国の地域住民において、認知症の有病率は時代と共に急増している。将来の認知症の発症を予防するためには、早期より高血圧や糖尿病、喫煙などの危険因子を管理すると共に、食生活や運動習慣を是正することが重要である」と呼び掛けた。

 今後、これらの疫学調査結果を活用した科学的検証が進み、抗加齢医学のさらなる発展による健康長寿社会実現が注目される。



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