【研究戦略】薬剤の個別化投与設計に向け―血中濃度管理を通して―

2015年11月1日 (日)

薬学生新聞


北里大学病院薬剤部 小松 敏彰
同薬剤部長 厚田 幸一郎

はじめに

小松さん

小松さん

 近年、薬剤の個別化投与設計の重要性が言われている。個別化投与設計を行う一つの手段として、Therapeutic drug monitoring(TDM:血中濃度モニタリング)が知られている。TDM対象薬として最も普及している薬剤にバンコマイシン、テイコプラニンなどの薬剤がある。これらの薬剤はTDMを通して個別化投与設計に寄与しているといわれている。

 一方、TDM対象薬以外の薬剤については、本当にTDMを行う必要はないのだろうか。そのような疑問を解決するため、われわれはこれまで抗菌薬を中心に血中濃度管理の意義について研究を行ってきた。

 本稿では、これまでわれわれが取り組んできた研究内容の一部を紹介する。

イトラコナゾールの血中濃度管理の意義

 イトラコナゾール(ITCZ)は、1993年に上市されて以来、安全性も高いことからアスペルギルス症・カンジダ症などの深在性真菌症の治療や、真菌症の発症予防等に汎用されている。

 現在ITCZは、TDM対象薬ではないが、血中濃度を測定することにより治療効果が向上したとの報告もあるが、TDMの必要性については賛否が分かれている。そのため、われわれは文献調査を行い血中濃度管理の意義について探索を行った。

 文献調査を行った結果、ITCZの血中濃度を250ng/mL以上に保つことで、深在性真菌症の発症の予防効果が向上することが示唆された(文献)。この値は、ITCZの内用液剤を1日200mg投与されていれば、ほとんどの症例で達成できるとの報告もある。

 しかし、ITCZは、多数の薬物相互作用があるため、ITCZの血中濃度が大きく変動することも考えられる。また、吸収に個人差が大きいといわれているカプセル剤などを使用している患者においては、十分に血中濃度を担保できていない可能性も考えられる。このような症例においては、血中濃度管理を行った方がよいと考えている。

ベンジルペニシリンカリウムの血中濃度測定の意義

 ベンジルペニシリンカリウム(PCG)は、レンサ球菌を起因菌とする感染性心内膜炎の治療薬として重要な位置づけである。

 感染性心内膜炎の治療時におけるPCGの目標血中濃度は、最小発育阻止濃度(MIC)の10~20倍に維持することが望ましいとされている。PCGの投与量は、ガイドラインでは2400万単位を分割または持続静脈投与とされている。

 しかし、これらの投与量で目標血中濃度に到達しているか、データが存在していないため、われわれは血中濃度の測定を行った。その結果、2400万単位の分割投与で実際、多くの症例でMICの10~20倍という目標血中濃度が得られることが確認できた。

図 症例1におけるPCG投与後の血中濃度推移

※画像クリックで拡大表示

 []の症例は、20歳代の男性(体重45.2kg、血清クレアチニン0.82mg/dL)、血液培養からα-Streptococcus(MIC≦0.06μg/mL以下)が検出されたため、PCG(500万単位×6)が開始となった。

 効果が得られなかったため、血中濃度を測定したところ0.43μg/mLと目標血中濃度(1.2~2.4μg/mL)を下回っていたため、持続静脈投与(3000万単位/日)への切り替えを提案した。その後、血中濃度を測定したところ20.43μg/mLと目標血中濃度を上回っており、その後は奏功し、良好の経過をたどった。本症例のような年齢が若く、腎機能が正常な患者においては、血中濃度測定を行うことも重要であることが示唆された。

終わりに

 今回、われわれが紹介した事例は、状況によっては血中濃度管理を行った方がよいといった事例を紹介した。血中濃度管理を行う上で、大切なことはまず、血中濃度管理を行う意義について文献調査等を行い、十分に検討し実施することが重要であると思われる。また、測定を行う際には、迅速性も重要となる場合もあるため、どの程度の時間で結果が得られ、臨床現場に還元できるかも考慮することも大切と思われる。

 今後もわれわれは、臨床現場で汎用される薬剤で特に治療上、重要である薬剤を中心に血中濃度の必要性についての探索を行い、血中濃度管理を通して個別化投与設計につなげていきたいと考えている。


参考文献〉小松敏彰 他 TDM研究:30(4). 149-154.2013



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