【明日の山に向かって~「病棟薬剤師」その先へ~】第3回 棟業務開発プロジェクトの結成

2016年1月1日 (金)

薬学生新聞

明治薬科大学臨床薬剤学教授
加賀谷 肇

新たな業務構築へ邁進

加賀谷肇氏

 私が入職したのは1975年で、80年代当初は薬剤師が医薬品管理を通して病棟に出向いても、特別なことがなければベッドサイドまでは出入りしないのが一般的でした。私自身は医薬品の管理を中心に医師や看護師との信頼関係が構築され、病棟業務の経験を重ねるにつけ薬剤師としてもっと臨床に関わりたいと強く感じるようになりました。また薬剤師の病棟業務の課題などが見えてくるようになりました。

 北里大学病院は71年に開院し、翌72年から自家製剤IVHの調製を開始。75年から入院患者与薬車方式を導入。前述のように76年に薬品管理を中心に病棟に薬剤師が出向し、同年に外来待合ホールにお薬相談コーナーを設置。80年からはICUに専任薬剤師を派遣し、86年には栄養管理チームが結成され私は初代薬剤師となり、北里大学では他の病院施設に先駆けてクリニカルファーマシーサービスの実践を少しずつ始めておりました。

 一方、国の動きとしては、当時厚生省(現厚生労働省)では病院薬剤師のクリニカルファーマシーをわが国に定着させるためには、実現可能な要件が必要と考えていたようです。そのような背景もあり北里大学病院薬剤部ではこのクリニカルファーマシーという概念を、より薬剤師の病棟業務として定着させるため、87年に「病棟業務開発プロジェクト」を作ることが決定されました。

写真1

写真1

 私は薬剤部長からプロジェクトリーダーを命じられ、自分を含め5人のメンバーが選出されました(写真1:病棟プロジェクト)。従来の調剤、製剤、薬品管理、DIという業務区分から解かれましたが、病棟での薬剤師の臨床業務を開発、実践し、薬剤師記録のフォーマットの作成などと仕事は多岐にわたりました。その後、厚生省より北里大学病院がクリニカルファーマシー業務の構築のためのモデル病院に指定されました。

 現場の責任者として厚生省の指導官が実態把握のため1週間程泊まり込みで視察・研修に来られ、ベッドサイドや病棟での薬剤師の仕事について詳細に体験して本省に帰られました。

 このプロジェクト時代、仲間のプロジェクトスタッフは、「この病棟業務を何とかしなければならない。日本のクリニカルファーマシーサービスの夜明けが来る」という使命感で頑張りました。

 一方で、病棟にいれば医師や看護師から、「薬剤師さんは何が目的で(病棟に)来てるの?」「なんか暇そうね!!」と、心ないことを言われたり、薬剤部に戻れば「お勉強ご苦労様!」とか嫌味を言われたり、戻る場もなく、皆がストレスも感じておりました。

 しかし、「自分たちが絶対道を拓く」と踏ん張り、ちょうど1年くらいたった88年4月に調剤技術基本料として点数(100点/月)が付きました。初めて薬剤師の臨床業務に保険点数が付けられたことは大きな励みであり、プロジェクトの達成感にもつながりました。

写真2

写真2

 保険点数が付けられたということは、医療職のプロフェッショナルとして認められたということになります(写真2:朝日新聞記事)

 今思うと、病棟で薬剤師が“市民権”を得るまでの下積みの活動がなかったら、今のように薬剤師が病棟にいるという足掛かりがなかったのではないかと思います。

 そういうところに関われたということは、私の薬剤師人生にとっても非常に意義があることだったと思います。

「絶対道を拓く」を胸に

 当時厚生省では、調剤技術基本料および施設基準について、(1)病床数が300床以上の病院であること(2)医薬品情報の収集および伝達を行うための専用施設(以下「医薬品情報室」という)を有し、専任の薬剤師が2人以上配置されていること(3)医薬品情報管理室の専任薬剤師が、有効性、安全性等薬学的情報の管理および医師等に対する情報提供を行っていること(4)当該病院の薬剤師は、入院中の患者ごとに投薬・指導記録を作成し、投薬に際して必要な薬学的管理を行い、投薬の都度必要事項を記入すると共に、当該記録に基づく適切な指導を月1回以上行っていること(5)投薬管理は、原則として、注射薬についてもその都度処方箋により行うこと――と、調剤技術基本料が定められました。

 ここに至る経緯は薬剤管理指導業務20年の軌跡「薬剤師が翔んだ日」(手島邦和著、薬事日報社)に詳しく述べられていますのでぜひ参照してください。

写真3

写真3

 また、病院薬剤師にとって注射薬を処方箋により取り揃えるためのツールも現場では必要になりました。写真3(注射薬セット車)は、私が注射薬セット車として設計図案を出し、サカセ化学株式会社が製造したものです。

 特に工夫した点は、[1]1患者ごとの引き出しがプラスチック製で取り出しやすいこと[2]病棟に搬送するためにステンレス製のフレームがしっかりしていること[3]病棟では混注作業台として看護師の利便性がいいこと――などを考慮しました。

 注射薬セット車は、注射薬ピッキングマシン(注射調剤マシン)の普及と共にその形態も変化していますが、これがオリジナルのセット車として医療現場に提供されました。

 次回(第4回)は「クリニカルファーマシー武者修行」と題して、米国でのクリニカルファーマシー実地研修で学んだことを述べたいと思います。

 (続く



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