第1回 世界の薬局・薬剤師

2016年1月1日 (金)

薬学生新聞


新潟薬科大学健康推進連携センター教授
小林 大高

「厳しい風」は日本だけじゃない

 日本では、薬剤師と薬局への市民一般からの風当たりが強くなり、業界紙の言葉を借用させてもらうと、「調剤バッシング」の連鎖が止まりません。しかし、世界各国のここ20年の推移を見てみると、薬剤師と薬局への厳しい評価に薬剤師が苦しんできたのは、日本だけに限ったことではないことがわかります。

 例えば、欧州では1990年代から、薬局でしか医薬品が購入できないことに不満をもった国民からの要望で、各国政府は、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ガソリンスタンドなどで医薬品を購入できるような規制改革(医薬品独占販売権)を推進しました。同様に、薬剤師のみにしか許さなかった薬局開設を、法人組織である会社に認めたり、複数の薬局所有を認めるような「薬局開設権」をめぐる大改革を断行したりしてきました。

 このような厳しい風が吹く中にあって、各国の薬剤師は、決して弱音を吐くことなく、地道に国民の理解を得るための努力を重ね、少しずつではありますが、国民の信頼を回復してきました。

電子処方箋と医療連携の可能性について説明するフィンランド薬剤師会のSalimaeki女史

電子処方箋と医療連携の可能性について説明するフィンランド薬剤師会のSalimaeki女史

 欧州を例にするならば、イタリア、デンマーク、フィンランド、オランダ、フランス、スペイン、ポルトガルなどで、こうした逆境をむしろ逆手にとって、薬剤師と薬局のスキルアップを完了させ、全薬剤師が一丸となって薬局サービスの質を整え、地域保健の核として薬局を活用させるような制度設計を提案し、少なからず成功を収めています。

 例えば、フィンランドでは、気管支喘息、循環器系疾患、糖尿病など慢性疾患に罹患していると診断された国民を対象にした「二次予防(重症化予防)プログラム」に薬局が積極的に関与しています。

実績に基づく世論を味方に

 97年に喘息罹患者への適切な服用方法を確認し、服用状況の詳細を医師にフィードバックし、多職種で協働するパイロットプログラムを立ち上げたことを皮切りに、プログラム実施地域からの厚い支持を背景にして、04年からは、全国的なプログラムである「薬局喘息プログラム」に発展させ、服薬コンプライアンスを大幅に向上させることに成功しました。

ヘルシンキ大学の5年コースで批判的レビューの講義をするAiraksinen教授(社会薬学)

ヘルシンキ大学の5年コースで批判的レビューの講義をするAiraksinen教授(社会薬学)

 薬局が関与することで喘息を患う国民の生活の質を目に見える形で改善し、同時に、低い服薬コンプライアンスに起因する過剰な処方薬の削減に尽力しました。こうした薬剤師と薬局の働きは「医療費の削減」にも貢献したと政府からも高く評価されました。

 ここでポイントとなるのは、単にパイロットプログラムに終わらせることなく、全国展開できるようにフィンランド薬剤師会が準備を怠らなかったことです。

 日本でも、喘息患者に対する介入事例は報告され、成功を収めていますが、全ての薬局で適切に実施するほどには至っていません。個々の事例を全国的なプログラムに発展させるという点については、どうも日本はあまり得意ではないのかもしれません。

 フィンランドでは、この全国的な成果が世論を味方につけ、薬局と薬剤師を積極的に地域保健活動に活用していこうという機運を生み出しました。この結果として、現在では、糖尿病や循環器疾患を対象にした「慢性疾患重症化予防プログラム(疾病管理プログラム)」にも、薬局が含まれるようになり、医師や看護師と協働して、患者の服薬教育や服薬状況分析などで当該疾患の治療支援や重症化予防に成功しています。

 実は、フィンランドにおいて、こうした薬剤師による積極的な介入プログラムの必要性を社会が求める理由として、リピート調剤(処方箋を複数回使える制度)が認められていることがあります。

 フィンランドなど一部の欧州諸国では、医師が病状が安定していると診断した慢性疾患患者の処方については、その処方箋の有効回数を複数回にすることによって、患者が医師の診察を受けなくても薬剤を受け取れるようにしています。

 リピート調剤を成功させるカギは、複数回処方で薬局を訪れた患者の経過観察を、薬剤師が専門職としてチェックできるかどうかにあります。

 悪化しているような兆候が認められるのであれば、その場で医師に照会できるだけのスキルが求められます。その意味では、リピート調剤を可能とするような社会環境にあるフィンランドの薬剤師だからこそ、重症化予防プログラムへの積極的な関与ができるだけの実力が備わっていたという見方もできます。

 つまり、海外事例を根拠にして、日本でも同じようなプログラムを導入したからといって成功するかどうかは簡単な問題ではありません。

昨年ドイツで開催されたFIP国際会議で、ドイツの疾病管理パイロットプロジェクトを説明するドイツ薬剤師会(ABDA)

昨年ドイツで開催されたFIP国際会議で、ドイツの疾病管理パイロットプロジェクトを説明するドイツ薬剤師会(ABDA)

 年1回開催されるFIP(国際薬学連合)の国際大会でも、薬剤師の実務での活躍について研究発表が紹介されています。しかし、こうした研究発表に感動して、それを自分たちの国に持って帰ろうとしたときに、大切になるのは何かといえば、相手国の医療の文化や社会背景までをきちんと理解することにあります。

 このシリーズでは、単に外国の薬局や薬剤師を紹介するだけでなく、できるだけ多くの文化的な背景などもご紹介していきたいと思います。



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