【対談 薬剤師×薬学生】小児医療には未来がある!

2016年9月1日 (木)

薬学生新聞


小児の薬は「アドヒアランス」‐続ければ無理なことはない

 ――次に、小児領域について詳しくお聞きしていきたいと思います。成人は自ら治療を望みますが、小児は治療への抵抗を払拭するところから始まりますよね。そこの部分に、どう薬剤師は関わっていけばいいのでしょうか。

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 石川 まず子どもに、「どうして入院するんだろうね」というところから説明し、「じゃあどうしてこの薬を飲まなければいけないのか」と、薬の必要性、副作用について4歳くらいの子に教えなければならないんです。この時に、絵や絵本を使ったり、人形を使うなど、何とかして興味を持って聞いてもらうわけですが、実はそれが得意なのは看護師さんや、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)です。手術室に入る前に泣いてしまう子どもに対し、CLSが人形を使って手術について説明してあげるという話を聞いたとき、「薬剤師もこれだ!」と思ったんですね。私たちは、子どもの心理的な特性を生かした服薬指導を目指しています。

 自分で小児医療に携わってきてだんだん分かってきたことは、ないものは作らなくてはいけないということです。作ることは1年ではできませんが、5年かければ必ず一歩目は踏み出せる。10年かければ必ずできる。やれば必ずできるんです。小児の薬では「適応外使用」が長く問題でしたが、厚生労働省の未承認薬検討会が立ち上がったことで、わずか2~3年で一気に100品目近い小児の適応を取ることができました。

 今度は剤形です。これは厳しく、やっとスタートさせたところです。日本には子どもの薬がありません。子どもの薬を作ってもらうために、製薬企業、医師や大学と手を組んで、小児用製剤を作るための枠組み作りを一生懸命進めているところです。

 「アドボカシー」という言葉を知っていますか?できない人がいたら、できる人がやってあげるいう心のことを言います。成人と小児であれば、成人が小児に対してアドボカシーを持つべきだと思います。医療従事者には、治療を望んでいない人たちに対しても、なければならないものを見つけてそれを提供してあげるというアドボカシーの心がなければダメです。日本の薬剤師は、その心を持てていない人が多いですよね。

 ――石川先生にとって小児医療の魅力とは何でしょうか?

 石川 私はもともと、成育医療研究センターに転勤してくる以前は、成人の医療に携わっていました。専門は高尿酸血症などで、生活習慣病の予防に関する講義を薬剤師にしていたりしていたんです。当時から考えてみると、小児はやりたくない医療のトップだったかもしれないですね。成人だったら錠剤を渡せばいいだけですが、軟膏を混ぜたり、注射するのも大変です。成人であれば1バイアルでいいのですが、子どもになると1バイアルを20ccで薄めて、その10ccを生理食塩水に混ぜて、ということをやらなければならない。

 昔、新生児にバンコマイシンを投与する時に、医師から怒鳴られたことがありました。「水50mLに混ぜてください」と言ったら「この子の血液がどれくらいあると思ってんだ。血液より多い薬量を投与するとは、どういうつもりだ」と叱られたんですね。その時に「添付文書って何の役にも立たないんだ」と痛感しました。

 また、血液製剤に薬は混ぜてはいけないとも添付文書に書いてあります。生物由来ですからね。それで医師に「混ぜないでください」と言ったら、また怒鳴られるわけです。「じゃあ、お前が新しく薬を入れるための針入れろ。子どもの体に何カ所穴を作るつもりなんだ。子どもが痛くないと思っているのか。それが薬剤師のすることか」と言われました。

 それで、初めて混ぜて大丈夫な薬かどうか調べて、血液製剤に混ぜられる薬と混ぜられない薬があるから、こちらを選べばいいんだって分かるようになったんです。「コンプライアンス」という単語があります。最高の薬はこれだから、何としても飲んでもらうというものがコンプライアンスです。

 でも、子どもの場合は「アドヒアランス」なのです。子どもが望む形に合わせて、私たちが薬を選びます。新生児も小児もルートが1つしかないなら、それに合う薬を私たちが探さなければいけません。つまり、医療の質が違うのです。実際やってみた時に、私が以前担当していた大人の患者さんと全く違っていた点がありました。瀕死の状態にあった子どもが、胃瘻を作って栄養を入れてあげるだけで、自然にどんどん治っていきます。普通の子どもになって退院して、2年経ったら成長して小学生になっているんです。その子どもには未来があるんですね。

 大人の医療をやっていた時は、その人が幸せになれるかどうか分からない未来を見据えて医療をやっていました。子どもの未来は、必ずその先に幸せがあります。家族まで幸せになるんです。医療が前に向いているのです。子どもの医療には未来があります。これって日本の未来と同じじゃないですか?いまの子どもが日本の未来を作っていくんですから。だから、私たちはきっと日本の未来を作る医療に携わっているんですよね。

 海外では子どもの医療費に力をかけ、本当の医療費をかけない治療に力を入れるようになってきています。海外はお金がないので、本気です。病気になったらすごくお金がかかりますから、どうにかして予防に力を入れて治療費をかけないように考えています。小児医療に力を入れることが、健康寿命を延ばすことにつながるんですね。つまり小児医療とは、自分たちが提供した医療が次の世代、その次の世代を幸せにしていくということなのです。

 私は小児医療に携わる前は、臓器を治すことをエンドポイントだと考えていましたが、成育医療研究センターに来たら違いましたね。医療のエンドポイントは、患者さんが幸せになることでした。これが一番印象的なことでした。子どもは治ることがエンドポイントじゃないんです。子どもは治らなくても、家族が満足するところまで行くことがあるし、治っても全然満足されないこともある。子どもが生まれることが幸せなこともあるし、生まれないことが幸せなこともある。だから、とても難しいんですよね。

 ――未来を持つ命だからこそ、一生病気と付き合っていく、つまり一生薬と付き合っていく患者さんも小児医療の領域にはいて、そういうことを考えた時に、薬剤師が関わることができる部分は大きいのかもしれないですね。

 石川 とても大事な部分です。終わらない医療というものがありますが、薬があるだけで命を落とすことなく、大人になり、恋愛をし、結婚することができる。そういう人生を考えたら、薬を飲むことは辛いことではないですよね。治らないことが辛い?そうではないと思います。薬と一緒に幸せでいることができるのなら、それがエンドポイントになれるんですよね。

 同じように、治ったとしても全然幸せじゃない場合もある。生まれてきたけど、家族が幸せになれない。とても難しい部分がありますが、子どもが幸せになることを見た家族は、お母さんもおじいさんもみんな幸せになるんですよね。

 1つ信念として持っているのは、無理だと思うこともひたすら続ければ可能になるということです。私が小児の医療を始めたころに実感したことは、「何もない世界ってあるんだな」ということです。以前は全てが閉ざされていた世界でした。それが5年も一生懸命取り組んだら薬の小児適応を取ることができ、認定薬剤師も5年言い続けて立ち上げることができました。子どもが飲めない薬があるといえば、5年経ったら製薬企業が散剤を作ってくれました。そういう感動を私は何回も味わってきました。

 一生懸命やれば、薬剤師はみんなそういう思いをすることができると思います。5年やってもダメなこともあります。それは10年続ければ可能になり、10年でダメなら20年です。一番ダメなのは、途中でやめることだと思っています。それが私の信条です。以前は、そんなこと思ったこともなかったのですが、閉ざされた世界を変えるためには、何事も粘り強く続ける必要があると痛感しました。今はとても楽しいと思っています。

薬物療法なしに薬剤師なし

 ――最後に薬学生へのメッセージをお願いします。

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 石川 皆さんは、チーム医療を実践するため、専門家になるために薬学を学んでいます。薬剤師が学ぶことは薬理学、薬物療法。これなしにはあり得ないです。医療が私たち薬剤師に望むことは薬物療法であって、医師の卵なんかいらないし、看護師の卵は求めていない。薬剤師は何かにつけて、そういう能力を欲しがりますが、薬物療法の知識と能力が抜けていては話になりません。

 私が医師に「薬に詳しいんだね」と言ってもらえたのは、薬理学を知っているからであって、薬の使い方を知っていたからではないのです。医師は経験則で、こういう病気にはこの薬をこのぐらい投与すればいいということを知っています。経験則ですけどね。だから、「この薬が効くと思いますよ」というアドバイスは何の役にも立ちません。この薬によって、こういうことが予測され、こういうことがあってはいけないという話ができれば、「薬に詳しいんだね」と言ってもらえる。それが薬理学なんです。薬剤師になるということは、そういうことです。薬学生はそれを学んでほしい。

 あとは、現場に入って新しいことを始めるのであれば、数年単位で物事を考えるなということです。5年単位、10年単位で新しいものを作っていかなければなりません。薬剤師に多いのは評論家です。医師は目の前に苦しんでいる患者さんがいるので、「あの薬がないから治らない」では済まない。何とか治さなければいけないんです。

 それに比べて薬剤師は、「添付文書に載っていないから使えない」とか、「誰か変えるように教えてあげないと」で終わってしまって、自分で変えるという方向に動かない。誰か小児領域をやればいいのにと言うだけで、やる人が出てこない、一歩引いて医療を見ているんです。医師は、患者を目の前にして医療をやっているので、一歩引いた医療なんてできない。薬剤師もクリニカルファーマシストになった瞬間に、一歩引いた医療なんてできなくなります。私も処方箋を見て調剤していた薬剤師だったころは、一歩引いた医療で済んでいましたが、目の前で子どもが薬を飲めないって泣いていたら、自分で作るしかない方法がないじゃないですか。その時には、評論家の薬剤師をやっている暇がなくなってしまいました。

 それから、ぜひ存在する薬剤師であってください。カンファレンスで一番話さないのが薬剤師です。チーム医療では「自分はこう思う」と主張してこそ意味があるのに、今日は発言に当たらなくてよかったとホッとしている薬剤師がどれだけいるでしょうか?間違っていても発言すること、間違ったらいけないから勉強することが重要ですし、ディスカッションの中で戦い抜く力が必要です。

 ただ、医師はそういった環境の中で生活しているので、分からないと言っても、次にしっかり調べて回答すれば許してくれます。医師は100回間違えても平気です。間違えたら新しく直して訂正して、間違っていたら5分後でもすぐに訂正します。間違えたままだと患者が死亡してしまうので、すぐに訂正するんです。そういうふうに薬剤師もなるべきだと思います。薬剤師はのんびりしているんですよね。患者の横にいないから、DI室で「回答は明日でいいですか?」という答え方をするんですよね。現場感がないんです。

 私は、仕事の中で人を幸せにする仕事は最高だと思うんです。その職業の中で最高峰は、たぶん医療なのかなと思います。生物にとって一番辛いのは、痛い、苦しいというものじゃないでしょうか。それを取ることができる医療って、どんなに素晴らしいことかと思います。それに参加できることってすごいことです。人を幸せにできる職業はたくさんありますが、医療がもたらす幸せというものは、レベルが違うんです。そんな医療に関わることができる薬剤師が、その意義を理解せずに、国家試験の合格のために勉強するようなことは決してあってはいけないですね。

自ら発信しネットワークを‐ポジティブな思考が大事

 ――20年、30年先に変わる医療を私たちが担っていくことになると考えると、動き始めた小児医療も私たちが中心となって担っていかなければいけないと感じました。そういう分野を背負っていこうと思う薬学生、薬剤師を増やしていかなければいけないですね。

 石川 全くそう思います。こういう思いを薬剤師が広げていかなければいけないです。薬剤師はたくさん勉強しても、人に伝えない人が多いです。医師は自分が見つけたことを人に伝えるので、すぐ変わるんです。薬剤師は孤高の人で終わることが多い。「あの人はすごいなぁ」で終わってしまうんです。聞けば教えてくれるんですが、自分から発信し、ネットワークを作って伝えなければいけない。

 だから、私はネットワークを作って、北海道にいる子どもにも、九州にいる子どもにも薬剤師を通じて成育医療研究センターの医療を提供してあげたい。自分が成育医療研究センターにいるだけでは100人しか救えないかもしれないですが、それを10人に伝えることができれば1000人救うことができます。それを薬剤師はやるべきです。ネットワークの広さが薬剤師の価値になります。ネットワーク1つで、自分の思いが100人の新しい未来を担う薬剤師を作るかもしれない。子どもが助かりますようにって祈ってても何も変わらないんです。

 ――私たちがこれから先、発信力を持った薬剤師となる必要がありますね。そこを見据えて長い時間をかけてしっかり変わっていかなければと思います。

 石川 そうです。「私たちが」という点が非常に重要です。自分がアクションを起こさなければ、誰も起こしません。医薬品を梱包する機械やテクニシャンが導入されたら「薬剤師の仕事がなくなる」という話がありますが、それにもポジティブな思考が大事です。ポジティブに「機械がやってくれる分、新しいことができるじゃないか」と考えることが重要です。そうやって、将来、日本の医療を変えていく薬剤師が増えていってほしいと思っています。


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