日本薬剤師会一般用医薬品等委員会委員
藤田 知子
春夏秋冬、テレビ画面からは、その季節にあったOTC医薬品がCMで放映されています。それを視聴した生活者は、だれかに相談しなくても症状に合ったOTC医薬品を選びやすくなりました。またインターネットでは、症状を入力して自分に合った医薬品を検索し、購入することもできます。薬剤師が介入することなくOTC医薬品を購入することが普通にできる環境となってきています。
新しい年を迎え、昨年から届け出が始まった「健康サポート薬局」が本格稼働し、疾患の状況を判断して適正なOTC医薬品を選択し、養生法を申し伝えるなど薬局、薬剤師がOTC医薬品販売にも介入していくという本来の姿に戻そうとしています。しかしながら、処方箋調剤に特化した薬局では、OTC医薬品を揃えても売り切れないうちに期限が切れてしまうとか、OTC医薬品について十分な知識がないなど、販売準備などで行き詰まり感を感じているところも少なくないようです。薬局が新しい時代を迎える今だからこそ、改めてOTC医薬品を学び直すべきだと思います。この連載は今回で最終回となりますが、「OTC医薬品で軽医療のプロになろう!」と題して、これまでの内容を総括してお伝えしたいと思います。
OTC薬で軽医療の担い手に
軽医療というと少し大げさな気がしますが、腰痛や足の捻挫などでちょっとした痛みを感じたときに薬局で相談し、OTC医薬品を使って炎症、痛みを和らげようとすること、これも軽医療です。これまでは、処方してもらった方が診察代、薬剤料を合わせても自己負担額が安いため、特に外用剤では同成分のOTC医薬品を購入するなら受診するという人も多かったと思います。
しかし、昨年4月から外用剤の処方時に処方日数、あるいは1日当たりの使用枚数を記載、上限枚数も決められました。購入するなら受診する方が……というわけにはいかなくなると思います。また、医療用医薬品のスイッチとして、第一三共ヘルスケアのロキソニンS(テープなど)シリーズが発売されました。ロキソニンSシリーズは、要指導医薬品ですから、使用する本人に対し薬剤師が販売する医薬品です。病院に行こうかどうしようか、または、忙しくて病院に行けないが、いつももらっている薬だからこれでいいのかどうか?主治医が経過観察しているようなことも含め、今度は薬剤師がヒアリングして確認し、適正な判断をすることが重要になってきます。
ほとんどの薬剤師は医療用のモーラステープとロキソニンテープについて特徴の違いを熟知していますが、サロンパス、温熱用具、または下呂膏といった以前から販売されてきたOTC医薬品との違い、特徴、使用方法などを説明できる薬剤師はそれほど多くはないでしょう。医療用医薬品内での違いだけでなく、スイッチ化された後は、多くのOTC医薬品の中でその位置づけを知っておく必要があります。今後、前述の外用剤のように、使用日数の制限、保険の制限がかかる医療用医薬品が出てくることも考えられます。また、今年からセルフメディケーション税制*も始まり、さらにスイッチ化が進んでいくかもしれません。
軽医療の問題点として、薬剤師は個人情報、特に既往歴、バイタルサインなどを入手しにくいことが挙げられます。患者さんが訴える症状を聞く、表情を見るだけで状況を判断しなければなりません。その症状の背景にある疾患は何か、この状況で症状を緩和するだけでいいのか、いろいろと推測しなければなりません。
例を挙げると、胃の痛みを訴える方にその痛む時期、あるいは程度などを聞くと「H2ブロッカー」が適当だろうと考えたとします。さらによく聞いてみると、すでにH2ブロッカーを含め同効薬を過去何年も使い続けていて、服用しては痛みをとることを繰り返している、いわゆる“疾患の隠ぺい”をしている場合もあります。定期的な胃検診の有無、喫煙歴の有無などを確認し、軽医療の範疇でないと判断した場合は受診を促し、納得させることが重要です。軽医療の範疇ではないという判断をしたら、医療機関を紹介し、その主治医に情報提供書を作成することも軽医療を担う役割だと思います。
私は、薬局でできる軽医療はいろいろとあるのですが、薬局だからこそ、見直したいところの1つに「口腔ケア」があると考えています。歯を含む口腔内は、体全体に影響を及ぼす器官であることから、口腔ケアの重要性が注目されています。だからと言って内科系に罹っているときに口腔ケアを推奨されることはあまりありません。
高齢になると口腔内の乾燥(唾液分泌量の低下)は、歯周病の原因にもなり、その歯周病がいろいろな病気(糖尿病など)の原因となることもあります。既往歴にとらわれずに、その背景、原因となる口腔内のトラブルがないかなど他の視点から配慮し、歯磨き粉、歯間ブラシ、入れ歯洗浄剤、ホワイトニング剤、洗口液、うがい薬など、これらのケア用品を活用して、口腔内の健康を保つこと、これも軽医療になり得るのではないかと思います。
この2年ほどの間に、かかりつけ薬局、健康サポート薬局などいろいろな制度ができ、薬局にとって大きな転換期でもありました。薬学教育はかなり変わってきましたが、それでもOTC医薬品を学ぶ機会・時間は十分にあるとは言えないように思います。この連載を通じ、OTC医薬品を学ぶ必要性、また重要性を感じていただけたでしょうか。私自身を鼓舞するためにも、これから薬剤師になられる薬学生の皆さんにますますの期待を込めて、「今だからOTC医薬品を学んでおきましょう。そして、OTC医薬品で軽医療のプロになろう!」
最終回までお付き合いくださり、ありがとうございました。
(おわり)
*(医療費控除の特例)=健康の維持増進及び疾病の予防への取り組みとして一定の取り組みを行う個人が、2017年1月1日以降に、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができるもの。