【これから『薬』の話をしよう】薬剤効果の曖昧性?

2017年5月1日 (月)

薬学生新聞

医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 みなさん、こんにちは。前回は真のアウトカム、代用のアウトカムという概念をご紹介し、代用のアウトカムの改善が必ずしも真のアウトカムを改善するわけではないと述べました。今回はその実例をご紹介します。

 抗不整脈薬は作用機序の違いはあっても、基本的には不整脈を抑制する薬です。しかしながら、不整脈の抑制というのはあくまでも代用のアウトカムであって、真のアウトカムとして考えるべきは、不整脈による死亡を先送りできるかどうかです。

 1991年、世界的に有名な医学誌、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に、抗不整脈薬に関する臨床試験の結果が掲載されました[PMID:1900101]

 不整脈を有する1498人を対象として、抗不整脈薬であるエンカイニドもしくはフレカイニドを投与する群とプラセボを投与する群を比較し、不整脈による死亡を検討したものです。抗不整脈薬を投与した群の方がプラセボ投与群より、統計的にも有意に死亡率が高いという驚きの結果が示されました。

 2008年、同じくNEJMに糖尿病治療に関する臨床試験の結果が掲載されました[PMID:18539917]。2型糖尿病患者10251人を対象として、HbA1cで6%未満を目指す厳格治療群と7.0~7.9%を目指す標準治療群を比較し、心血管イベントの発生率を検討したものです。

 その結果、厳格治療群では心血管ベントが明確に減らないどころか、死亡リスクが統計的にも有意に上昇しました。死亡リスクの増加については様々な議論が可能ですが、少なくとも診療ガイドラインの推奨値までHbA1cをしっかり下げる治療を行っても、患者さんの予後はあまり変わらない可能性があります。

 この二つは極端な例かもしれません。しかし、論文情報を紐解いていくと、真のアウトカムに与える薬の影響は良く分からないことの方が多いのです。この“良く分からなさ”を僕は「薬剤効果の曖昧性」と呼んでいます。実はこの“曖昧さ”こそがとても重要だったりするのです。次回はそれについて話します。



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