製薬企業の事業環境が大きく変化している。2年に1度の薬価改定に加え、昨年末に決まった薬価制度の抜本改革では、新薬創出等加算の見直しが決まり、特許期間中であっても薬価を引き下げる新たなルールが運用される見通しだ。まさに国内市場の縮小に直面する中、製薬企業に求められるのは「新薬創出を含む成長事業の基盤構築」「海外展開」を推進していく変革姿勢だ。患者の医療情報や遺伝子情報を集積したビッグデータやIoT(モノのインターネット化)、人工知能(AI)といった新技術を活用し、新たなアプローチやビジネスを模索する「デジタル化」も検討すべき課題となっている。
製薬企業が医療機関に販売する医薬品の薬価は、上市前に中央社会保険医療協議会で決められ、上市後は2年に1度、市場で取引されている実勢価に基づいて見直される。新薬創出等加算制度は、新薬の知的財産が守られる特許期間中であれば、薬価を原則的に引き下げないルールで、2010年に試行的に導入された。
同制度は、製薬企業にとっては、新薬の特許期間内でその医薬品に投じた開発費を回収し、その原資を次の開発パイプラインの開発費用に充てられるなど、事業予見性が高く、恩恵が大きい制度として業界から歓迎された。しかし昨年末、医療費高騰で国民皆保険制度の維持が重要なテーマになる中、持続的な社会保障制度を支える目的で、新薬創出等加算の見直しというメスが入れられ、新薬でも品目によっては特許期間中の薬価を引き下げられることになった。
具体的には、同じ作用機序の医薬品であれば3番手までが対象品目となる「品目要件」や、企業の新薬開発状況からその取り組みを評価し、新薬の薬価に反映させる「企業要件」が盛り込まれ、薬価を維持できる新薬は約4割にとどまると見られている。
製薬企業に与える影響は大きい模様だ。従来、日本の製薬企業は国内市場を中心に成長してきたが、薬価制度の抜本改革が行われれば、新薬を上市できたとしても、従来のように収益性を維持できるかが不透明だ。医療機関に対して新薬の情報提供を行うMRも減少傾向で、MR認定センターの発表ではMR総数が史上初めて3年連続でマイナスとなるなど、そのあおりを受けている。
こうした状況から、「新薬を創出できるか否か」が製薬企業の成長性で大事な指標になり、各社のアプローチにも変化が生まれている。
この数年間で、自社の研究所や製造拠点を集約したり、他社に譲渡するスリム化を進めると共に、特許が切れた「長期収載品」などの非重点事業を他社に売却し、得意とする疾患領域での新薬事業に経営資源を集中させる「選択と集中」が目立った。その一方、自社が持たない専門性を保有する外部企業や研究所と手を組み、事業リスクを軽減させながら、新規領域に参入する取り組みが活発化してきた。
日本市場への依存度を減らし、海外で収益を上げる「グローバル化」も避けて通れなくなっている。実際、国内大手の武田薬品やアステラス製薬は、医療用医薬品の海外売上比率が約7割に達した。
“デジタル化”も注目されている。電子カルテやレセプトといった医療データ、患者の同意を取った上で、日々の生活記録や血圧・脈拍といったデータを身体から装着したウェアラブル機器から収集し、個々の患者に対応した形でAIが解析を行い、患者データを利活用する時代に突入している。
今後は医薬品ビジネスのみならず、医療サービスも製薬企業の事業範囲に入ってくる可能性がある。製薬企業を志望する薬学生のみなさんは、こうした変化をむしろチャンスと捉え、チャレンジしてほしい。