アマゾンや楽天によるインターネット物流が全盛で、しかもドローンによる無人配送実現さえも目の前に迫っている今、製造現場から消費者に販売する店舗までの中間流通を担ってきた卸問屋という存在、単語を知っているだろうか。
江戸時代から材木問屋があった。めっぽう火事に弱い江戸の町では、大火によって急激に材木需要が高まって価格が高騰してしまう。金儲けを企む輩は昔からいたのである。平時には需要と供給のバランスを保ちつつ、大火が発生した時に町を再建する阻害要因となる高騰を招かないため、一定量をストックしておく問屋という存在が必要だった。
時は流れて現在、陸海空路全般が進歩を遂げた。原産地や工場から直接物資が迅速に届けられるインフラが整備されたことで、問屋はその存在感を失った。中間流通にかかる手数料がなくなったことで、消費者はその分安く買えるため大歓迎されたのは当然だ。
さて、一般商材とは商品特性が大きく異なる医薬品流通ではどうだろうか。特に、生命に直結する医療用医薬品では、今も卸による流通が100%近くを占めている。
医薬品卸は、全国津々浦々、そこに医療機関や薬局がある限り、どんなところへでも必要とされる商品を、必要な時に必要な量だけ、安全・安定して届けている。ちょうど7年前の3月11日、東日本大震災が発生した。医薬品物流は、以前の阪神淡路大震災などの教訓を生かして、安定供給ができると思っていたが、津波と原発事故は想定外だった。それでも、自らも被災者である卸の社員が、寝食も惜しんで医薬品等を必要とされる現場へ届け続けたことは広く知られたことである。今は、その時の教訓も生かしたBCP(事業継続計画)と自家発電装置などの設備を整え、万全を期している。
設備投資には利益が必要だが、医薬品卸の利益率は1%に満たない、何とも心許ない状況にある。その一つの要因に特殊な商慣行がある。主に、メーカーから提示される仕切価が卸が販売する価格(納入価)を上回る一次売差マイナス、未妥結仮納入、そして単品単価が前提である薬価調査に影響する総価取引が上げられる。これらを是正するための取り組みが流通改善と呼ばれている。医療用医薬品の流通改善は昔からある問題で、製配販がいろいろと取り組んできたが、それこそ諸般の事情で一進一退を繰り返してきた苦い経緯がある。
これまで、民民商取引に口を出すことがなかった国(行政)だが、とうとう堪忍袋の緒が切れて、今年1月23日、厚生労働省の医政局長と保険局長の連名通知「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」を発出した。異例の国が主導して流通改善を加速させていく事態となった。
卸をはじめとする流通関係者は、「国が出てきた以上、もう後はない」との認識であり、不退転の覚悟で臨んでいくことになろう。
そのほか、日本ではあり得ないと言われていたニセ薬の流通が、昨年1月に発生したことも衝撃的だった。これに対して厚労省は「偽造医薬品の流通防止に向けた改正省令」を1月31日に施行している。
最も大きな問題として、薬価制度の抜本改革において、2年に1回だった薬価調査・改定が毎年行われる流れになっていることである。薬価調査は主に卸が担っていて、薬価改定のベースとなる単品単価を決める交渉は時間と労力を必要としてきたが、これが毎年となるとさらに負担が急増することが見込まれている。
以上のように、医薬品流通における課題は山積している。医薬品卸の存在意義はなくなるわけではないが、大きく厳しい環境変化の中、今後の覚悟と行動が全てを決する。