【ヒト・シゴト・ライフスタイル】薬局を文化発信の拠点に‐薬剤師とバンドマン、二つの顔 サウンドファーマシー代表取締役 菅原完さん

2018年3月1日 (木)

薬学生新聞


菅原完さん

 洗練された内装にコーヒーのほのかな香り、まるでカフェのような調剤薬局が宮城県石巻市にある。薬剤師とバンドマンという二つの顔を持つ菅原完さんが、地元の石巻で薬局と音楽イベントを手がける会社「サウンドファーマシー」を設立し、2016年2月に「さくら薬局石巻駅前店」を開設。大学卒業後に都内の調剤薬局に勤めていたが、東日本大震災で石巻が被災したのを契機に、地元に戻って薬局を立ち上げることを決断した。菅原さんは、「情熱とユーモアを持って、地元に必要とされる存在になりたいです。門前ではないことを逆に強みとして薬局の顧客志向を高めていき、音楽・イベント製作を通じて地域に貢献できたらと考えています」とサウンドファーマシーの展望を語る。薬局で医療ニーズに対応し、音楽で医療では解決できないニーズにも切り込んでいく、1人の薬剤師の熱い想いがそこにはあった。

カフェ風の内装、憩いの場に

 豊富な海の幸を有する石巻も津波で壊滅的な被害にあった。当時は腰の高さまで水浸しだったとのことだが、現在の石巻駅周辺の街並みは見事に復興していた。さくら薬局石巻駅前店は、駅から歩いて5分ほど。菅原さんは、「待合室をカフェのようなデザインの内装にして、色々な音楽をかけています。憩いの場や出会いの場というコンセプトで、気軽に健康相談ができたり、地域の医療関係者の意見交換の場になれたらと思います」と語る。待っている患者に無料で振る舞われるコーヒーは、豆からコーヒーメーカーで挽いたこだわりの一杯だ。

 薬剤師としても、バンドマンとしても、「誰かの役に立って、必要とされたい」という想いが根底にある。高校生の時に医師を志し、大学受験で3浪したが、医学部の夢が叶わず薬科大学に入学した。音楽に出会ったのも高校生の頃で、友達とコピーバンドを始めた。

 大学では3浪したこともあり、なかなか同級生の輪に入れなかったが、入部した軽音楽のサークルで、独自に作詞作曲を行う3人組のオリジナルバンド「Cat Shaped Robot」を結成。「ライブでお客さんが喜んだり、ファンレターをもらっているうちに、医師を志していた時の気持ちとリンクし始めました。医師の夢は叶えられなくても、ポジティブな歌を歌うことで、誰かを少しでも幸せにできるかもしれないと考えるようになりました」と音楽と医療の結びつきを強調する。

 就職活動をする頃には、大学卒業後もバンド中心の生活をしようと決めていた。組織の規模が大きすぎない会社を探し、エントリーしたのが東京・神奈川を中心に「さくら薬局」などを手がける調剤薬局チェーン「メディックス」。義理・人情・心意気を大切にする社風に惹かれた。面接で正直に「入社後もバンド活動を主体にやりたい」と伝えると、面接官から「そのぐらい何かに打ち込んでいる人の方が仕事を頑張れる」と理解のある返答が得られ、入社を決意。都内の薬局で薬剤師として働くことになった。

 卒業する年の3月や入社後の4月もバンド活動を継続させた。週2回の休みと有給を使い、名古屋や関西にもライブのツアーにも行った。仕事とバンドを両立させている菅原さんの姿を見て、サークルの後輩が同じ会社に入社することもあった。後輩が増えたことやバンド活動を通じて学んだコミュニケーション能力が会社からも評価された。バンド活動も軌道に乗り、全国流通版のCDの制作に取りかかった頃、11年3月11日を迎えた。

震災後に開局「薬局の幅超えたい」

菅原さん

菅原さん

 石巻で障害者支援の仕事をしている菅原さんの母親から「波が来た」とメールが来て以降、通信制限で連絡ができなくなった。「全てが真っ白になりました」と菅原さん。震災が発生した10日後に石巻への道路が開通したことを知り、バンドワゴンに物資を詰め、石巻に向かった。「私が到着したとき、もう波は引いていましたが、泥まみれで戦地のようでした」と当時を振り返る。

 母親の無事は確認できた。既に被災した地元で障害者の支援をしていた。その懸命な姿を見て「自分が母親をサポートしないといけない」と思ったという。しばらくは東京で働きながら実家を支援し、バンド活動は休止。復興イベントの誘いも頑なに断った。「自分の曲で被災地を元気づけようというのは、地元ではない人だからできるのだと思います。自分の家族や親戚が被災したら、音楽ではなく直接の支援が第一です」と当時の心境を語る。

 震災の翌年、CDの発売を実現させたが、「バンドはやりきった感覚でいました。それよりも、地元に帰って貢献したいという気持ちが大きくなりました」と心情は変化していった。東京の調剤薬局で得た顧客志向のノウハウを活用し、仮設住宅での生活を強いられている患者や、既存のサービス以上のものを必要としている患者を支援する面対応薬局を石巻で立ち上げると同時に、地元の石巻で文化的な刺激を発信する活動がしたいとの思いが「サウンドファーマシー」設立へとつながった。

カフェのような内装のさくら薬局石巻駅前店

カフェのような内装のさくら薬局石巻駅前店

 菅原さんの起業には、前職のメディックスが全面的にサポートしてくれた。「われわれの使命は地域貢献なので、石巻でやろうと東京でやろうと同じこと」と言ってくれたそうだ。支店やフランチャイズではないが、メディックスに感謝とリスペクトを込めて、薬局には同じ名前の「さくら薬局石巻駅前店」とつけた。

 菅原さんは、石巻の現状について、「何とか食いしばって立ち上がった人と、立ち上がる余力がなかった人で差が出てきていると思います」との見方を示す。

 「薬局の機能として力になることはもちろん、医療以外の面でも心に傷を負った社会的弱者も助けていきたい。薬局の幅を超えようと思っています」

 現在、サウンドファーマシー設立3年目。菅原さんの挑戦は始まったばかりだ。



HOME > 薬学生新聞 > 【ヒト・シゴト・ライフスタイル】薬局を文化発信の拠点に‐薬剤師とバンドマン、二つの顔 サウンドファーマシー代表取締役 菅原完さん

薬学生新聞 新着記事
検索
カテゴリー別 全記事一覧
年月別 全記事一覧
新着記事
お知らせ
Twitter & RSS

記事の更新情報の取得には、TwitterとRSSが便利です!