【ヒト・シゴト・ライフスタイル】突破力でヒット商品生み出す 龍角散執行役員開発本部長 福居篤子さん

2018年7月1日 (日)

薬学生新聞


福居篤子さん

 薬が飲めなくて苦しんでいる患者を救いたい――。龍角散執行役員開発本部長の福居篤子さんは、製剤のプロフェッショナルとして、薬を飲みやすくするヒット商品の開発を数多く手がけてきた。かつて病院薬剤師として病棟に出向き、日々服薬に苦労する患者を目の当たりにしてきた福居さん。「なぜ製薬会社はこんなに飲みにくい薬を作るんだろう」と疑問に感じ、「だったら私が作る側に行こう」と製薬会社への転職を決心した。研究開発部に所属しながら、幅広い業務を経験。社内では持ち前のパワーで頭角を現す一方、不遇の時代も味わった。それでもあきらめず、製剤を極めようと一念発起して薬学博士号を取得。日本薬剤学会の「旭化成製剤学奨励賞」の受賞をはじめ、誰もが納得する評価を得て今の地位を築いた。そんな福居さんは、薬学生に「自分で人生のレールを狭くしている学生が多いのでは。もっと視野を広く持ち、いろんなことに興味を持って楽しんでほしい」と熱いメッセージを送る。

飲みやすい薬を…臨床経験が原点

 福居さんの原点は病院薬剤師だ。第一薬科大学薬学部を卒業後、福岡徳州会病院に就職。24時間診療をコンセプトにする病院の方針のもと、臨床薬剤師として歩み出した。当時から病院は、医師、看護師、薬剤師のチーム医療を実践しており、24時間診療のため当直も救急現場も経験した。忙しく目まぐるしい毎日だったが、福居さんは「すごく勉強になった」と振り返る。その背中を押してくれたのが当時の薬剤部長。「どんなトラブルがあっても翌日には解決してくれたし、医師に対しておかしいと思うことはきちんと言える人だった。患者さんのためになることは何でもやらせてくれた」

 そんな毎日の業務の中で、病棟に出向くと、患者が服薬に苦しんでいる姿を目撃した。子どもたちは食後の服薬を嫌がり泣き叫んだ。嚥下障害のある高齢者は、食事に薬を混ぜていた。安全に服薬するための方法であったが、本当は食事と服薬は別々にしたい。困っている患者を目の前にしたら、何とかしなければいけないと考えた福居さん。「どうして製薬会社はこんな飲みにくい薬を作っているのか」と疑問に感じ、それならば自分で患者が飲みやすい薬を作ろうと製薬会社に転職することを決意した。病院薬剤師になって3年後のことだった。

 入社したのは、のど薬のメーカーとして伝統のある龍角散。研究開発部門の募集だったが、薬品分析や製剤、生産、企画、薬事と全ての部署を横串にカバーできる人材を求めており、「いろんな仕事ができる」と魅力を感じた。最初に与えられたテーマは徐放性製剤。1日2回の服用で済む一般用鼻炎カプセルの開発だ。当時は1日3回の服用が主流の中、医療用成分を含有させ、新薬並みの吸収、排泄データを揃えることで、眠くなりにくく、口が渇かないことにこだわった結果、無事発売にこぎ着けた。承認申請資料も自分で作成した。

 入社して6年ほど経った頃、営業部門から「OTC薬を買ってすぐ服用したい人のためにパック入りの水を作ってほしい」と要望を受けた。当時はペットボトルのミネラルウォーターは贅沢だと考える人が多かった時代だったが、福居さんは病院薬剤師の経験から「水で薬を飲むと、むせてしまう人が大勢いる」と考え、服薬を補助する“ゼリー”を開発した。

 しかし、そうは簡単にいかなかった。幹部が居並ぶ経営会議で、嚥下補助ゼリーのプレゼンテーションを行ったところ、「水を作ってほしいと言ったのに何を作っているのか」「まずい」と猛反発に遭い、却下された。水では薬を飲めない人が多いこと、ゼリーであれば喉につまらないメリットがあることを主張したが、昔からの役員が居並ぶ経営会議では通じなかった。

 再度、経営会議に提案し、「病院では嚥下障害のある高齢者が食事に薬を混ぜている」などと現場の実情を訴えたが、「冗談じゃない」と却下。それでもあきらめず、また提案した。「そんなに言うならば現場を見に行こう」。視察後、社長が言った。「儲からないかもしれないが、これはのど薬の専門メーカーであるわれわれがやらないといけない」。ようやく開発にゴーサインが出て、1998年に「嚥下補助ゼリー」が商品化された。

 実際にこんなことがあった。医療機関で嚥下補助ゼリーの臨床試験を100例の患者で行ったところ、患者に食欲が戻ってきた。福居さんは、経管チューブを使用している患者がゼリーで薬を飲めるようになった結果、口から水も食事も摂取できようになり、1週間後には座れるまでに回復したケースを目の当たりにした。「口を使うということは大切なことだ。必ず商品にしよう」。その揺るがぬ決意が実った。この努力は、日本薬剤学会の「旭化成製剤学奨励賞」の受賞につながり、その後数々の賞を受賞した。

勉強は楽しい、広い視野持って

 そんな福居さんだが、左遷される不遇の時代もあった。会社を辞めても良かったが、選んだのは「大好きな製剤をもう一度勉強して、薬剤師として製剤を極めたい」と大学院に進学する道。2008年に名城大学で薬学博士を取得した。いまでは海外で仕事をする時の重要な武器になっている。それが福居さんにとって重要な転機となった。

 これまでに仕事で苦労したことを尋ねると、「社内の説得ですね」との答えが返ってきた。病院薬剤師として臨床現場を見てきた経験から、自ら企画した商品を製品化したいとの強い思いが突破力になった。

 08年には、40年以上にわたり販売してきた鎮咳去痰薬「クララ」をブランドチェンジした水なしで服用できる顆粒タイプの「龍角散ダイレクト」、11年には「龍角散ののどすっきり飴」の開発を手がけた。

 福居さんは、「喉は健康の入口だと思っているので、まずは喉を大切にしてもらいたい」と訴える。看板商品の龍角散は、粉薬で飲みにくかったり、独特の味からハードルが高いと感じる消費者も多い。そのため、まず服用しやすいのど飴や龍角散ダイレクトなどの商品を通じて、国民の喉を守っていきたいと考えている。「自分に合った商品を手に取りやすいように、のど飴や龍角散ダイレクトなどの効果的な使い方をわれわれの方から提案して、龍角散を知ってもらいたい」

260年の歴史を持つ龍角散

260年の歴史を持つ龍角散

 260年の歴史を持つ龍角散は、「信頼性の固まり」と福居さん。それだけに、「260年の信頼を裏切らないよう皆さんに安心して使ってもらえるような活動をしていきたい」と今後の目標を語った。

 薬学生に対しては、「薬学部に入った時点で、自分のレールを決めてしまっている学生が多い気がします。最初からレールを決めてしまうと、視野が狭くなって楽しいことも見えてこなくなるので、もっと楽しんでほしいですね」とアドバイス。「薬学部はカリキュラムが詰まっていて、大学で勉強させられていると勘違いしてしまうが、本当は自分のために、自分から勉強させてもらっているから、勉強は義務ではなく、学ぶことであり、楽しい行為だと思います。ちょっとした気の持ちようで勉強も楽しくなるはずなので、もっと視野を広く持ち、薬学しかできないのではなく、薬学ができるから他のこともできるんだと優位な立場にあると思って、いろんなことに興味を持ってほしいです」とメッセージを送る。



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