【摂南大学薬学部】薬剤師向けに災害研修‐様々な事案想定し図上訓練

2018年9月1日 (土)

薬学生新聞

今年1月に行われた京都の中京区薬剤師会での研修の模様

今年1月に行われた京都の中京区薬剤師会での研修の模様

 「(避難所運営本部より提案)避難所内に薬局を設置する場所を考えてください」、「避難者がやってきた。『熱っぽくて身体が痛い』」、「乳児を抱えた母親がやってきた。『周りが気になって授乳できない。どこか個室はありませんか」――。1班5~6人が配置された机上には、これら課題が記されたカードが配布され、その解決策を話し合って導き出す。摂南大学薬学部の教員や学生がファシリテーターとなり、薬剤師が災害時避難所の支援活動に赴いた際に発生する様々な事案を想定して対応を考える机上研修が好評のようだ。昨今、頻発している大規模災害時の薬剤師の活躍を受け、薬学教育にも災害支援のあり方が問われている中で、学部教育から薬剤師向け生涯教育の一環として取り組みを進めている。

 DT-Ph(Disaster Training program for Pharmacist)と呼称するこの研修は、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の支援を受け、「レジリエントな防災・減災機能の強化」の一部として摂南大学理工学部・薬学部が開発したもの。地震後に発生する病院内(避難所)の出来事を記載したカードに対し、対応を考える図上訓練型災害研修プログラムとして、これまで複数の学校薬剤師会や地区薬剤師会、調剤薬局チェーン企業の研修会などに出向いて実施している。

 研修を担当する摂南大学薬学部薬学教育学研究室の安原智久准教授は「災害時の避難所での健康・公衆衛生管理を含む医療・生活支援は、薬剤師が活躍すべき場の一つ。一方、現在実施されている災害研修は、一定の意欲や覚悟を持ち合わせていないと参加しづらくハードルが高い。薬局薬剤師の災害支援活動参加者の増加に結びつくことを目的としてプログラムを作成した」と語る。

 同研究室が提供する「薬局薬剤師対象の災害時避難所支援図上研修プログラム」は2部構成で行う。避難所を具体的にイメージできるよう、第1部では静岡県が開発した避難所運営ゲーム(Hinanzyo Unei Game:HUG)を行い、第2部として大規模災害時における薬局薬剤師の避難所支援を想定した研修プログラム「DT-Ph」を実施するという流れである。

記入が終了した「事案カード」

記入が終了した「事案カード」

 HUGを行う第1部は一般地域住民の立場で避難所運営をシミュレート。第2部のDT-Phでは第1部で運営した避難所に薬局薬剤師として派遣される想定で様々な事案カードに対応を書きこむという流れで訓練が行われる。

 研修で用いる図面は、避難所指定されている近隣小学校の体育館、校舎の図面やグラウンドなど全体図を用意。第1部のHUGでは初動から2日目までの初期対応とし、地震の規模、天候、自薬局の状況、周辺地域の状況、研修参加者の立場など地震発生時の細かな条件を設定。

 第2部のDT-Phの冒頭に、薬剤師が持参する支援物資を自薬局から選ぶプレワークを実施。避難所対応で用いる可能性のある物資を、自ら背負って徒歩で支援に向かえるという観点で、個別にリストを作成。薬局にある20種類以内の物資という制限を設け、避難所で必要とされる物品についての検討を促す。

 次にファシリテーターが避難所で生じる事案を記載したカード(A4サイズ)を各テーブルの参加者に順次配布していく。カードは15種類で、カードを配布した主担当を中心にその対応を各班で相談し、できる限り具体的にカードに記入。事案カードの内容は、東日本大震災を中心とした大規模災害に関する文献や経験者の談話から実例を抽出し、被災地支援経験のある薬剤師も交えて意見交換を行い、決定したものである。

 事案カードには、上部に記載されている事案内容に対し、その対応を下部に記入する欄と人の派遣、避難所運営本部への報告、避難所運営本部以外への報告等の対応を記入する欄を設けている。全てのカードへの記入が終了後に、対応に一番自信のあるカードと難しかったカードを選択。それらカードを選択した理由を各班から発表。最期のフィードバックという流れで研修は行われる。

 DT-Ph修後のアンケート等でも、同研修プログラム自体へは高い評価が得られているという。薬局薬剤師として災害支援に関わることへの意識向上にもつながっているようだ。

薬学生も進行役に

落合さん

落合さん

 これまで、複数回にわたりDT-Phの研修にファシリテーターとして携わってきた薬学部薬学科6年生の落合千波さんは「ファシリテーター自身は研修中の活動には参加せず、あくまで中立的な立場から活動の支援を行うようにしています。議事進行やセッティング以外に、会議中に自分の意見を述べたり自ら意思決定はしません」とその役割を説明。ファシリテーターの立場からも学ぶことは多いという。「薬学生のみで行った研修では、降圧剤や糖尿病薬などカテゴリーの名称しか書き出せなかったのですが、具体的な製品名や必要な錠数も細かく記載するなど、実際に現場を経験している薬剤師の知識はとても勉強になります」と話す。また、参加者からは「常に地震などの災害が起きる可能性を想定して、日常業務に取り組んでおくことが大事との意見もありました」と落合さん。

 摂南大学薬学部では2年次生を対象にHUGを実施し、災害時の避難所の状況を理解し、防災に対する意識を養う教育に取り組んでいる。落合さんは、こうした2年間の防災対する意識の成果を、今年3月の第139回日本薬学会年会の発表し、学生優秀発表賞を受賞している。



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