【ヒト・シゴト・ライフスタイル】新薬を1日でも早く患者へ‐薬事部門で承認取得に奔走 武田薬品 高林靖子さん

2019年1月1日 (火)

薬学生新聞


高林靖子さん

 10年以上もの長い年月を要する新薬の研究開発で、医薬品の承認審査を行う医薬品医療機器総合機構(PMDA)への承認申請業務は、医薬品が承認されるプロセスにおいて、最終工程を預かるとても責任が重い仕事だ。研究者に加え、治験担当医師、治験に参加した被験者と社内外の様々な人たちが関わった開発薬剤の膨大なデータを、一つの申請書類にまとめ、規制当局に提出し、当局の担当者との綿密なコミュニケーションを経て、ようやく新薬として承認される。これら一連の業務を担う製薬会社の薬事部門で活躍を続けるのが、武田薬品日本開発センター薬事部の高林靖子さん。「開発の初期段階から将来を見据え、どうしたら患者さんに早く新薬を届けられるかを考えながら、医薬品の開発に携わり、申請、承認にたどり着いたときの達成感が薬事としてのやりがいです」と仕事のやりがいを語ってくれた。

臨床試験から当局対応まで担当

 高林さんは、薬学専攻の修士課程を修了し、内資系製薬企業の最大手で日本発のグローバルファーマである武田薬品に入社後、臨床開発職として仕事を始めた。大阪で臨床試験のモニタリング業務を3年間経験した後、東京に赴任し、薬事部に配属。今年で入社9年目を迎えている。

 高林さんが担当する薬事業務は、新薬の承認申請や販売している製品の適応追加申請を行うために、臨床試験等で得られたデータを収集し、医薬品規制調和会議(ICH)によって日米欧で様式が定められた申請資料としてまとめ、当局に申請し、様々な規制をクリアした上で承認を取得するまでのプロセスをリードしていく業務だ。「臨床試験で被験者データを取得する開発業務から、承認後の薬価収載、販売業務といったそれぞれのつなぎの部分で幅広く関わる一方で、規制に関する知識や当局の意向を開発業務にフィードバックする立場でもあるので、社内外の様々な業種をつなぐハブとしての役割が求められます」と自身の仕事を説明する。

 高林さんは、医薬品の開発プロセスを幅広くカバーし、臨床試験が始まる初期段階から関与する。当局の意向を把握する立場から、承認後には医薬品の価値に見合った高い薬価が収載されるために必要なデータや、早期承認を実現するために実施できること、しなくてはいけないことなどを助言し、いかに開発期間を短縮できるかを考える。後期段階の臨床試験や申請を行う段階になって、承認取得に必要なデータが欠損しているという事態を回避するために、早い段階から臨床試験のデザインとなる実施計画書(プロトコル)を作成する担当者と綿密に打ち合わせを重ねる。

 臨床試験で得られたデータは、試験を進めるのと同時に、承認申請で提出する書類としてまとめていく。実験動物を用いた非臨床試験まで含めると何千ページに及ぶものまであり、従来は紙の資料で提出していたが、現在は電子データとして当局に申請する。当局の規制に準拠しているか、また審査に耐えうるものかを確認することが、高林さんの担当業務となっている。開発過程で当局に直接確認したい場合は、PMDAの新薬審査部を訪問し、科学的議論を実施する「対面助言」を受ける。

 臨床試験が終わり、いよいよ新薬の承認申請を行うことになる。高林さんは、承認申請後から承認審査が行われる約1年間にわたって、提出した申請書類の内容に関する当局の担当者からの問い合わせに対応しなければならない。薬物動態に関することや、年齢、性別といった患者ごとに層別化したデータなど、質問内容は多岐にわたっている。

 国際共同治験に関する問い合わせには、武田の海外支社に確認しなければならない場合もある。さらに、承認される直前になると、質問をもらってから「2日間で回答してください」と短期間での対応を要求される場合もあり、時間に追われる日々が続く。新薬承認を勝ち取る裏には、高林さんら薬事担当者の努力がある。

薬学の知識が土台に

 開発業務全体に関わることになる薬事担当は、社内外の様々な業種と関わるため、会議や打ち合わせも多い。薬事に関する他社事例を調査して、少しでも早く承認を取得するための斬新な薬事戦略を検討することもある。武田のような世界的企業は国際共同治験も多く、海外の同僚とweb電話等で会議することも少なくない。研究開発に関わる一通りの知識や調査力が要求されるが、「あらゆる部署の中でも、ヒトとのコミュニケーションの多さでは薬事部門がトップクラスにあると思います。早期段階から戦略を考え、自ら医薬品開発の道筋を立てていきたいという方は、薬事に向いているのでは」と高林さん。

 特に薬学の知識は、薬事業務の土台になっているようだ。薬剤師免許を保有し、薬学生として修士課程まで学んできた高林さんは、開発過程で各々の専門家と意見を交わす中、「毒性、薬理、薬物動態、製造、規格試験、製剤設計、病態、薬物治療、法規・制度、倫理など、薬学部で基礎知識を得ていたからこそ、専門外の内容でも早く概要が理解できたり、必要に応じて議論することもできているのだと思います」と利点を強調する。

休日はサッカー観戦でリフレッシュ

横浜Fマリノスの応援で全国を飛び回る

横浜Fマリノスの応援で全国を飛び回る

 日々薬事業務に奔走している高林さんだが、休日の過ごし方もとてもアクティブだ。学生の頃はテニスで全国大会に出たこともあるほどのスポーツウーマンで、社会人になった当初は休日にテニスをやることが多かったが、今はサッカー観戦に熱中しているとのこと。特にサッカーJリーグの横浜Fマリノスの大ファンであり、ほぼ毎試合スタジアムに行き、アウェイの試合を見るために全国を遠征するほどの熱狂ぶりだ。「ファンになった当初は遠巻きに観戦していましたが、今やゴール裏を陣取り、応援歌に合わせて飛び跳ねています」と物腰柔らかな高林さんの雰囲気からは想像もつかない一面をのぞかせた。年末とゴールデンウィークといった長期休暇を利用した海外旅行も欠かせないイベントであり、欧州の有名なクラブチームのスタジアムにも足を運ぶ。

 高林さんは、薬事担当者として糖尿病や循環器領域に携わり、昨年からはアンメットメディカルニーズの高い癌領域にも関わるようになった。

 「私たち薬事担当者の知識で、承認時期を少しでも早めて、1日でも早く患者さんに新薬を届けることに貢献したいと思っています」と、新薬の早期承認を実現するために、今後に向けた力強いメッセージで締めくくってくれた。



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