【これから『薬』の話をしよう】情報内容の偏りが招く社会的影響

2020年1月1日 (水)

薬学生新聞


医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一

青島周一氏

 前回お話したように、HPVワクチンの有効性は明らかです。しかしながら、わが国におけるHPVワクチンの接種状況は、異常とも呼べる事態となっています。世界的に有名な医学誌、ランセットにも「HPV vaccination crisis in Japan」と題された論文(PMID:26122153)が掲載されたように、定期接種に指定されているにもかかわらず、その接種率はたった数パーセントと、先進諸国と比較して極端に低いのです(PMID:25434842)

 接種率が低い原因として、2013年3月にワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛例の報告がなされたこと、同年6月に厚生労働省によって積極的な接種勧奨の一時差し控えが決定されたこと、未だに差し控え状態が継続されていることなどがあげられます。

 HPVワクチンと有害事象については、その後に複数の疫学研究が報告されていますが、明確な関連性は示されていません(PMID:29481964、30879979、31036452、25562266、24108159)。もちろん重篤な副反応が起こらないというわけではありませんが、その頻度としてはかなり低く、健康利益の方が大きいことは明らかです。

 ワクチンの有効性・安全性に関して、世間の認識と臨床研究データが大きく乖離してしまった背景には、マスメディアが発信する情報の偏りがあります。HPVワクチン関連の報道について、日本で流通量の多い日刊紙4紙を対象に、記事内容をテキストマイニングの手法で解析した研究(PMID:31208394)によれば、12年までは子宮頸癌のリスクやワクチンの予防効果に関する内容が頻繁に報じられていました。しかし、13年以降は、ワクチンの悪影響や健康被害の疑い、関連する訴訟などを報じる頻度が増加し、世界保健機関からの安全性に関する声明については、ほとんど言及されていませんでした。

 マスメディアの報道はリスクとベネフィットを公正に報道しているとは言い難く、世の中の関心や注目に応じて偏った報道をしていることは否めないでしょう。マスメディアの報道の仕方、情報の表現手法が、社会全体のHPVワクチンに対する安全性懸念を強めたことは否定し難い事実です。偏った情報のみで国民が意思決定することのないよう、ワクチンのリスクとベネフィットについて、医療者や厚生労働省が、質の高い臨床研究データに基づき周知していくことが大切かもしれません。



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