【日本薬学生連盟】薬系技官の職務とは‐厚労省・安川薬事企画官に聞く

2021年3月1日 (月)

薬学生新聞


安川さん(右上)に、山沢(左上)、小林(左下)らがテレビ会議システムで話を聞いた

安川さん(右上)に、山沢(左上)、小林(左下)らがテレビ会議システムで話を聞いた

 “薬系技官“という職業を耳にしたことはあるでしょうか。国家公務員として厚生労働省で薬剤師に関係する制度作りなどを担当されている方々のことです。今回は、薬系技官の1人である厚労省医薬・生活衛生局薬事企画官の安川孝志さんにお願いし、日本薬学生連盟広報部の山沢智(日本薬科大学)、小林幸恵(東邦大学薬学部)らが聞き手となって、謎に包まれたお仕事の内容や、今後の薬剤師を取り巻く環境の変化などについて教えていただきました。

薬剤師に関する制度を整備‐現場を視察し検討重ねる

 ――薬事企画官としての職務を教えてください。

 薬事企画官とは薬系技官が配属される役職の一つです。国家公務員である私たちは、世の中のルールを作っていくことが仕事であり、その中でも、厚労省の薬系技官は薬剤師に関係するルールを作っています。例えば、薬学教育や薬剤師国家試験の問題、薬剤師のあり方、医薬品の認可、研究開発などに関する制度を作ることが仕事になります。

 薬事企画官は、厚労省の医薬・生活衛生局総務課に所属しています。医薬・生活衛生局総務課は、薬剤師のあり方や薬局・医薬品販売業関係の政策、例えば地域医療への関わり方、セルフメディケーション、医薬品の販売制度などについて考えている部署であり、薬剤師の職務に関する全般を取り持っています。

 政策立案から実施までのプロセスに関わるため、現場を知る目的で視察も行います。現場の声を持ち帰ってルールの改正や作成を議論し、検討を重ねています。これからの薬剤師の道筋を作っていくため、責任を持って職務を行っています。

 ――様々な現場を見に行くことができるのは魅力的ですね。

 そうですね、最先端のものを見に行ける楽しさや喜びはあります。日本だけではなく、世界中の専門家や第一人者の方々に話を聞きに行けるのは、まさに国家公務員の特権であると思います。多様な分野を知りたいという人にとって、厚労省で働くことは非常に面白いと思いますし、やりがいは非常に大きいです。

 ――国家公務員を目指したきっかけや就職の決め手は何だったのでしょうか。

 私は1997年に京都大学薬学部を卒業し、同年4月に厚生省(現在の厚労省)に入省しました。当時、私の周りにいた多くの薬学生にとって、大学院に進み研究をすることは当たり前でしたが、私は研究の道には行きませんでした。研究自体は好きでしたが、一つのことをやり続けるのは向いていないと気付き、研究を仕事にしている人には敵わないと思ったからです。薬剤師として業務をするか、薬剤師のルール作りを行う厚生省に就職するか、二つの道を考えていました。

 最終的に、薬剤師として現場で業務をすることも大事ですが、その人たちのために何かできる仕事をしてみたいという思いがあり、厚生省へ就職しました。

 国家公務員は2年に1回のペースで異動があり仕事内容が変わります。私も就職して24年目ですが、13カ所目の部署です。薬の審査や安全対策、食品安全など様々な部署で仕事をしましたが、医療や薬剤師に関することに興味があって就職したので、現在の部署の仕事にはやりがいを感じています。

薬局に行くメリット問われる‐電子化に対応し職能発揮を

 ――薬局や薬剤師に関する制度作りを担当している安川さんから見て、薬局や薬剤師は今後どのように変化していくと思われますか。

 医薬分業が進み始めた平成の初めの頃、薬局は院外処方箋の受け皿として、処方箋をどう受け取り、調剤して薬を渡すかということが一番大事でした。医薬分業の進展とともに薬局の数は増えていきました。一方で、医薬分業が進み、外来患者の7割以上が院外処方箋を受け取る状況になってきて、今度は、薬局に行くメリットは何だろうかということが問われ始めています。

 薬局は、単に薬をもらって終わりというイメージが強く、薬剤師とは何をしてくれる人なのかが、利用者目線からするとピンと来ていないと思います。

 在宅医療や介護の現場でも薬剤師が必要となる場面は多いはずですが、医療や介護の関係者にも、まだその存在意義を十分知られてはいません。例えば、高齢者が薬をいっぱい飲んでいて大変そうでも、その方の介護に関わる介護関係者が薬剤師に相談しようという発想にはならないことが多いでしょう。薬剤師には何ができるのかをアピールして役割を知ってもらい、何かあった時に、薬剤師に相談しようという気持ちになってもらえることが大事です。

 新しい技術をどのように導入するのか、デジタル化や人工知能の活用も考えなければなりません。今の薬剤師の業務は、基本的には来局した患者とやりとりすることが中心ですが、オンラインで服薬指導するなど画面越しでの対応に関するルールの作成も行われています。今後こういったことが活用されていくと思います。

 また、今後はマイナンバーカードが保険証として使えるようになります。保険証の情報がマイナンバーカードに紐付けられて、カードによる照会ができることで、医療従事者にとっては、病院や薬局での受付業務が楽になったり、その患者の薬やカルテなどの過去の履歴が分かるようになったりします。そうなると、マイナンバーカードがあれば、どの薬局、どの薬剤師でも、その患者さんがこれまでにどんな薬を服用しているかという服薬情報の一元的な把握が可能になります。

 ――かかりつけ薬剤師は必要ではなくなるということですか。

 いえ、かかりつけ薬剤師はその情報をどう活用するかという存在になるわけです。服薬情報の一元的な把握は誰でもできてしまうわけですから、それを前提として患者にどう指導するかを、今まで以上に考えなければならない時代になります。

 マイナンバーカードの保険証としての利用は今年3月から始まり、今年10月には薬の情報がオンライン上で閲覧可能になります。ここで利用するのは、医療機関が保険者に請求するレセプト情報であり、最も新しい情報でも1~2カ月前に処方されたデータとなるため、タイムラグが生じます。来年夏を目標に電子処方箋が導入される見込みですが、そうすれば薬の処方情報は電子的に送受信されるため、医療機関や薬局はマイナンバーカードを活用した過去の情報に加え、リアルタイムで最新の薬剤情報を共有できるようになるでしょう。このほか、薬の重複も自動的に調べられるようになる見通しです。

 薬剤情報は自動的に一元化され、重複投与も自動的にチェックされるようになった時に、かかりつけ薬剤師として何ができるのかが問われます。世の中はどんどん進歩し、機械ができることは機械に置き換わっていきます。薬剤師は、機械に置き換わる存在となるのか、それを活用する存在となるのかを考えていくべきです。

 もっとも、薬剤情報を自動的に把握できるようになったとしても、他に服用しているOTCや健康食品の情報、副作用の確認など様々な情報を引き出すことに関しては、薬剤師の必要性は変わりません。

 こうした変化は瞬時に起こるわけではありませんが、自分には何ができるのかを意識し続けることが重要です。安心と信頼の観点から、人と人とのやりとりは残るでしょう。薬剤師として、患者さんや住民に対してどう手を差しのべることができるのか、相手の気持ちになって考えることが大事です。

対人業務の推進に取り組む

 ――患者や他職種への薬剤師職能のアピールについて、厚労省として何か取り組んでいることはあるのでしょうか。

 取り組みの一つとして、「患者のための薬局ビジョン」を作成しています。調剤だけをするのではなく患者のための業務(対人業務)を行うことや在宅医療に関わっていくこと、かかりつけ薬剤師・薬局を推進していくことなど、今後の方向性を示しています。取り組みを促すために、例えば、患者のための業務として多い薬を減らしたり、在宅医療に関わったりしたときに調剤報酬に点数をつけて評価することもあります。

 行政側からも常に、薬剤師の役割を他の医療関係者に周知しています。このような周知は、国だけではなく、都道府県などの自治体単位、薬剤師会や薬局、薬剤師個人でも働きかけて総力戦で取り組むことが大切です。

 ただ待っているだけでは誰も声をかけてくれません。それぞれの薬剤師が積極的にアピールして地域医療に参加し、そこで実績を作ることでどんどん声がかかるようになります。この薬局、この薬剤師であればやってくれると思われるように、患者さんや他の関係者と信頼関係を築くことが大切です。

 私たちも、薬剤師の方向性を示すビジョンの作成や、法律改正などの制度づくりによって、具体的な取り組みを進めていきたいです。

他学部生との交流は重要‐実務実習で緊張感に触れて

 ――チーム医療での連携に関して、薬学生のうちから、薬学生が何を勉強しているのかということを医学生や看護学生と共有することは大事だと思いますか。

 そういう取り組みはものすごく重要です。学生のうちに、他の医療関係職種の学生と何かしら一緒に活動する、一緒に授業を受けるということは、絶対に必要なことだと思います。薬学教育を薬学部のみ、薬科大学のみで行うのはすごく視野が狭くなると思います。最近では、医学生、看護学生と同じ授業を受けるところもあるようですが、薬学生からは、目から鱗で、自分たちの知らないことが多くてびっくりするという話も聞きます。

 薬学教育が6年制になって十数年経ちますが、薬剤師に求められる役割は、この間に凄まじく変化しています。チーム医療の一員としてどんどん病棟に出て行こう、在宅医療や介護と連携しようという動きは、この十数年で出てきた話なんです。そういった意味からも、他職種の人たちがどのように患者のことを考えているのか、薬剤師をどう見ているのかを学生のうちから学ぶのは非常に大事なことです。それは、最終的に免許を取った後の活躍にもつながると思います。

 ――薬学生が社会に出て現場の薬剤師となるまでに、身につけておくべきことや考えておいた方が良いことを教えてください。

 授業や実習で学んだことを身につけるのは大事ですが、学生のうちに、学生にしかできないことをするのが一番だと思います。勉強ばかりではつまらないですし、他大学の学生や他の医療系学部の学生と交流することが大事です。これまでの話の中で、薬剤師として職能をアピールすることや、様々なところに出向くことが必要だと言いましたが、そういったことに学生のうちから関わるのはすごく良いことです。

 ただ、今はいろいろな活動をしたくても、新型コロナウイルス感染症の影響で制限を受けるため、大変だと思います。一方、この時期だからこそ体験できることもあるでしょう。オンラインの活用が進んだことなど新しい変化に薬剤師としてどう対応するかを考える良い機会になります。

 実務実習の実施にも影響が出ていますが、逆に言えば、今その最前線で頑張っている医療従事者を見ることができます。実習で直接患者に関わることができなくても、この緊張感や薬剤師の意識など、何かしら学ぶことはあるはずです。プラスに捉えて、今だからこそ経験できることをキャッチしてほしいです。

 あとは、学生はいかに遊ぶかだと思います。こんなに自由な時間はないですから。社会人になったときに後悔しないように学生のうちにできることをしてください。



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