【ヒト・シゴト・ライフスタイル】薬局を舞台に描く人間ドラマ‐薬剤師経験生かした漫画が人気 漫画家 三浦えりかさん

2021年5月1日 (土)

薬学生新聞


三浦えりかさん

 処方箋を持ってきた患者の何気ない発言や表情から病状を察知し、時には破天荒な手段を使ってでも患者の命を救う。口は悪いが頭はキレる主人公のイケメン薬局長と天然ボケの新人薬剤師の凸凹コンビが様々な難題を解決していく「月刊!スピリッツ」(小学館)で連載中の漫画「処方箋上のアリア」の作者は、漫画家になる前は薬剤師として勤務していた三浦えりかさんだ。今年2月に念願の単行本1巻が発売され、4月号では表紙巻頭カラーを飾った。「薬剤師が何を知っているのかを描くことに重点を置いている。他職種にも私たちのことを知ってもらい、薬剤師にできることが増えればいいなと思う」と語る。

過剰摂取など身近な話題扱う‐患者の内面、リアルに描写

 とあるバーカウンターの男女。男性が女性に「ここのチャイナブルー美味しいんだってさ」とお酒を勧め、女性がグラスを持とうとしたそのとき、1人の青年が話しかける。「デートレイプドラッグによく使われるフルニトラゼパムの錠剤は、水に入れると青くなるんだよなぁ」

 男が否定すると、「じゃあアンタが飲んでみるか?」と詰め寄り、男の顔にチャイナブルーを浴びせる。激情した男が「何なんだよ、お前」と叫ぶと、青年は振り向きざまに言い放つ。

 「俺?ただの薬剤師だよ」

「処方箋上のアリア」の表紙(ビッグコミックスピリッツ編集部提供)

「処方箋上のアリア」の表紙(ビッグコミックスピリッツ編集部提供)

 主人公が初めて登場するシーン。正義のヒーローだ。処方箋上のアリアでは、1巻冒頭から話がスリリングに展開する。

 「今何が問題になっているのかを漫画に落とし込みたくて、勉強は絶えずしている。ニュースやメルマガなど、特にお薬に関する話題は敏感にチェックし、それが趣味みたいになっている」と三浦さんは語る。

 漫画の舞台は、主人公と新人薬剤師が勤務する「亜理亜薬局」。カフェイン中毒やかぜ薬の過剰服用、認知症など、処方箋を持ってくる様々な患者の悩みに薬剤師が向き合う。カフェイン中毒のエピソードは、若者を中心にカフェイン錠剤の過剰摂取による死亡事例が相次いでいるというニュースから着想を得て、ストーリーを組み立てた。

 薬学とは無縁の読者も自然とキャラクターに感情移入し、スト-リーに入り込める。新人薬剤師の目線で薬局の業務内容を分かりやすく説明しており、薬剤師が身近に感じられるのは、実際に薬剤師として働いていた三浦さんだからこそ成せる技だ。

「処方箋上のアリア」の一場面(ビッグコミックスピリッツ編集部提供)

「処方箋上のアリア」の一場面(ビッグコミックスピリッツ編集部提供)
※画像クリックで拡大表示

 「読者の身にも現実に起きそうな話題や、自分にも関係するのではないかと思うことを選んでテーマにしている。医療をもっと身近なものに感じてもらいたい」と語る。

 薬剤師時代に三浦さんは、医療は敷居が高いものだと患者が考えていることに違和感を抱いていた。患者が医療を「自分には難しくてわからないもの」と捉えてしまうため、治療や診断に疑問を持っても、「プロである医師が言っているのだからそういうものだ」と疑問を放棄してしまう光景を目の当たりにした。

 「疑問を持つその感覚こそが大事。医療は、患者がおかしいと思うのであれば、実際におかしいこともある。そんな身近な存在だということを伝えたい」

 8年間の病院薬剤師の経験も漫画に反映されている。多職種と連携して働いたり、患者やその家族と向き合ったりするなど、病院は「今この人が何を考えているのか」を常に意識することが求められる職場だった。病棟に足繁く通い、がんばって処方薬について患者に説明しても、まったく伝わらないこともあったが、それでも患者が求めていることを精一杯探ろうとした。

 「どうやったら患者に伝わるのかを考え、人の気持ちの奥深くまで読み取ろうとしていた。処方箋上のアリアでも、患者の気持ちを描写している。私が苦悩したこと、薬剤師を通じて得られた経験が漫画の中で描かれていると思う」

 漫画では、患者の心の内だけでなく、支える家族の愛情、憎しみまでも生々しく描写され、薬剤師がそこに深く関わることで、ただ薬剤師が登場するだけはない、心をえぐられる人間ドラマが展開されている。三浦さんの薬剤師としての経験が、無意識にも作品に反映されているようだ。

病院薬剤師と並行し作品投稿‐編集者の提案受けヒット作生む

 三浦さんが漫画家を本格的に志すようになったのは、病院薬剤師として働き始めて3年目の頃だ。

 外で遊ぶよりも家で漫画やアニメに夢中になっていた子供時代、漫画家への憧れはあったが、どこか雲の上の存在でもあった。小さい頃から身体が弱く、より現実的な職業として医療に関係する仕事がしたいと考えて薬学部に進学。卒業後、宮城県内の総合病院で薬剤師として勤務していたが、体調を崩して仕事を長期間休むことになり、この期間中、「もの凄く人生について考えた」。そこで漫画家が、「ただの憧れ」から「挑戦してみたい」に変わった。

 漫画や絵は、小さい頃から遊びの延長で描いていた。小学生のときには、ゲームを題材にした四コマ漫画をゲーム会社に投稿していた。三浦さんは、その経験を思い出しながら、病院薬剤師の業務と並行して原稿用紙に少女漫画を描き、出版社への投稿を繰り返した。

 努力が実り、小学館の少女漫画誌「ベツコミ」2014年1月号に「夢見るリトルライター」が掲載され、漫画家デビューを果たした。

 その後の数年間は、読み切りの少女漫画を複数創作。8年間勤めた病院を退職した後、拠点を東京に移し、薬局薬剤師として働きながら漫画の創作を続けた。恋愛がメインの少女漫画だけでなく、青年漫画にも挑戦したいと思うようになり、編集者から薬剤師をテーマにしたら面白そうと提案を受けた。

 「私にとって薬剤師の業務は日常であり、呼吸をするようなものだったので、本当に面白いのか疑問だった」と振り返る三浦さんだが、提案を受け入れ、薬剤師が主人公の処方箋上のアリアを創作。結果的にはこれがヒットした。

まずは仕事に飛び込んで

 三浦さんは現在、漫画家一本で活動している。漫画は自宅の部屋で全て1人で創作し、アシスタントは雇っていない。部屋には、ストーリーを考える上で参考にする資料が山積みになっているという。

 今後のビジョンについては、「目の前の作品に一所懸命になっていて、あまり先のことは考えていない。薬のこともそうでないことも、描きたいことはたくさんある。その時に必要とされるものを描いていきたい」と三浦さん。

 薬学生に向けては、「一度決めた仕事を一生やらなければいけない必要はどこにもない。まずは自分ができそうだと思った職業に飛び込んでみてはどうか。そこで面白さを見出したり、あるいはほかに面白いことが見つかったりするかもしれない。本当は違うことがやりたかったのに薬局に勤務することになったとしても、薬局での経験があるからこそ、その後にできることが広がる。可能性は無限にある」と呼びかける。

 三浦さんこそ、“面白い薬剤師”の最先端だろう。漫画家としてのこれからの可能性も無限大だ。



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