医療法人徳仁会中野病院薬局
青島 周一
2018年9月発行の薬学生新聞で、腰痛に対するプラセボの有効性を検証したランダム化比較試験(PMID:27755279)をご紹介しました。ポルトガルで行われたこの研究は、16年に国際疼痛学会誌に掲載されたもので、持続的な腰痛を患う97人が対象となっています。被験者は通常ケアのみを行う群、もしくは通常ケアに加えてプラセボを投与する群にランダムに割り付けられ、腰痛症状が比較されました。なお、この研究では被験者に対してプラセボを用いることが事前に開示されており、プラセボやプラセボ効果に関する説明まで行われています。
解析の結果、通常ケアのみを行った群と比べて、通常ケアに加えてプラセボを投与した群で、統計学的にも有意に腰痛症状の改善を認めました。なんと、プラセボだと分かってプラセボを服用しても腰痛が軽減したという驚きの結果です。
20年に同様のランダム化比較試験(PMID:33425079)が報告されました。日本で行われたこの研究では、腰痛を患う52人が対象となっています。ポルトガルの研究と同様、被験者は通常ケアのみを行う群、もしくは通常ケアに加えてプラセボを投与する群にランダムに割り付けられ、腰痛症状が比較されました。その結果、腰痛症状に統計学的に有意な差を認めませんでした。
二つの研究間で結果が一貫しない原因は何でしょうか。20年の論文で著者らは、プラセボ効果の度合いや、疼痛に対する感受性が人種によって異なる可能性を挙げています。ただ、それだけが原因の全てではないように思います。
ポルトガルの研究では、雑誌やフェイスブックなど様々なメディアから「慢性腰痛に対する新しい心身医学的な臨床研究」というコピーで被験者が募集されています。一方、日本の研究では被験者の募集に関する詳しい情報は論文に記載されていませんでした。
研究参加者が抱く治療への期待は、被験者の募集方法や研究開始前の説明内容によって異なるはずです。ポルトガルの研究に比べて日本の研究では、プラセボ治療に対する期待感が低かったのかもしれません。そういう意味では、治療に対する期待感の高さは、プラセボ効果をより強く引き出すための重要な要素といえるでしょう。