【ヒト・シゴト・ライフスタイル】ハーブで体の悩みに寄り添う‐フランス流の薬店を開業 ドラッグストアフィトリート 梅屋香織さん

2022年3月1日 (火)

薬学生新聞

梅屋香織さん

 頭痛や更年期障害など体調の悩みを聞き取り、一人ひとりに適したハーブや漢方等を販売する薬店「ドラッグストアフィトリート」を今年1月に東京・神宮前にオープンしたのは、薬剤師の梅屋香織さんだ。植物療法の本場フランスで、薬草を販売して街の健康相談所として機能する「エルボリストリ」で培った知識と経験を生かし、気軽にハーブに触れて健康相談できる場を日本にも作る目標を掲げている。

 若者で賑わう原宿の竹下通りから少し離れたショップ街のビル1階に入居する同店は、ハーブ、漢方、精油、植物オイル、芳香蒸留水など植物由来の商品を取り揃えている。

 ハーブはカモミール、レモンバーベナ、メリッサなど、梅屋さんがフランス在住時代に気に入ったものを中心に計80種類を取り扱い、フランスや日本の薬用植物専門の卸業者から購入している。

 現在は梅屋さんとスタッフ1人が勤務し、来店客に気さくに話しかけている。会話を通じて体調に問題はないか、悩みを抱えていないかを観察した上で、一人ひとりに適したハーブを量り売りやブレンドで販売する。店内には、ルイボスティーやたんぽぽコーヒー、生薬も置く。

気軽に健康相談できる場所が目標

気軽に健康相談できる場所が目標

 梅屋さんは、ハーブや漢方などを若年層にも身近に感じてもらいたいとの思いや、全国からのアクセスの良さを考慮して神宮前に同店を構えた。木目調のカウンター、ハーブの入った木箱など、店内には訪れた人が温もりや居心地の良さを感じられる工夫を施した。

 1月26日の開店後、一日当たり10~20人ほどが訪れ、1週間で130人超が来店した。フランス勤務時代からの客も来店し、高齢者から若年層、性別の偏りなく集まった。梅屋さんは、「国内ではハーブは女性のものというイメージが強いが、フランスでは全く異なる。エルボリストリのように、この店もジェンダーニュートラルな場所にしたい」とイメージする。

 ストレスによる不眠や、更年期障害など悩みを抱える女性の相談にも応じる。「外見では分かりにくいが、持病を抱えている人は多い。病院でカバーできない悩みを相談でき、頼れる場所にしてもらえれば」。医療機関を受診することに気後れする人が気軽に立ち寄れる場を目指している。

渡仏し留学、店舗勤務も経験‐地域住民の健康相談に応対

 2005年に新潟薬科大学を卒業後、調剤薬局で約10年間勤務していた梅屋さん。薬局薬剤師として地域患者の相談を受ける仕事にやりがいを感じると同時に、患者が病気になる前から薬剤師としてかかわるために何をすべきかを考えるようになった。

 そんな時にアロマテラピーに興味を持ち、薬剤師業務と並行してアロマテラピーの勉強を始めた。ハーブにも関心が向いた。これらのルーツがフランスにあると知り、いつしか「フランスで植物療法を学びたい」との強い思いが芽生えた。アロマテラピーやハーブについて学んだ知識を生かす活動の場が日本には少なく、調剤薬局を退職してフランスに留学することを決心した。

 渡仏後に大学で植物療法を学んだ。薬草を用いた民間療法が根づいたフランスで、体調不良を感じたら気軽に相談に訪れることができるエルボリストリで働くことを志願した。

相談を受けて最適なハーブを選択する

相談を受けて最適なハーブを選択する

 パリのエルボリストリに履歴書や志望動機などの書類を送ったところ、日本での薬剤師としての経験や知識などが評価されて採用が決定。現在はエルボリストリを新設することは認められておらず、扱えるハーブの種類も減少傾向にあるというが、創業から100年を超える同店では約400種類ものハーブを提供していた。ハーブを学ぶには絶好の場所で、様々な知識を吸収することができた。

 街の健康相談所として地域住民から親しまれ、梅屋さんは1日60人以上におよぶ来店客との会話を通じて健康状態を把握し、症状に適したハーブなどを販売していた。不眠、胃腸の不調、頭痛、更年期障害や生理などに関する悩みが多かったという。

 渡仏前からある程度はフランス語を学んでいたが、就職後1日目から相談に対応することとなった。梅屋さんは、「手助けしてくれたお客様もいれば、差別に直面したこともあった。他の店員からも頼りにされていたが、薬剤師の経験があったから異国でも働けたのだと思う」と振り返る。

 エルボリストリでの仕事と並行し、個人で薬草や精油に関する有料講座も毎月開き、症状に対するケアをレクチャーするなど様々な経験を積んだ。梅屋さんの仕事は在留邦人や旅行で訪れる日本人からも高く評価されており、「SNSによる情報拡散力のあるお客様が多いのがありがたい。パリがくれた縁だと思う」と実感する。

植物療法への関心、小さくない

 20年1月には子供が誕生するなどパリでの充実した日々を送っていたが、新型コロナウイルスの感染拡大に直面した。フランスでは、生活必需品などの買い物以外の外出が制限されるなど国民に対する政府の規制は厳しく、マスクを着ける習慣がないため、マスクを入手するのも一苦労だったという。

 コロナ禍以前はフランスに永住する考えでいた梅屋さんだったが、感染への不安や出産を機に働き方を変えてみたいとの思いもあった。子育てや生活のしやすさなどを考えた結果、日本への帰国を決断。日本に滞在経験があるフランス人の夫も家族揃って帰国することに賛同した。

フランス由来のハーブや漢方などを取り揃える

フランス由来のハーブや漢方などを取り揃える

 「帰国してからどう生きていくかを考え、フランスでの生活で取り入れていたものを持ち帰るには、自分で店を立ち上げるのがベストだと思った」。帰国後の21年1月、開店準備に向けて会社を設立した。日本にエルボリストリのような場所を作るという目標だ。

 専門家に相談して資金計画を立て準備に苦労したが、1年間かけて開店にこぎ着けた。今後は、SNSによるPRの強化、予約制のコンサルテーションなどを展開したい考えだ。

 薬剤師や薬学生が見学に訪れ、植物療法に対する関心は小さくないと実感する梅屋さん。子育てと仕事の両立に難しさを感じるものの、現在の働き方を薬剤師の一つのスタイルとして確立したいという目標を持つ。

 フランスで学んだことを日本にも広げる。「薬剤師としての経験と知識というベースがなければ、店を開くという発想もなかった」と梅屋さん。「色々なものに興味を持って挑戦してほしい。その経験がいつどう生きるか分からない」とエールを送る。



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