学校法人医学アカデミー薬学ゼミナール学長
木暮 喜久子
2022年2月19、20日に実施された第107回薬剤師国家試験(国試)は、昨年に引き続きコロナ禍での国試になりました。多くの受験生が制約を受けながらの実務実習やオンラインでの講義受講など、今までと違う学修環境で、不安を感じながら挑んだ国試ではなかったでしょうか。この環境下で学生生活を送られ薬剤師となった方々が、医療人として素晴らしい活躍をしてくださると確信しています。この感染症の終息はまだ見えていません。第108回国試を受験される皆さんは、この状況を踏まえた国試対策を進めてください。
第107回国試の難易度は106回とほぼ同程度でしたが、臨床的な視点に立った問題が多く、遺伝子治療などの新項目が出題され、すべての科目で医療や臨床に関連した問題が増加しました。13年度に改訂された「薬学教育モデル・コアカリキュラム(現コアカリ)」を反映した薬理と病態・薬物治療、薬物治療と実務を絡めた問題は第106回より増加し、科目の枠にとらわれない複合的な知識が必要でした。実務実習で体験してほしい「代表的な8疾患」では、継続して出題の多い癌や感染症以外に、循環器系疾患(心疾患と高血圧)の出題も増えています。
現在、医学・歯学・薬学教育の3領域で一部共通した新たなコアカリの改訂作業が、22年度末の策定を目指して進んでいます。第107回国試の臨床を意識した流れは、この改訂を背景にしていると考えられ、第108回もこの傾向は変わらないと思われます。
第107回国試の結果
総合格率68.02%は第106回(68.66%)より若干低下し、近年で最も低い結果でした(表1)。6年制新卒の合格率は、85.24%(合格者数7386人)で第106回(85.55%)、第105回(84.78%)とほぼ同程度、6年制既卒の合格率は40.75%(合格者数2126人)で、第105回(42.67%)、第106回(41.29%)とここ数年で最も低い結果でした。
新卒の合格率は既卒より高いことから、第108回国試を受験される6年生の皆さんは、新卒での合格を目指してなるべく早く国試対策をスタートさせてください。国試合格には各科目の知識をつなげた学修が必須で、科目リンクができる参考書の活用が重要です。受験生の約95%が使用している薬剤師国家試験対策参考書「青本」(https://www.yakuzemi.ac.jp/reference)は薬理と病態・薬物治療を複合的に学べる本としてリニューアルし、多科目にリンクしやすくなっています。
表2に示すように、国試は345問で出題されます。合格基準には、必須問題での足切り(全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上)や禁忌肢を考慮し、平均点と標準偏差を用いた相対基準が用いられています。
第107回の合格ラインは、全問題の得点が62.90%(345点換算で217点)で、ここ3年の国試(344点換算で第106回215点、345点換算で第105回213点)では若干高くとなりました。また、禁忌肢選択数は「2問以下」でしたが、薬ゼミの分析によると第107回の合格者数に禁忌肢による大きな影響はなかったと思われます。また、必須問題での足切りも影響は少なかったと思われます。
薬ゼミ自己採点システムによる分析
薬ゼミの自己採点システムは、第107回国試受験者総数が1万4124人の中、1万2580人に登録していただいています。「基礎力」に加え「多科目の知識を活用する力」等を必要とする難易度の高い問題が増加していましたが、同システムの分析から、正答率が60%を超える問題数が、第105回は228問、第106回は225問と減少傾向にありましたが、107回では229問と微増したので、しっかりと得点できる問題を押さえることが大切です。
薬ゼミ自己採点システムによる第107回の平均点は、第106回に比べて合計はほぼ同じ、必須問題は第106回より低下、理論問題と実践問題は第106回よりわずかに増加しています(表3)
第107回の領域別正答率では、例年難易度の高い理論問題の「物理・化学・生物」、「薬剤」の正答率が継続して低く、実践問題では、第106回同様「物理・化学」、「薬剤」の正答率が低く、第107回では「病態・薬物治療」も低い正答率でした(表4)
第108回国試に向けた概略と対策
第108回の合格を目指すためには、まず薬剤師国家試験の概要を知ること、次に最近の国家試験問題の傾向を掴むことが大切です。
「必須問題」は、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確認する問題であり、共用試験のうちCBT試験と同様の五肢択一の問題です。一般問題に比べて比較的正答率が高い問題が多く得点源となります。80~90%の得点率を目指して勉強してください。ここ数年、必須問題の中では他科目と比較して低い傾向が続いていた「物理」の正答率は高くなり、「生物」「病態・薬物治療」の正答率が60%台と低くなりました。ただし、生物は「物理・化学・生物」として区分されるため、足きりに該当する受験者は少ないと予想されます。
「理論問題」は、6年間で学んだ薬学理論に基づいた内容の問題であり、難易度は必須問題より高く、第107回も難易度の高い問題が多く出題されていました。また、「化学」「法規・制度・倫理」「衛生」の3連問が出題され、法規・制度・倫理が理論問題の連問に出題されたのは初めてでした。「薬理」と「病態・薬物治療」の連問も3題出題され、現コアカリを意識した出題となりました。この傾向は第108回以降でも変わらず続くことが予想されます。各科目で学修した知識を医療につなげ総合的な能力を発揮できることが期待されています。
「実践問題」は、「実務」のみの単問と「実務」とそれ以外の科目とを関連させた連問形式の「複合問題」からなっています。「複合問題(基本は2連問)」は、症例や事例、処方箋を挙げて臨床の現場で薬剤師が直面する問題を解釈・解決するための資質を問う問題で、実践力・総合力を確認する出題です。複合問題でも、多科目をつなげる連問が出題されており、物理、化学、実務(2題)の4連問では、光線過敏症について原因薬物を服用薬の中から推測させる基礎科目を臨床につなげる内容でした。また、薬剤、薬理、実務(2題)の4連問では、MRSA感染症についてバンコマイシン投与開始後の治療経過を踏まえた主治医への対応など実践的な内容が出題されました。第108回に向けて、実務実習を思い出しながら、基礎も含めた各科目の知識を医療につなげる学修を行いましょう。
第107回国試は24年度入学者から適応される新たな「コアカリ」を見据えた複数科目の連問、多科目の知識で解答する問題など「複合的な力」を必要とする問題が増加し、コロナ禍の臨床現場で話題となったパルスオキシメーターなどの医療機器、アメナメビルや緊急避妊薬などの医薬品も出題されていました。一般用医薬品との相互作用を問う内容も多く出題され、調剤薬局での即戦力を発揮することが求められている内容でした。次回国試でもこの傾向は続くでしょう。
科目別の国試対策
「物理」では、既出問題のキーワードを暗記するだけでなく、キーワードの意味を理解し、出題内容に対して応用できるようにする必要があります。そのためには、既出問題の周辺知識も学修し、専門用語を理解しましょう。また、臨床現場で使用する製剤の物理的な要因、臨床検査の分析技術の原理などを理解し、実践問題につなげましょう。
「化学」では、問題の解き方を覚えるのではなく、自身の知識を活用できるように既出問題の理解に努めることが重要です。骨格・命名法、立体化学、無機化学、生薬などの構造を含めた理解で習得した知識をベースに、医薬品の構造からその性質を考えたり、相互作用を考えたりできるようにしましょう。
「生物」では、実験考察問題、図表、構造などを用いた問題が多く出題され、考える力を必要とする問題の出題も多いです。模擬試験などを活用して、より多くの例題に取り組み思考力を養いましょう。
「衛生」では、コロナ感染症を意識したと思われる検疫の問題など時事問題が出題されやすい科目です。国試に向けて学修している間もニュースや新聞で情報を入手し、話題になった用語については意味を確認し、視野を広げておきましょう。
「薬理」では、特に実務実習で目にした臨床で重要な薬物を中心に作用機序や副作用をしっかり学修し、実践問題にもつなげられるようにしましょう。個々の患者に適切な薬物治療を提案し、生じた副作用の原因が推測できるように、薬理の知識を薬物治療や実務とリンクさせることが必要になります。
「薬剤」の薬物動態学と物理薬剤学の範囲は既出問題の知識を中心とした出題ですが、グラフ・図・計算が多数出題され、キーワードの暗記ではなく、理解が求められる内容になっています。製剤の範囲は新傾向が多く、臨床で用いられている製剤についての認識が必要になります。実務実習で触れた新しい使い方の製剤について、確認するようにしましょう。
「病態・薬物治療」では、既出の一般的な疾患からの出題が多く、代表的8疾患からの出題も目立ちました。実践問題全体としては、癌、感染症、循環器系疾患の出題が多いため、これらの疾患から学修を進めましょう。検査値から患者の状況を把握して治療法を選択する臨床的な問題が出題されています。また、情報・検定については、既出問題の理解から学修をはじめましょう。
「法規・制度・倫理」では、薬剤師としての業務を遂行するために必要な法的知識や臨床現場での行動等の適正性を問う内容が出題されています。また、地域包括ケアシステム、後発医薬品の使用促進、ポリファーマシー対策など薬剤師が関わる国の施策についても出題が予想されますので、薬剤師を取り巻く環境の変化にも敏感になっておきましょう。
「実務」では、衛生、薬剤、病態・薬物治療、法規・制度・倫理等、多科目で学ぶ範囲の出題や、医師に治療薬や治療法を提案する内容も出題されていますので、苦手科目を作らずに症状、検査値、処方薬等の患者情報から適した医療を導き出す総合的な情報処理能力を養っていきましょう。